46.風車の開発は任せた
飛龍の「シロ」を連れ帰ってから数日が過ぎた。シロを連れて戻ったら既にベリサリウスは掃討作戦を「完了」させていた! 試しに一度作戦実施してみるって言ってたのに半日で終わらせるとか笑えない。
後は周辺地域の定期的な空からのパトロールで、難敵が発見されればベリサリウスが出ればいい状況までローマ周辺は落ち着いたのだ。今後ベリサリウスは猫耳族と共に戦闘訓練と狩りを主導することになった。
パトロールを行うハーピー達のまとめ役としてエリスが見ることになり、何かあればベリサリウスとパオラに状況が伝わることになる。パオラはこれまでエリスがやっていたようにローマに待機し、不測の事態があった場合にはエリスとベリサリウスへ連絡を行う。
一応これにてローマの防備体制は整ったわけだ。ただ、猫耳族は十五名程度しかいないから、いざ大規模な戦闘となるともちろん彼らだけでは手に負えない。
他の種族はローマ建築に従事してもらっているが、折を見て戦闘訓練を実施したほうがいいだろう。小鬼の鍛冶を行っている者は、武器も少しずつ造るようにしてもらう予定だけど、まだ少し時間がかかるだろう。
一方ローマ建築に関してはというと、小鬼は先ほどの鍛冶に加え、革細工などの加工業、家建築の指揮を任している。リザードマンはレンガ作成と家建築。オークには鉱石や砂利を掘る作業。犬耳族とマッスルブには道の造成作業を任せている。
ダークエルフで青の髪をしたカチュアには蚕の育成を試行してもらっているが、彼女だけでなく小鬼を数名つけた。街建築グループには時間を少しづつ作ってもらって、キャッサバ畑も見てもらっている。リザードマンには片手間で飛龍の飼育も頼んでいるんだ。
あと一か月もすれば家建築作業は落ち着くだろうから、そうなればリザードマンに牧場や農作業を任せようと思っている。まあ、他の種族もいずれはバラけさせていろんな業務に従事してもらおう。
俺はと言えば、小鬼の村長から風車が出来たと連絡を受けたのでティモタと一緒に見に行くことになった。
一メートルほどの実験用風車も数度試行錯誤して、今度はちゃんと風に回ればいいなあと思っている。
「ピウスさん、風車は何に使うんですか?」
「ティモタは水車を見たことはある? あれと似たような事ともう一つ考えている」
「ああ。粉ひき水車は見たことがあります。水でなく風の力で粉ひきをするんですか?」
「今のところ、小麦もないから粉ひきの予定はないけど、水をくみ上げることはできないかと思ってね」
「なるほど。水路を作りたいんですね。もう一つとは何ですか?」
「汚物処理に使えないかと思ってるんだ。汚物を一か所に集めて水と混ぜ、風車を回転させて水中の羽を回し空気を送り込む」
「面白いことを考えるんですね。どんな仕組みなんですか?」
俺はティモタに、生き物が分解される仕組みを簡単に説明する。分解を促進するために空気を送るのだと言った時には興味深そうにうんうん頷いていた。
彼は好奇心の塊だから、俺にどんどん疑問点を聞いて来る。俺の浅い知識であってもティモタや小鬼のライチらが消化し昇華してくれると嬉しいなあ。
彼は技術レベルの差があるとはいえ、俺の生きた時代でいう学者みたいなものだ。きっかけさえあれば俺より遥かに知識を応用してくれると思ってる。だからこそ、俺は知っている限り彼らに知識を与えたいんだよ。
俺はただのリーマンだったから......彼らほど知識を活かすことはできないだろう。でもそれでいいんだ。俺は俺の出来ることをやればいい。
「なるほど。微生物による分解ですか。空気を使って微生物が汚物を食べ、土に変えると」
「ああ。理解が速くてビックリだよ」
「土の精霊術でも汚物を分解できます。これは微生物を一気に増大させているのかもしれませんね」
「エルフの村では土の精霊術で汚物を処理しているのか?」
「はい。そうです。汚物をまとめ土の精霊術で一気に分解します。ただ、水気が多すぎると分解の進みがよくありません」
「空気不足で微生物の促進が止まったのかな」
「ピウスさんの知識が正しいとすればその通りと思います。あなたの知識は実に面白い」
「ローマでも土魔法で汚物を分解できればいいんだけどなあ。精霊術を使える者はほんの一握りだからそうはいかないだろ」
「そうですね。ただ、定期的に私が汚物を集めたプールに土の精霊術を施行しましょう」
「そうしてもらうと助かるよ」
話をしているうちに村長の元へ辿り着き、俺達は挨拶を交わす。村長が手に持つ実験用の風車はティモタに見てもらい、風車とはどのようなものか把握してもらう。
「なるほど。これは興味深いですね」
風車をつぶさに観察しながら、ティモタは呟く。
「まだまだ、風の力を受ける性能が低いんだよ」
「ピウスさん、風車作成ですが、私にも協力させていただけませんか?」
「もちろん構わない。いいですよね? 村長殿?」
「ええ。もちろんですぞ。それならライチとティモタに任せますぞ」
村長が快活に笑みを浮かべ、ライチをつけてくれると申し出てくれた。学者気質の二人がタッグを組んで風車開発か。これは期待できる。
「村長殿、ありがとうございます。ティモタ。ライチと協力して風車と汚物処理の実験を任せていいか?」
「おお。モルタルの時にいらっしゃったライチさんですか。私のほうからお願いしたいくらいです」
風車だけではなく、彼らにはいずれ水道橋や上水道、下水道の研究もしてもらいたい。きっと彼らなら抑えきれないほどの貪欲な好奇心で実現すると思うんだ。
残す危急の件は食料問題だけど、自生しているキャッサバはまだまだ膨大な量があるし、狩猟でも続々と動物とモンスターが取得できている。ある程度安全確保が出来た日からハーピー達に空から食べれる木の実や果物が無いかも捜索させているからますます食料は増えると思う。
しかしながら、今後の人口増加を考慮すると、やはり農耕が必要だ。ローマ周辺で採れる作物を何とか農業で増やすことが出来れば完全に食料問題は安定するだろう。
キャッサバや麻で分かるように、魔の森――少なくともローマ周辺の気候は亜熱帯性気候だから自生している食料はきっと豊富に違いない。農耕で飢饉が起きても狩猟と採取で凌ぐことが出来るだろう。
だからこそ、普段は狩猟と採集は控え目にしたいんだよなあ。
確か明日はガイア達と会う日だ。果たして人間達に先日のベリサリウスによる一つ目巨人サイクロプス討伐はどれほど話題になっているのか? また人間達のこちらに対する反応はどうなのか。
できれば友好的に事を進めていきたいなあ。無視してくれてもいい。
◇◇◇◇◇
――翌日
ベリサリウスとティンと俺は飛龍「シロ」に乗り、ハーピーから連絡を受けた場所へ向かっている。ハーピーはすぐにガイア達を発見してくれたようでエリスを通じてベリサリウスに連絡が来た。
ちゃんと連絡体制も機能しているようで何よりだ。まあ、エリスは嬉々としてベリサリウスに風の精霊術を使っていることが予想されるんだけど......
「ベリサリウス様、少し楽しみですね」
「ああ。そうだな。プロコピウス」
俺はベリサリウスとたわいない話をしながら現場に到着すると、待っていたのは俺が知っている三人に加え、知らない人間の少女が俺達を待っていた。
女のほうはまだ少女といっていい年齢で、小柄ながらも身の丈ほどある両手斧を背に携え、上半身には胸を覆う革鎧。下半身は藍色のスカートとスカートを覆う革の段ビラを装着していた。
髪の色は茶色で長い髪を頭頂部でアップにしている。何より特徴的なのは胸だ。見事に胸が無い。俺好みだ。
少女は俺達が到着すると不躾にこう言い放った。
「どうか私と勝負してくれないだろうか?」




