ギルド・カリオストロ
カリオストロ街のギルド・カリオストロは、戦闘メンバーをあつめるギルドだ。商業系のメンバーもあつめてはいるが、だいたいのプレイヤーが戦闘系なので自然とそうなる。
綾乃美琴はカリオストロのメンバーのひとりだ。ゲームをはじめた当初は所属していなかったが、スカウトされ、それからずっとこのギルドにいる。
ギルドメンバーといっしょにモンスターを狩ったりするのが、綾乃美琴の毎日である。ギルドメンバーは、裏切らないので、安心感を持って狩り生活を送れるのだ。
ギルドメンバーたちはみな、このSIを出ることを目標にがんばっている。そのために日々、努力している。レベル上げし、レアアイテムをドロップしようとしている。
だが、なかなかクリア情報というものは出回ってこず、綾乃美琴がゲームに参加してからすでに三年を経過しようとしていた。
SI自体はもう、一〇年になる。その一〇年間、だれひとりとしてゲームクリアにまでは至っていないという。
ゲームクリアなんて存在しないのではないか、という噂もひろまっている。しかし、なにかを考えるにせよ、とにかく日々、狩りに励まなくてはならない。
今日も、綾乃美琴はギルドメンバーたちとパーティを組み、街へと繰り出す。毎日、おなじように行動しているわけではない。今日はメンバーたちと街をうろつき、狩り情報をあつめながら、夜にはどこかのダンジョンなどに入る予定である。
コロシアムで、おもしろいことをおこなっているという話を聞いた。綾乃美琴たちはそのコロシアムにすこし足を運んでみることにする。
どこかのだれかが、六時間もブルー・ドラゴンと戦っているらしい。
会場内に足を踏み入れると、ドラゴンの鳴き声がひびきわたってきた。
しかし、観客たちはあまり盛りあがっていない。
無理もないだろう。
六時間も戦っているのに、観客たちが盛りあがられるはずはない。
応援する側は疲れはじめ、静かにその様子をながめているだけである。
「レベル5だぞ、あいつ」
ギルドメンバーの男が笑った。
「キュアスペル、何回使えるんだろうな」
「おおくても、三回が限度だろ」
「で、六時間か?」
「やべえな」
「かなり」
黒髪の少年がたったひとりで六時間もブルー・ドラゴンと戦い続けていたということを知り、綾乃美琴もそれはすごいかもと思った。
闘技電子フィールドを見下ろすと、そこに立っていた少年は綾乃美琴の知っている少年だった。
「あ、あいつ……」
「なんだ、知ってんのか?」
「なんでもないわ」
「そうか」
なんであのバカは六時間も100レベルのモンスターと戦い続けているのかしら……と綾乃美琴は呆れた。
ただのバカとしか思えない。
あれが正真正銘のバカという存在なのだろう。
三〇分が経った。
登録ネーム『ルルア』という少年がいままさにブルー・ドラゴンを仕留めようとしていた。
観客たちが盛りあがりはじめている。
本当にすごい盛りあがり、まるでトーナメントの決勝戦でもおこなっているかのような盛りあがりかただった。
闘技電子フィールドはここのほかにもある。もしもここしかないのなら、六時間も戦闘はできないのだ。つぎの参加者が順番を待っているからである。闘技電子フィールドが複数、存在するおかげで、ルルアはブルー・ドラゴンと長時間、戦うことができたのである。
むしろ長時間の戦闘をこのむ参加者はごく稀であり、そういった参加者をコロシアム側はずっと待っていたとも言えるかもしれない。
ルルアがドラゴンを仕留めた。
刀の使いかたなど知らないと言っていた少年は、風もおこさぬほどの静寂の構えから、迫ってきたドラゴンの頭部を一刀両断した。
会場が一斉に湧きあがった。とてつもない歓声と拍手だ。
ルルアに経験値が入った。
砂漠のミスターを倒しただけの5レベルは一気に上昇し、70レベルとなった。
ルルアがばたりと倒れた。
あお向けとなり、突き抜けた青い空を見上げる。
「か、勝ってしまったな、あいつ……」
「六時間四十四分。こりゃあすげえ記録つくったぜ……」
「時間も技術もスタミナもな……」
「スカウトするしかない……。スカウトするしかないだろ!」
ギルドメンバーの数人が駆け出した。
綾乃美琴は呆然としていた。
「な、なんなのよ、あいつ……」