32.キャッサバ
その晩、マッスルブ達が集めてくれたキャッサバを加工することにした。キャッサバの生育に必要なのは茎だけだから、食べれる根は毒抜きしてしまおうってわけだ。
小鬼の村民に大鍋をいくつか出してもらい、みんなでキャッサバの皮を剥く。皮を剥いたキャッサバを半分はすり潰し布を巻いて置いておく。もう一つは刻んで大鍋に入れグツグツ煮込む。
煮込んだら井戸水に晒し徐毒する。いつの間にか井戸を一つ掘っていたことに驚いたが、生きていく為には水が必要なので当然と言えば当然か。ここは石灰岩質だから、井戸水は簡単に出るだろうし。
水に晒したキャッサバに少しお湯を混ぜ、捏ねるとフフと呼ばれるマッシュポテトのような食べ物が完成する。
味をつける調味料が何もないからどうしたものかと思ったけど、小鬼の村民が岩塩を細かく砕いたものを出してくれた。
「では、みなさん。先に問題ないか俺が食べますので、その後に食べてください」
俺がローマの街民全員の前で宣言すると、先に「俺たちが食べる」と俺が食べるのを遮ってきた。
「ピウス様が先に食べなくていいです! 私が先に!」
全員が気が付くより早くティンがフフを口に運んでしまう。
固唾を飲み見守るローマの街民......
「甘くておいしいです!」
笑顔でティンが俺を見やると、街民から歓声があがる。中毒症状ってすぐに出るものだっけ? よくわからなかったけどすでにみんな食べ始めている。
マ、マジかよ。ま、まあ大丈夫だろ......
キャッサバで出来たフフを口に運んでみると、サツマイモより甘味が少ないジャガイモといった風味だった。食感は柔らかい餅のような感じだ。うん。食べれる。塩を少し振って食べてみると、吹かしイモを食べてるような気分になる。
今後キャッサバを主食に、キノコや山菜、狩猟か牧畜した草食竜辺りを食べていけば当座は凌げるだろう。
できれば、牛や鶏が育てればさらに食料事情は改善されるけど。こいつらがこの世界に居るのかも不明だからなあ。
山菜類からも育てれそうなものがあれば、畑をつくりたいな。とにかく今はキャッサバ畑だな。ノウハウが全くないところからの育成だから上手くいくか未知数だ。
しかし、キャッサバは最も育てやすい食物のうちの一つと言われてるから、何とかなると俺は楽観視してるんだけど。
「さすがプロコピウス。一夜にして食料を発見するとは。お前は万の兵士にも勝るな」
ベリサリウスが上機嫌で俺をべた褒めしてきたが、俺は照れで面と向かって彼と目を合わせれなくなってしまった。
「いえ。たまたま発見できただけです」
「ははは。謙遜せずともよい。お前がいなければローマ建築など私は言わなかったぞ」
「滅相もございません」
照れる。そんな褒めないでくれ! 俺がタジタジになっていると、横に座っていたティンも目を輝かせているではないか。
「ピウス様! おいしいし、一杯育てたら皆飢えずに暮らせますね! 夢みたいです!」
「飢えで苦しむことは割にあるのか?」
「ええ。狩猟は危険なモンスターが居座ったりすると難しくなりますし。今はベリサリウス様がいらっしゃるので、豊富に食料が集まりますけど」
「そうか。キャッサバがたくさん育つといいな。いや育てよう!」
「はい!」
ティンは笑顔で俺に力強く答えると、フフをほうばる。慌てて食べたみたいで喉に詰まらせているが......頑張り屋で少しおっちょこちょいな彼女は好感が持てる。
俺は微笑ましくなって、思わず彼女の頭を撫でながら、水の入ったコップを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
水を飲み干して、真っ赤になりながらティンは俺に礼を言った。
小鬼の村が焼けてローマを建設することになり、落ち着く暇の無かった俺たちだけど、ようやくみんな笑顔を取り戻そうとしている。
今はまだ仮説住宅でさえままならないけど、確かにそこには生活が芽吹いていた。笑い声があった。俺たちは明日も生きていける、そう確信した夜だったんだ。
◇◇◇◇◇
――翌朝
ハーピー達が昼前に到着するとさっそく、彼女たちに冒険者への警戒へ当たってもらうことにした。ティンから聞いた話だが、ハーピー族は女性のみで構成されている種族らしく、子供は他の亜人と結婚して生まれるらしい。
ハーピーの子供は女だとハーピーに。男だと結婚相手の種族になるそうだ。
俺はティンを伴いハーピー達と仕事内容について話をするため、彼女らを一同に集めていた。
「集まってもらってありがとうございます。君たちの任務について話をする」
集まったハーピーは全部で十名。数としては充分だ。これだけいれば迅速に情報伝達ができるだろう。
「先ほど少し触れたが、ローマの周辺を空から巡回し人間や危険なモンスターを発見したら報告して欲しい。俺が居なければベリサリウス様。二人とも居なければ小鬼の村長へ報告してくれ」
「分かりました」
代表して、先日俺たちに助けを求めに来たハーピーが俺に応対する。しかし、彼女は何か言いたそうな顔をしている。
「どうした? 何か意見があるなら聞こう」
「私たちの仕事はそれだけでいいんでしょうか?」
おずおずとハーピーの代表は俺に聞いて来るが、自分たちの重要性が分かっていないんだろうか? 空からの警戒はある意味ローマの生命線だぞ。非常に重要な任務だ。
いくら街を完成させたとしても、敵襲に気が付かず襲われては全てが水泡に帰す。索敵は周囲の安全性が確保されていない現状必須の事項なんだけど......
「ああ。この任務こそローマの明日がかかっていると言っても過言ではない。頑張ってほしい」
「プロコピウス様。あなた様は何て慈悲深い。空を飛ぶことしかできないハーピーにそう言っていただけるとは」
何故か涙を流され感謝されてしまった。ま、まあこの様子なら頑張ってくれるだろう......
「僭越ながらプロコピウス様。もし夜伽の命がございましたら申し付けください。ベリサリウス様とあなた様ならば喜んでここの者はお相手させていただきます」
ぎょっとして彼女らを見回すと、全員少し頬を赤らめふさいでいる様子......いやいやじゃなくまんざらでもなさそうだ。何が彼女達をそうさせるのか分からないけど、ベリサリウスは興味ないだろう。
だって彼女たちはみんなナイスバディなんだもの。豚みたいな女が好きなベリサリウスだと見向きもしない。俺もベリサリウスが夜伽をしないのに俺だけが呼ぶなんてことができるわけがないから、我慢となる。まあ俺も大きい胸は好みではないけどね!
でも仮にだな、豚のような女性種族が居たとする。ベリサリウスが嬉々として夜に呼んだとしよう。
ならプロコピウスにもってならないか? そうなると悪夢だよ! まだお預けのほうが百倍ましだ。
そう考えたら、お預けなんて大したことないと思えるようになった。
「いや、君たちの任務を全うしてくれるだけでよい。何も体を差し出すことは求めていない」
「プロコピウス様......」
ものすごく熱っぽい目でハーピーが見つめてくる。うああ。逆に火をつけちゃったみたいだよ。
こういう時こそ同じハーピーのティンに何とかしてもらおうと、彼女に目線を移すと、キラキラした目で俺を見つめていた。これはダメだ。口を開かすと斜め上に行きそうな雰囲気がプンプンする。
「では、これにて解散とする。困ったことがあれば、私かティンに言うがいい」
「分かりました」
俺はハーピー達の熱い視線を背中に感じながら、ティンを連れて持ち場に戻るのだった。少しハーピー族についてティンに詳しく聞いたほうが良さそうだな。俺の常識と彼女らの常識はかなりズレてる気がする......




