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狙撃と疾走。そして陰謀


 敵との交戦を決めたルマイダは、ナダロスに全力疾走させて真っ直ぐ待ち伏せ地点を目指した。

 敵の武装に投射兵器《置箱》があるとわかっていながら、あえて罠に飛び込むのはなんとも漢らしい。

 対して俺は、今いる丘の左側、南に向かって低い姿勢で移動している。その方向の中腹辺りには小規模な林があった。


 高所からの射撃による待ち伏せというのはセオリーに忠実だが、そんなもので一流の獣操術師は倒せない。

 奇襲や飛び道具への対処法くらいは持っているのが普通だ。戦闘で獣操術師を倒そうと思うなら、魔獣を使用するのが基本である。


 訓練を受けた人間がそれを理解していないはずはない。合計でも九つ程度の弓と置箱だけでルマイダを殺そうとは思っていないだろう。

 そういったところから、向こうの丘の十一人は弾幕を張って足止めするための部隊であり、本命はこっちの林に隠れていると判断した。

 明確な根拠があるわけではないので、あくまで経験則による勘でしかないが。


 ある程度林に近付いたところで、向こうの丘から切り裂くような破裂音が聞こえてきた。迫るルマイダに対して置箱を使ったか。

 置箱は火薬を使う兵器ではないが、発射される金属矢ボルトは音速を超えるので、衝撃波による高音は発生する。


 俺が目指す林まで残り数百メートルほど。下りの斜面ということを加味しても、本気で走れば到達まで数十秒だ。

 置箱の発射音はいい合図だと思いながら、俺は姿勢を高くして疾走を始めた。前方に落下するようなイメージで駆け下りる。


 斜面を走って下るというのは大抵の大型動物が苦手とする行動であり、人間もその例に漏れない。

 しかし訓練次第で、ある程度は負担を減らすことができる。ポイントは足でブレーキをかけないようにすること。

 俺の場合は一歩一歩跳ねるような感覚で足を動かすようにしている。山下りにおける師匠は、カモシカっぽい魔獣だった。


 さっきまでと違い、今の俺はとても目立っているはずだ。ルマイダの方を注視していたとしても視界には入るだろう。

 そう確信したところで俺は減速し、斜面を滑るようにして停止した。わざと肩を上下に揺らし、汗を拭う動作をする。


 そして二つ数えてから真横に跳ね飛び、体を投げ出す。ほぼ同時に林から爆音が聞こえてきた。

 俺が一瞬前までいた場所に何かが着弾し、派手に土が舞い上がる。大当たりだ。

 予想通り、狙撃能力を持った敵がこっちにも潜んでいる。


 すぐさま立ち上がり、再び走り出す。今度はやや速度を抑える代わりに、不規則な軌道を描いて接近する。

 二発目が飛んできたが、狙いにくい高所へ向けて、動き回る物に当てるのはかなり難しい。まるで的外れな場所に大穴があく。


 林までは目算で百メートルを切った。獣操術師とその使獣の姿を視認する。ローブを纏った人物と、巨大な赤茶色の牛。

 その牛は大口を開けてこちらを向いているように見える。術師が牛の口元に手をやって何かをしていた。装填・・だな。


 俺は斜面から飛び出す五十センチメートルほどの岩に足をかけて急停止した。

 膝が軋むような感触が僅かにあったが、この程度で壊れる鍛え方はしていない。


 呼吸を調整して集中力を上げる。

 術師は林の木陰に隠れたらしく、姿は確認できない。よく見れば、牛の背には何かが乗っている。


 牛の首の向きを注視してタイミングを探り、ガチン、と頭部がロックされるように固まったのを見て、俺は真後ろへ倒れた。

 三度目の砲声が響き、俺の周囲一帯の斜面が掘り返されるように弾け飛ぶ。足元の岩もかなり削られたようだ。

 降りかかる土や破片を腕でガードしつつ、素早く体を起こす。


 さっきまでの狙撃用弾ならこのくらいの岩はぶち抜いてきただろうが、散弾なら止まる。近距離戦用に弾を変えたのが丸わかりだ。

 俺は全速力で距離を詰める。残り数十メートル。接触まで十秒未満。次の砲撃が最後。


 今までより遥かに短い間隔で四発目が放たれた。狙いを付けず適当に撃ったのだろう。散弾ならそれでも当てられるという考えか。

 だが俺は、発射前にサッカー選手ばりのスライディングで地面を滑り、散弾の効果範囲から脱していた。弾も爆轟も当たることなく通り過ぎる。


 砲哮牛ほうこうぎゅうが砲声を放つ際には、体内の火袋から口内までを強化、保護するために、頭部が発射方向に対して固定される。

 あれが砲哮牛だとわかってしまえば、射線と激発の瞬間を捉えるのは容易い。直前の挙動を見ればいいだけだ。

 加えて、次発を撃つにはタメが必要となる。体内にある火袋を混合可燃ガスで満たすまで数秒。弾込めを含めれば十秒近い。


 俺は四秒で残りの距離を潰す。ナイフを抜いて牛に飛びかかり、その背に乗っていたギョロ目の鳥の首を抉った。

 おそらくは視力に優れた鳥の魔獣を観測手スポッター兼、実質の狙撃手スナイパーとして使っていたのだろう。牛は指示がなければ何もしないはず。

 こういう運用は以前にも見たことがある。魔獣の特技を組み合わせ、より大きな効果を発揮するのは獣操術師の基本であり奥義だ。


 牛が動かなくなったのを確認し、術や飛び道具による攻撃を警戒しながら術師を探すと、敵は既に背を向けて逃走に移っていた。

 その逃げ方があまりにもトロかったので、思わずナイフを投げ付けて転ばせる。


 俺は背中に刺さったナイフを抜こうともがいている術師へ歩み寄り、話しかけてみた。


「大丈夫か?」

「……皮肉にしても品性が感じられないな。格好通りの蛮人か」


 なにやら知的な喋り方をする奴だった。上流階級っぽい発音だ。

 というか別に皮肉のつもりはなかったのだが、そう受け取られてしまったらしい。


「格好のことは言うなよ。これには俺も悩んでるとこだ。で、お前はどこの誰なわけ?」

「語るはずがなかろう」


 術師は顔を歪めながらも無理やり立ち上がり、懐に手を入れて構えをとる。戦意満々といったところか。

 互いの距離は二メートル半ば。一呼吸で殺せてしまう間合いなので脅威には感じない。無益な殺生は避けたいものだ。


「別に語りたくないなら語らなくていいけどさ、この距離で野蛮人に勝てると思うのか?」

「せいぜい驕ったまま死ぬがいい」

「わかった。きっちり殺してやる」


 そう答え、術師が懐から手を引き抜く前に二歩踏み込み、首をへし折った。

 戦いの中で死にたいと言うのなら、それを尊重してやるのが矛を交えた相手への情けというものだろう。


 俺は術師の体を地面に横たえたあと、運用者ハンドラーを失って動けなくなっている牛へと向き直る。

 牛の口からは砲身らしきものが飛び出していた。少し近付いて確認すると、上顎と砲身が固定されているのがわかる。

 体内の火袋でガスを爆発させ、指向性の衝撃波を口から放つのが砲哮牛の特性だ。その圧力で弾を飛ばせるよう改造したらしい。


「ひでーことするもんだな」


 これでは草も食べられない。餌は流動食でも与えられていたのだろうか。あるいは戦闘時以外は外すことができるのか。

 俺はなんとか砲身を外せないかと思ったが、牛の口元でゴチャゴチャやっている最中に咆哮されたら死んでしまうので諦める。


 これはもう殺してやるしかないだろう。死体となった術師の背中からナイフを抜き取り、ついでに持ち物を漁った。

 すると都合よく刃渡り三十センチメートルくらいの短剣を持っていたので、これを使うことにする。


「餓死は辛いだろうしな。放置するのもアレだから楽にしてやるよ」


 俺は牛から十数メートルの距離を取り、右手に持ったナイフを投げ付ける。狙い違わず右目に突き刺さった。

 牛は驚き、反射的に口から衝撃波を放つ。地面が爆散して大きく抉れた。弾がなくとも凄まじい威力だ。


 しかしこれで次に撃てるのは数秒後。俺は潰れた右目の死角から素早く肉薄し、短剣を眼孔に突き立てて脳を破壊した。

 全身を震わせながらぶっ倒れた牛が動かなくなるのを確認し、黙祷を捧げる。


 とりあえず自分の仕事は全て済んだので、ルマイダがいるはずの丘へと向かうことにする。

 もう置箱の射撃音は鳴っていない。俺は彼女の勝利を疑っていなかった。


――――


「とまあ、こっちはそんな感じで片付いた」

「……使獣の改造は珍しくないことだけど、やっぱり聞くと嫌な気分になるね」

「そうだな」

「でも楽にしてあげたならよかったよ。そのままだったら凄く苦しんで死んでただろうから」

「ならいいんだけどな。勢いで殺っちゃっただけに、思うところはある」


 合流地点に辿り着いた俺は、敵の尋問を終えたらしいルマイダと話をしつつ、倒れている連中から装備の剥ぎ取りを行っていた。

 ルマイダの筋力では、大の男から武具を外すのは難しかったらしい。

 痙攣しながら泡を吹いていたり、幸せそうな顔でうわ言を繰り返しているので正直触りたくないが、仕方ない。

 手早く武器や鎧などを外したあと、設置されていた置箱も破壊しておく。


「ところで、この幸せそうな顔して倒れてる奴らは秘術でこうなったのか?」


 ハッピーにトリップしている男たちが気になったので、軽い気持ちで聞いてみた。

 明らかに薬物による多幸作用を受けている。多分幻覚も見てるな。


「……うん、まあ」

「ああ、悪い」


 ルマイダの表情が微妙に曇ったのを見て俺は自分の不明を察し、さっさと謝ってしまう。

 秘術は旧白中海(はくちゅうかい)文明語の『秘するべき知恵』を語源とするだけあり、基本的にその術体系は門外不出。弟子でもない他人に語る物ではない。

 最近の秘術師はそこかしこで術を使用するので、昔ほど秘匿技術という感覚はないようだが、それでも詳細を尋ねるのはマナー違反だろう。


「ううん、大丈夫だよ。細かい効果とかは言えないけどね」


 こう言ってくれているので気にしないことにする。話題を変えて、戦闘の流れを聞いてみた。


 敵の待ち伏せ地点に向かって突撃をかけたルマイダは、ナダロスを縦横無尽に走らせることで狙撃を避けながら丘の麓に到達。

 そこから上空のルンドに合図を出して攻撃を行わせたらしい。彼女が言うところの正面突破には、空からの奇襲も含まれているようだ。

 そして丘を駆け上がり、ルンドの急降下爆撃によって混乱した敵集団を無力化したとのこと。

 ルンドの索敵、奇襲能力とナダロスの機動力があれば、狙撃くらいは敵にならないようだ。やはり強い。

 

「それで、尋問の成果はあったのか?」

「うん、色々聞けたよ。この人達の内、半分以上が近くの盗賊や村民だったみたいだけど」


 なるほど、現地調達か。遠出するときなら悪くない手だ。

 戦いの素人でも弓を使える奴は結構いるし、二人で操作する必要がある置箱の装填役をやらせてもいい。


「そっち側に倒れてる人たちとライドが戦ったっていう術師は、北の領将様の直属部隊だったみたい。任務内容は私の暗殺」

「このラリってぶっ飛んでる四人組か」

「やっぱりさっきの村で私を殺す予定だったんだって。宿ごと吹き飛ばすことも考えてたらしいよ」


 激戦帰りで気が抜けたタイミングを狙うのは基本ではある。就寝中に建物もろともというのは特に効果的な手段だろう。

 実際にやっていたとして、それがルマイダに通用したかは微妙だが。


「森林で黒糸蜘蛛と戦って疲弊してないわけがないからな。村で一泊すると思うのも当然か」

「うん。でも私が元気に通り過ぎちゃったから、代替案としてこの丘での待ち伏せに切り替えたんだね」


 セルくんがいない上に、のんびり歩いてたのを見て決行に踏み切ったらしいよ、と語るルマイダ。

 おおよそ、俺達が事前に想像してた通りの動きだったわけだ。ご苦労なことだな。


「それでね、ここからが問題なんだけど……」

「どうしたんだ?」

「この人達が失敗した時は、街で待機してるもう一つの部隊がカルデニオ閣下を暗殺する予定みたい」


 今のルマイダの雇い主、開拓領将カルデニオか。俺も何度か会ったことがある。やたらと声のデカい筋肉オヤジ。

 前国政元帥から異界森林の開拓事業を任されていた有能な男なのだが、南の教国きょうこくとの開戦で予算計画を白紙にされた経歴を持つ悲惨な奴だ。

 それでもコツコツと内政を行って地道に結果を残していたのに、とうとう暗殺までされそうになっているのか。不憫すぎる。


「あいつ何かやらかしたのか? 政敵に暗殺されるような立ち位置の人間じゃないだろ」


 異界森林と面しているにも関わらず、この地域が安定しているのはカルデニオの手腕によるものだ。

 あいつがいなくなろうものなら、中央城塞の近くまで魔獣が流れ込んでもおかしくない。

 

「北部戦線領将のカドル様が、開拓領の次期領将に自分の派閥の人を推薦してるんだよ」

「は? 次期領将にはカルデニオの息子がいただろ。なんで同格の領将がそんな無茶苦茶なこと言えるんだ?」


 北部戦線領は北の闘国と面し、絶えることなく戦闘を続けている辺境領だ。闘国と直に戦う性質上、その影響力は大きい。

 しかし異界森林開拓領もまた魔獣から将国を守る砦であり、魔獣の素材や薬草などの大きな供給源でもある。

 立場的には同格。実績込みで見ればカルデニオの方が偉いはずだ。

 

「それはね……」


 疑問の声を上げた俺に、ルマイダは掻い摘んで説明してくれた。

 どうやら一年前の元帥暗殺犯追撃戦《俺との戦い》で、千人を超える大損害を出したことが直接の原因らしい。

 国家に仇なす大罪人を取り逃がし、尊い兵達の命を無意味に散らした無能者。それが今のカルデニオの評判だとか。

 これによって中央での発言力を失い、開拓領もカルデニオの息子に継がせるのではなく、別の優秀な人間を配属するべきだと騒がれているそうだ。


 ものの見事に俺のせいだった。


「マジかよ。どうしよう、謝りにいこうかな」

「やめてあげてよ……」


 まさかそんなことになっているとは想像もしていなかった。というか、あの時の奴らは開拓領軍だったのか。

 完全に中央軍だと思って戦っていた。


「そんな状態だから、閣下が不慮の事故で死んじゃえば、カドル様の息のかかった人が後釜に座れるかもしれないんだよね」


 閣下の御子息はまだお若いし、と言って、難しい顔をするルマイダ。


「というか、じゃあなんでルマイダを狙ったんだ? 直接カルデニオを殺せばいいんじゃないのか」

「時期が悪かったんじゃないかな。カドル様が次期開拓領将の推薦をしてからまだ日が浅いし、事故を起こせば怪しまれると思ったのかも?」


 相変わらずドロドロの権力闘争思考だ。もっと平和的にいこうぜ。野心で人を殺すなんて間違ってますよ。


「そこで倒れてる人達が言ってたことから想像すると、護衛の私を殺して、少し期間を置いてから閣下を暗殺するのが第一案」


 右手の指をピッと立てながら言うルマイダ。なんか教師みたいだな。


「そしてそれが失敗した場合、閣下を殺して私に罪を着せるのが第二案。ってことだと思う」

「蜘蛛狩りに出てたルマイダにどうやって罪を被せるんだ?」

「詳しくはわからないけど、私が閣下のところへ向かう時間を誘導するって話はあったみたい」

「一応、仕込みはしてるわけか」

「私が閣下のところに来てから、まだ一年も経ってないしね。多分、術を使える新参者だから都合がよかったんだよ」


 なるほどな。とりあえず話の大筋は見えた。要するに北部の領将による権力奪取作戦か。

 まあ、それ自体は俺にとってどうでもいいことだ。重要なのはここから。


「それで、さっきからモジモジしてるルマイダは何が言いたいんだ?」

「……お願いしたいことがあって」

「義理堅いことだな」


 頼みごとが何かはわかる。カルデニオの暗殺を阻止する手伝いだろう。

 彼女は様々な戦場に対応できるオールラウンダーのようだが、それでも街中では取れる手段が限られてしまう。

 今回のような状況なら、俺の方が遥かに向いている。


 そう考えていると、俺の言葉を聞いたルマイダがいつの間にかムッとした様子になっていた。


「今日までお世話になった人だよ? お金が手に入るからって、殺されるのを放っておけるわけないよ」


 少しばかり怒らせてしまったらしい。別に馬鹿にしたつもりはなかったのだが、確かに今のは不謹慎だったかな。

 お前のお願いは言わなくてもわかってるぜ、みたいな感じで格好をつけたら失敗した。悲しい。


「そりゃそうだ。茶化して悪かったよ。……街で待ってる連中への連絡手段はなんだ?」

「早馬だね。丘の西側の岩陰にもう一人隠れてた。ルンちゃんが見つけて気絶させてくれたけど」


 本当に優秀だなルンド。俺とも仲良くなってくれないだろうか。


「合流場所は?」

「聞き出せたよ。でも連絡役が待ってる中継地点しか知らなかったみたい」

「なら、そこに俺が行けばいいだけだな」


 現地調達の盗賊だか村人だかを装ってルマイダ暗殺失敗を伝えれば、その連絡役は仲間のところへと向かうはずだ。

 俺はそれを追えばいい。街中での追跡は慣れたものだ。


「その、いいの? もちろん協力してくれるなら嬉しいし、お礼もするけど。ライドには関係のない話なのに」


 ルマイダはやや俯き、申し訳なさそうな態度でそう言ってくる。

 なんというか、こういう仕草には惹きつけられるな。保護欲が湧いてくるというか。

 もしこれを意図的にやっているのだとすれば、女の恐ろしさを再確認せねばなるまい。

 俺もそういう方面の失敗を重ねたくはないので、協力する理由はきっちり明示しておく。


「まったく関係ないってわけでもないだろ。カルデニオが死ねば黒糸を売るのにも手間がかかるだろうし」


 ルマイダが黒糸を持ち帰った際、カルデニオからすぐに受け取れることになっている報酬は、普通に売った場合の二割ほど。

 しかしその『普通に売る』のを実際にやったなら、金が入ってくるまでにかなりの日数を覚悟する必要がある。

 黒糸の売値が大型戦船一隻を買える額なのは有名な話だ。その辺でポンと交換できるものじゃない。

 寄ってたかってくる金持ちや権力者、中央政府の人間と交渉を重ね、それでようやくカルデニオの出す報酬の五倍が手に入る。

 俺は出来る限り早く金が欲しいのだ。そんなには待てん。


「暗殺を潰せば金がすぐに手に入る。別にルマイダのためにやるわけじゃないから、変に感謝する必要はないぞ」


 そう宣言してルマイダに視線を合わせてみると、彼女は少し不思議そうな顔をしていた。

 そして数秒後、唐突に意味深な笑みを浮かべる。なんかムカつくな。言いたいことがあるならはっきり言え。


「そうだね。ライド自身のためなら、私も後ろめたさは感じないよ。でも感謝は勝手にするし、お礼も受け取って貰うからね」

「当たり前だろ。報酬は分け前の一割でいいよ」


 それくらいが適正な数字だろう。話も纏まったことだし、やることをやるか。

 と思ったが、既にナダロスが倒れていた奴らを草陰に放り込み終えていた。仕事早いな。

 ルマイダ曰く、しばらくはまともに動けないそうなので殺さなくても大丈夫だろう。

 薬が抜けて社会復帰できることを祈っておいてやる。

 

「それにしても、あいつらまともな短刀ナイフ持ってなかったな。こんなんじゃすぐに折れるぞ」

「そうなの? でも弓や短槍は結構いいのがあったよ。これなんか使えるんじゃない?」


 総金属製の短槍を手渡される。こんなの持って街中に入ったら目立つだけだろうよ。


 そんな感じで俺とルマイダはしばしの休憩をしたあと、街へ向けて動き出す。

 敵の数と位置によっては結構な大仕事になるかもしれないが、俺に緊張はない。

 久しぶりの市街地ミッションで勘を取り戻すとしよう。


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