51.僕からのプレゼントさ
「じゃあ、エル。魔力ってのは使うと無くなるのか?」
「うん。そうだね。使うと無くなるよ」
「魔力の仕組みはどうなっているんだ?」
「そうだね」
エルラインが言うには、魔力の量は各々決まっていて魔法を使うと魔力は減衰する。休息すれば、元々持っている魔力の最大量まで魔力は回復する。ゲームのMPみたいなもんだな。
じゃあ、魔力を多く込めたら魔法の威力が上がるのかというとそうでもない。魔法は「決められたパズルの形」を脳内でイメージして発射するだけだから、魔力の減りも一定になる。
ゲームで言うなら、ファイアの魔法はMP十消費、威力はダメージ二十といった感じで固定値ってことか。だから、「これはメラゾーマではない、メラだ」ってのは出来ない。
「ありがとう。人間の魔法についてだいたい分かって来た」
「それは良かったよ。何が目的だったんだい?」
「パルミラ聖教が魔の森に目をつけていてね。聖王国の兵士は、炎弾を全員使えると聞いたからね」
「ふうん。ダークエルフはともかく、魔法が使えない君たちがどう戦うのか見ものだね」
「まあ、数にもよるけどベリサリウス様ならば心配ないさ」
「微塵の揺らぎも君からは感じられないけど、よっぽどベリサリウスに信を置いてるんだね。確かに彼の武勇は群を抜いてるけど。君とベリサリウスだけじゃあね」
この言葉に俺は笑いを堪えられなかった。俺が突然声をあげて笑い出したのにエルラインは不思議そうな顔で俺を見ている。
ベリサリウスの武勇に信を置いているだと? 確かに彼の武勇は比類なきものだ。だがな、エルライン。ベリサリウスの真の能力とは、軍を率いてこそ。
彼の戦術能力は筆舌に尽くしがたい。もし戦争となれば、彼の個人武勇なんてちっぽけなものだったと気が付くさ。
「ああ。すまない。君を馬鹿にしたわけじゃない。いずれ分かるさ」
「ふうん。なんだか面白そうだね」
「ともかく、兵士の炎弾は威力は一定で、個々人の研磨により連射速度が変わり、弾数も違うってことだな」
「うん。そうだね。一般的な人間だと十発くらいかなあ」
「ありがとう。とても参考になったよ」
「どういたしまして」
エルラインの話をまとめると、兵士の炎弾の撃てる数はだいたい十発。威力はこの前、飛龍の上でオルテガから撃たれた炎弾から見るに、矢よりよほど威力は高い。なにより矢と違い、練度が無くとも狙ったところに正確に飛んでいくのが脅威だ。
射程距離は弓矢くらい。弾数が少ないことが救いだな。
「エル。俺でも魔法を使うことが出来るのか?」
「ん。そうだね。君は魔力が無いに等しいから、魔力を伸ばさないとだね」
「魔力って増えるものなのか?」
「普通は難しいね。稀に成長と共に魔力が伸びる人間もいるけど。君はすでに体の成長は終わってるだろう」
鏡がないからハッキリと自分の姿を確認できたわけではないけど、プロコピウスの身体はベリサリウスよりは年下に思われる。しかし、二十を下回ることは無いだろう。
つまり、成長期はとっくに終わっているってことだ。
「そうか。魔法が使えないのは残念だよ」
「使えないってこともないさ。ちょっと考えてみるよ」
「本当か!」
「そのかわりといっては何だけど。一つ頼みを聞いてくれないかな?」
「俺で出来ることなら......まあ言ってみてくれよ」
「うん。もし聖教との戦闘が起こったら、僕にも見学させて欲しいんだけど」
「ベリサリウス様に聞いてみる。邪魔しなければ問題無いと思うけどね」
「ベリサリウスが決めているのか。なら、彼にもプレゼントを準備しないとだね」
クスクスといたずらっ子のような笑みを浮かべ、エルラインは何か思案している。ベリサリウスは冗談が通じないから、変な事しないでくれよ。俺じゃあ収拾つけれないから!
◇◇◇◇◇
さっそくベリサリウスへお願いを聞いてもらいたいからと、エルラインはプレゼントを渡したいと俺に伝えてきたので、俺はベリサリウスを呼び、ローマ中央にある道路の中央十字路まで来ていた。
わざわざこんな広いところで何用なんだよ。
「ベリサリウス様、彼がエルラインです」
俺はベリサリウスにエルラインを紹介すると、彼もエルラインへ挨拶をする。
「エルライン。私はローマのベリサリウス。よろしく頼む」
「ベリサリウス。こちらこそ。よろしく。僕はエルライン」
ベリサリウスの挨拶に、エルラインはにこやかに応じる。
「先ほど歩きながらだが、お主の願いは聞いた。特に問題なかろう。プロコピウスに付くがよい」
「ありがとう。ベリサリウス。ピウスの傍とは特等席じゃないか」
「お主も分かっておるな」
クスクスと笑い声を上げるエルラインとカカカと豪快な笑い声を出すベリサリウス。俺は全く面白くないんだけど。特等席とは何させるの? ねえ?
俺ローマで待機がいいんですけど。
「ああ。そうそう。ベリサリウス。君へのお礼を出す為に、広いところへ来てもらったんだ」
エルラインはポンと手を打ち、大きなルビーが先端にあしどられた杖を取り出すと、それを軽く振るう。
すると、何もない空間に歪みが生じ、次の瞬間......
――飛龍が出現した。
「おお!」
ベリサリウスは感嘆の声をあげる。
「これが僕からベリサリウスへのプレゼントだよ。気に入ってくれたかな?」
「ああ。気に入ったとも! 飛龍とは! ありがたく使わせてもらう!」
ベリサリウスは感激した様子で、エルラインへ熱の籠った礼を述べる。まさかプレゼントが飛龍とは驚きだ! 今貰って一番嬉しい生物だろうな、飛龍は。
現状飛龍は、以前捕獲したシロと元からいる一匹の合計二匹。リザードマンの村へ飛龍を返却しようと動いたが、まだ俺達に必要だろうと引き続き借り受けている。
今回の飛龍を追加すると、飛龍は合計三匹だ。飛龍は輸送にも空からの監視にも使える非常に有用なモンスターだからね。
しかし、俺達の喜びに水を差すかのようにハーピーが深刻な顔で地に降り立つ。
息も絶え絶えなハーピーは、それでもベリサリウスへ向き直り口を開く。
「ベ、ベリサリウス様。人間の集団が森へ......」
「ほう。報告ご苦労だった。暫し休むがいい」
「あ、ありがとうございます」
ハーピーは疲れの為、その場へへたり込んでしまう。
いよいよ来たのか? パルミラ聖教の聖教騎士団が......
「ベリサリウス様。敵情の調査をエリスさんにすぐ依頼しに行きます」
「うむ。任せたぞ。プロコピウス。私へ風の精霊術で逐次連絡するように伝えてくれ」
「了解しました!」
俺はベリサリウスに背を向け、エリスのいるハーピー達の詰め所へと駆け始める。ああ。飛龍の事も対応しないとだった。
俺は走りながら大声で、「リザードマンのうち誰でもいい。十字路にいる飛龍の対応を頼む」と叫ぶ。これで、誰かが聞き取り、リザードマンへすぐ伝わるだろう。
「ふうん。なんだか面白いことになってきたね」
「エル! いたのかよ」
「うん。さっきべリサリウスが言っていただろう。君の傍についてていいって」
そういえばそんなこと言っていたな。まあいい。今は急いでエリスの元へ行かねば!
走ることニ分。ちょうど向かいからエリスが走って来る。おっぱいをゆさゆさと揺らしながら。
「エリスさん! ちょうどよかった」
「プロなんとかさん、さっきベリサリウス様には伝えたけど。聖教騎士団が魔の森へ来たわよ。聖教の紋章を着けていたわ」
やはり聖教騎士団だったか! 冒険者の集団の可能性もあったが、確率は低いと思っていた。彼らは集団行動を余りしないようで、俺達が空から観察した限りこれまで十人以上の集団になったことはなかった。
「数はだいたいどれくらいなんですか?」
「百よ!」
オーガより強い炎弾という遠距離武器を持つ集団が百人だと! 対応できるのか俺達に......いやベリサリウスならきっと。
いよいよクライマックスが近づいてまいりました。
日付ミスで投稿しちゃいました。
今気がつくという。
明日は恐らく投稿無になりそうです……すいません。




