ジャロンという理論
ビデオカメラのスイッチを入れる。研究室の机のうえでジャロン・パーカーは撮影をはじめる。
「おはよう、諸君。わたしはジャロン・パーカー、ゲイム研究者だ。この二〇六三年ではすでにゲイムはスポーツよりもおおきな盛りあがりを見せている。ゲイムなくしてこの時代を語ることはできないだろう。そこでわたしはひとつの巨大オンラインゲイムに注目した。S・I。サイレント・イロウションだ。このS・Iはクリア方法がわからない。一〇年間ものあいだ、ゲーム世界を脱出することのできないプレイヤーもあらわれている。ストレスなどが原因で死に至っているプレイヤーもあらわれだしている現状だ。わたしは非力だ。おそらく、いやぜったいにわたしひとりのちからでそれを解決することはかなわないだろう。しかし、観察することは可能だ。わたしはS・Iを観察しつづけてみようと決めた。そうすることしかできないし、わたしはそうするべきなのだと思っているのだ。AIロボットを一台、購入した。名はマオ。マオには自由に行動してもらう。おそらくゲイム内でもっとも有効な手段で観察をおこないはじめてくれるだろう。さて、今日のところはこれで失礼する。これはいずれどこかで見るかもしれないあなたに向けたメッセージだ。さようなら。ジャロン・パーカーより」