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俺の力は異世界まで届くらしい  作者: 鈴代なずな
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1-4

 学校内では当然だが、妖精の存在は隠しておいた。

 通学用の鞄の中に押し込められるのを彼女はひどく嫌がったが、最終的には辞書と弁当箱を乗せることで、「むぎゅう」と潰れて観念したらしい。

(鞄の中に妖精……)

 現実感がないままそう考えて、ぼんやりと教室内を見やる。

 実に現実的な、一般的な高校の教室である。

 廊下側の真ん中の席という都合上、全体を見回すには身体をひねる必要があるが、後ろを向いたところで非現実が待っているわけではない。

 背面の黒板には校歌が記されていた――市立木香高校しりつもこうこうこう校歌。

「……言いづらい」

 まあこれも日常だ。

「ところで勇者様、わたしはどうしてこんな仕打ちを」

「地球がパニックになったら困るからだ」

 鞄の中から聞こえてきた声に、達真はぼんやりとしたまま答えた。

 まだホームルームも始まる前の時間であるため、教室内には何人か生徒が見えるだけだ。正面の席でもなければ、聞きとがめられる心配はない。

「誰と話してるの?」

 逆に言えば正面の席にいれば、こうして聞きとがめられるわけだが。

「……いたのか、お前」

 絶望的な心地で振り返る。そこには椅子の上で正座するようにこちらを向いている、女子生徒がいた。

 丸い目をした童顔の少女だ。黒髪が肩ほどまで伸びているが、それ以上にもそれ以下にもなったのを見たことがない。

 紺色のブレザーに赤いプリーツスカートという格好は、単に制服だ。

 流転千聡るてんちさと――達真は彼女の名前を思い浮かべた。昨日は魔王だったが、今は普通の女子高生である幼馴染の名前。

 彼女はどこか抗議する目を向けてくる。

「一緒に行こうと思ったら、ひとりで勝手に行っちゃったって聞いて、慌てて追いかけてきたのよ。間に合わなかったけど」

「色々あったんだよ、事情が」

「事情って?」

 その問いに答えるべきか、答えないべきか――いや答えないべきだろう。

 達真は悩む間も必要なくそう決断したが。

「ふふふ。しかし甘いですよ、勇者様。こんなのわたしにかかれば簡単に抜け出せて……」

 再び、鞄の中から声が聞こえてきた。

 そして思い出したように幼馴染の少女、千聡が言ってくる。

「あ、また! さっきもこの謎の声と話してたよね?」

「……俺はまだ、夢じゃないかって可能性を捨ててないんだ」

「現実ですよ! ここから出てそれを証明してあげ……あれ、出られない? な、なんで!? 出してー、だーしてー!」

 声はとうとう、鞄を内側から叩く物理力まで伴い始めた。机の横で、フックに引っ掛けられた鞄がばすんばすんっと揺れ始める。

「ねえ達真、どう見ても何かいるんだけど」

「…………」

「こうなったら妖精の必殺最終奥義、妖精突撃クラッシャーで!」

「ねえ達真、なんか妖精とか言ってるんだけど」

「ほら勇者様、早く出してくれないとクラッシャいますよ! そして勇者様の秘密の本に意外とサイズ差モノが多いことを――」

「ねえ達真、なんか勇者とか言ってるしサイズ差っていったい」

「だあああああ! 千聡、ちょっとこっちに来い!」

 達真は頭を抱えて叫ぶと、千聡の腕と自分の鞄とを同時に掴み取った。

 そして即座に、走り出す。

「え、ちょ、何よ、どうしたの!?」

「勇者様、なんか思いっ切り揺れてるんですけど!? そして角が当たるんですけど! 角プレイですか!?」

「ね、ねえ達真、角プレイっていったい」

「だーまーれー!」

 混乱するふたりを連れて、達真は校舎内を全力疾走していった。

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