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俺の力は異世界まで届くらしい  作者: 鈴代なずな
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1-3

「なんかこの棒、剣っぽいわね」

 勇者と魔王の戦いは、そんな何気ない一言によって始まってしまったのだ。

 木の棒、いや聖剣を手にして、少年は沈痛に言う。

「そうか……お前が魔王だったんだな!」

「え? な、何よ急に」

 聖剣を指差していた少女が驚く。それはそうだろう。まさかあんな一言で、自らの正体が発覚するとは思っていなかったのだろうから。

「くっ、今まで共に旅をしてきた仲間が実は魔王だったなんて! しかし俺にできることは、もはやお前が完全な魔王となってしまう前に殺してやることだけだ!」

 かくも運命とは残酷なものか。少年が聖剣を向けると、少女は動揺した声を発してきた。

「ちょ、ちょっと、いきなり変な設定で話を進めないでよ! これは、乗ればいいの? えぇと……」

 そしてもはや言い逃れはできないと悟り、とうとう彼女は言うのだ!

「ふ、ふふふ、流石は勇者だな! しかし気付かれてしまったのでは仕方ない。ゆくぞ! 火炎魔法、紅蓮凍滅破!」

 魔王は両手を突き出して叫ぶ! だがその時、勇者は驚いて制止に手を突き出していた!

「あ、待った待った。なんかずるいぞ、お前ばっかり。俺も格好良い技とか使いたいのに」

「使えばいいじゃない。好きなの考えて」

「考えてたんだけど、お前の技名の方が格好良いなぁと思って。せっかくだし、俺の技も考えてくれないか?」

「そ、そう? まあ達真がそう言うなら、考えてあげても……」

 そうして魔王は、どことなく照れた様子で思案し始めたのだが――

「さあ、今です勇者様! 必殺技を!」

 過去から現実へと引き戻す、妖精の声にそう言われ、達真はカッと目を見開いた。

 そして剣と共に身体を回転させながら、あの時と同じように叫ぶ!

「食らえ! 必殺、旋風螺旋剣!」

 その声は閑静な住宅街に、雄々しく響き……

 ……無闇に反響して、やがて消えていった。

「って、なんなんだよこれは!?」

 沈黙を挟んでから正気に返り、恥じらいと抗議に叫ぶ。

 しかし達真はその時に気付いた――目の前の妖精が消えている。

 いや、正しくは消えているというより、変化している。妖精がいた中空に、奇妙な渦が生まれていたのだ。

 手の平より大きい程度の、青黒い、不可思議な渦だ。空中に現れた穴のようにも思える。

「なんだこれ!?」

 驚愕し、思わず数歩後ずさる。しかしそれと同時、渦の中から声が聞こえてきた。

「やりました! 見事に魔物を倒してますよ!」

「……は?」

 理解できずに首を傾げると……穴から、にゅっと妖精が顔を出した。さらに続けて、何か肉の塊のようなものを持った腕を突き出してきて、

「見てください! これがたった今、勇者様の必殺技によって無残に細切れになった魔物の一部です!」

「何を持ってきてんだお前は!?」

「左の脇腹ですけど」

「部位の話じゃねえよ! 捨てろ、捨てろ!」

「わかりましたよう」

 なぜか不服に言うと、妖精は道端にぽいっと肉塊を放り投げた。

「そこにじゃねえよ!」

 ばぢゅんっとやたらに生々しい音を立てて叩き付けられた赤黒い肉は、血のような体液のような、奇妙な液体を飛び散らせたが……

「まあ、ともかくそういうことです」

 という妖精の一言によって、全て片付けられてしまった。

「どういうことか全くわからねえ……」

 視界の端で不気味な柔らかさを主張してくる生肉を見ないようにしながら、達真は呻く。

「俺は何をやらされたんだ? なんだったんだ?」

「あれこそまさに、勇者様の力なんです。つまり――」

 と、妖精は指を立てて。

「勇者様がこの地球でなんらかの必殺技を繰り出すと、その効果がわたしの住む世界、勇者様から見た異世界の中で発揮されるわけです」

「どういうことだよ!?」

「王様を吹き飛ばしたのも、この能力に他なりません。昨日辺り、使いましたよね?」

「まあ……同じことはやったけどさ」

 だとしたら王様も細切れになってしまったのか、などと思ってしまうが。

「しかしなんなんだよ、その能力は……」

「異世界に行ったら突然、異能に目覚めるって話がよくあるじゃないですか。あれみたいなもんですよ」

「ひどい説明な上に、ひどいグレードダウンだな」

 項垂れるが、妖精は心外なようだった。口を尖らせて言ってくる。

「何を言ってるんですか、むしろ完全な上位互換ですよ! よく考えてみてください。こっちは一方的に攻撃できるんですよ?」

「そりゃまあ……そうかもしれないけど」

 説得されながら、つい、ちらっと肉塊の方を見てしまう。それは明らかに、牛や豚のものではない。魔物の肉と言われれば、有無を言わさぬ説得力があった。

 なにしろそれは今、溶けて緑色の液体となりながら、側溝に流れ始めていたのだから。

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