獅子身中の虫
夕刻へ向かって傾き続ける太陽の下、ルマイダはナダロスの背に乗り、風を振り切る勢いでカルデニオの居城を目指している。
少し前にルンドから連絡があり、ライドが作戦を成功させたと知ったルマイダは、即座に東門から街に突入した。
兵士や戦士たちの歓迎の声を無視することに申し訳なさを感じながらも、一刻を争う事態ゆえに、それらを振り切って岩山の都市を登っていく。
俊足を遺憾なく発揮するナダロスは外周区を速やかに通過し、中門を抜けて中層区の大通りに出た。
兵士たちが道をあけてくれる外周区とは違い、市民の空間である中層区では通行人が障害物として立ちはだかる。
だが、ナダロスは速度を緩めなかった。
通行人を器用に避け、跳躍で柵を越え、麓の湖から山頂まで伸びる主要導水管の通り道へ侵入。
遮蔽物の少ない導水管付近を通ることで、平地の馬に匹敵する速度を維持する。
瞬く間に高域区まで駆け上がって導水管道から飛び出し、中層区と高域区を遮る門で制止をかけてきた番兵にルマイダは緊急を叫ぶ。
普段は権力による強引な行動を好まない彼女だが、今回に限っては領将付き筆頭術師の紋章を使って半ば脅すように門を開けさせた。
丹念に整備された高域区の街並みを置き去りにし、ようやく辿り着いた城館門前でナダロスを止める。
ルマイダが見つめる先には、盛り土で作られた広大な庭園と、そこにどっしりと腰を下ろす接ぎ岩造りの建物の姿。
街の隅々までを展望する主塔を備えた四階建てのこれが、開拓領将カルデニオの居館である。
城館門前の警備詰所に紋章を提示して入門を許されたルマイダは、広い庭園の中ほどまで来たところでナダロスから降りた。
できるなら、ナダロスに乗ったまま城館に飛び込みたいところだが、いくら非常事態でもそれは許されない。話も聞いて貰えなくなる。
じれったさを感じながらも、ルマイダは自分の足で館まで走った。ナダロスは事前に取り決めておいた場所に待機させておく。
ルマイダが扉に近付くと、手を付ける前に扉が開く。取っ手を引いて扉を開放した侍女が礼儀正しく頭を下げた。
その出迎えへの礼もそこそこに、詰め寄るようにしてカルデニオの居場所を問う。
侍女は突然の詰問に動揺を見せながらも、外面を取り繕って笑顔で質問に答えた。
そうして目的地を把握したルマイダが駆け足一歩手前の動きで館内を進んでいると、一人の男が息を切らせながら歩み寄ってくる。
「お、お待ちくださいルマイダ殿。館内にてそのようにお急ぎになられては困ります。討伐はいかがなされたのですか」
彼はカルデニオの側近である将補官サバテニク。煌びやかな装飾品と赤の官衣を身に付けた恰幅のいい男だ。
必死の形相で追いすがるサバテニクに、ルマイダは振り返ることなく答えた。
「黒糸蜘蛛の討伐は成功しました。今こうして急いでいるのは緊急の別件です。閣下の御身に関わることなので、どうかご容赦ください」
「閣下の御身ですと!?」
サバテニクは驚愕のあまりか、あるいは単なる体力不足ゆえにか、足をもつれさせて転倒した。ルマイダは無視して階段を登る。
侍女によれば、カルデニオは三階の大広間にて士官との応答会を行っているらしい。かなり危険な状況だとルマイダは思った。
領将との応答会に送られるような士官の中に暗殺者を混ぜるのは限りなく困難だが、ルマイダにはそれを成功させる自信がある。
秘術を使えば、数人程度の意識を誘導して自分を士官の一人と誤認させることは不可能ではない。可能だ。
――間に合うかな。
大広間の前まで来たルマイダは、乱れた髪をざっと直しながら息を整える。
扉の前に立つ衛兵と使用人たちが奇異の目を向けてくるが、気にすることなく衛兵に用件を伝えた。
「筆頭術師、アグタ・ルマイダ・ボルデットが、開拓領将閣下にお目通りを願います。ただちにお伝えください」
ルマイダの意識的な威圧に衛兵は怯み、少し迷ったあと広間に入っていった。それからほとんど間を置かず、扉が激しく開かれる。
ルーマン・カルデニオ ・ブロオ・ベルランダが姿を現した。
「帰ったか! 突然の討伐任務であったが、無事に戻ってきてくれてなによりだ。それにしてもルマイダ殿がそうも慌てるのは珍しいな。いったい何があったのだね?」
鍛え上げられた長身を普段は着ない正装で覆った彼は、白金の髪と髭を揺らしながらルマイダに労いの言葉をかける。
毎度のことながら不必要に大きな声だ。しかしルマイダもそろそろ慣れたので、圧倒されることなく応対した。
「礼を省略する無礼をお許しください。閣下のお耳に入れたいことがございます」
「緊急と見えるな。扉の向こうの若造たちとは下らない話で盛り上がっていたところだ。いま切り上げたとしても、別段大きな問題があるわけではない。貴君が汗を見せてまで伝えにくるなどよほどの事情なのだろう。必要なら別室で聞くが」
やんわりと汗を指摘されたルマイダは、やや羞恥を感じながら手布を取り出して額を拭った。こういった場で汗を晒しておくのは礼節に反する。
ルマイダは手布をしまい、落ち着くことを意識しながらカルデニオの問いに答えた。
「別室にてお聞きいただけるなら、ありがたく」
「わかった。少し待っていてくれたまえ」
カルデニオは広間に入り、やはり大きな声で士官たちに解散を告げてから戻ってきた。ちょうどサバテニクも追いついてくる。
「るま、ルマイダ殿……閣下の、御身とは、いったい」
「私の身ときたか。これはいよいよ大ごとだな。サバテニク、お前も付いてこい」
階段を駆け上がっただけで死にかけているサバテニクに声をかけて、カルデニオは廊下の先へと歩き出した。
彼は付き添いを申し出る使用人たちを手で制しつつ、空いている会議室へと入る。
「では、聞かせてくれ」
椅子に座ったカルデニオは速やかに切り出した。サバテニクは汗を拭くのに必死で話どころではなかったが。
「はい。本日の正午頃、東の丘陵地帯にて襲撃を受けました。その者たちは……」
ルマイダは今日の出来事を、ライドに関する部分は省きながら大まかに説明した。
――――
男はルマイダとカルデニオが入った部屋を見つめ、内心で悪態を吐いていた。
なんの連絡もないままに、ルマイダがここまで辿り着いている。中層区の連中はいったい何をやっているのかと思わずにはいられない。
やはりこの国の人間は無能だと男は思った。仮にも一領主の送ってきた精鋭部隊とやらが、ろくに伝令もできないのではお話にならない。
神を恐れぬ不届き者どもの国など所詮はこの程度なのだと考え、いっそ愉快な気分になった男はつい口元を歪めてしまう。
「どうしたの? いきなりニヤニヤしちゃって」
男の顔を見ていたらしい侍女の一人が呆れ半分、心配半分といった様子で声をかけてきた。
気を抜いてしまったことを反省しながら、いつもの調子で返事をする。
「あ、ごめんなさい。中で何を話してるのかと思って」
「なんでそれでニヤニヤすんのよ」
「いや、だってルマイダ様は美人だし……ねぇ?」
「ねぇ、じゃないわよ。サバテニク様も一緒に入っていったでしょうが」
「汗と熱気のせいで見えてませんでした」
それを聞いた侍女は、口元に手を当てて笑いを堪える。こんなくだらない冗談で楽しめる愚かさに男は辟易としていたが、態度に出すことはない。
少しして、笑いの波が引いたらしい侍女はすぐに表情を引き締めた。しかし顔の筋肉はまだ引きつっている。
彼女は誤魔化すような動作で肩にかかった黒髪を払い、男の背中を軽く叩いた。
「バカなこと言ってないで、さっさと自分の持ち場に戻りなさい。あと、いま私が笑ったことは秘密だからね。誰かに喋ったらイジメるから」
「い、言いません。秘密にします」
「よろしい。じゃ、ちゃんと仕事しなよ。私は広間の片付けを手伝ってくるから」
手を振って去っていく侍女を見送り、男はもう一度ルマイダとカルデニオがいる部屋を見た。
想定外はあったが、結果的に獲物の二人が一箇所に固まってくれているのは好都合だった。
普段のルマイダは使獣と離れたがらず、この城館にも滅多と入らないのだが、今なら無防備である。
――『破城』で仲良く眠らせてやるか。
派手な秘術を使えば、一応の雇い主である北部領将カドルに背くことになる。だが、まあいいだろうと割り切って歩き出す。
ルマイダとカルデニオを殺せばとりあえずは任務完了であり、北部戦線領に潜入するのはついでの小遣い稼ぎのようなものだった。
男は二階に降りて掃除用の大きな水瓶を二つ持った。彼は細い見た目からでは想像もできないほどの筋力を有している。
そして三階大広間の下に位置する書物庫の前に立ち、人目が消えるのを待って中に入り込んだ。室内の壁一面に本棚が置いてある。
この部屋への入室には様々な制限があるのだが、とうに合鍵を作っている彼は頻繁に出入りしていた。
無論、頻繁に出入りをしていた理由は書物を読み漁りたかったというようなものではない。秘術の仕込みだ。
男は本棚の裏に隠しておいた大量の防湿容器を取り出していく。容器には白っぽい色の粉末が詰め込まれていた。
今日までの使用人生活の中でコツコツとここに持ち込み、隠しておいたものだ。
彼は書物庫の掃除担当者がいい加減な人間だと知っていたので、見つかる心配はしていなかった。
二つの水瓶を倒し、床を水浸しにする。薄く張られた水面に、男の姿が歪んで映り込んだ。
厚布靴の上で裾を絞った脚衣を履き、胴布の上から袖なしの上着を身に付けた明るい茶髪の青年がそこにいる。
二十四歳という若さでありながらも、一流と謳われる稀有な術師、メィーツォ・ハル。
彼は防湿容器を開封し、床に広がった水へと粉末をふりかけていく。
――――
報告を終えたルマイダは、カルデニオの反応を待っていた。棚に置かれた水時計が、一滴ずつ時間を落とす。
カルデニオは腕を組んで目を閉じ、無言で考え込んでいる。内容が内容なだけに彼も真剣だ。
「……カドルの手口にしては、違和感があるな」
カルデニオが口を開き、最初に発した言葉はそれだった。腑に落ちないという表情で机に視線を向けている。
「カドル様の名を使った別人の犯行であると?」
「いや、カドルが関わっているのは間違いない。ある筋から不審な集団の情報を得たのだが、そいつらはどうもカドル傘下の領で発行された身分証を使用して数日前に入り込んだらしい。ルマイダ殿の話とも合致する」
彼はルマイダの疑問に答え、顔を上げて言葉を続けた。
「解せんのはやり口だ。あいつはもっとわかりやすい策を使う。こういう手間のかかる手法はむしろ……」
「そんなことを言っている場合ではありませんぞ! 暗殺者がいるというのなら早急に退避しませんと!」
敵の姿を脳裏に思い浮かべようとするカルデニオに向かい、サバテニクが汗を吹き出しながら声を上げる。
先ほどからルマイダとカルデニオは、サバテニクのせいで室温が一割ほど上がっているような錯覚を受けていた。
「私もサバテニク様と同じ考えです。そしてナダロスの入館を許可していただけるなら、賊は私が排除します」
「るまい、ルマイダ殿! 使獣を入館させるですと!?」
サバテニクが声を裏返しながらルマイダを見る。ルマイダは意に介さず、カルデニオを見つめ続けた。
カルデニオは自分の膝を叩いて立ち上がり、二人に対して指示を出す。
「その通りだな。今は退避を優先する。ナダロスの入館も許可しよう。サバテニクは館内の人間全員を正面庭園に集めろ」
「た、ただちに!」
カルデニオは大急ぎで部屋を飛び出したサバテニクを見送り、なぜか扉に向かうことなく立ち尽くしている。
ルマイダは疑問に思いながらも彼に避難を促そうとしたが、先に口を開いたのはカルデニオだった。
「ルマイダ殿、先ほどの貴君の報告には随分と不自然な点が多かったな」
「……そうでしょうか」
「ああ、まるで同行者の存在を隠しているようだった」
カルデニオは若く見えるが、今年で五十一だ。十を数える頃には戦いと政治に身を投じていた歴戦の将である。
人生の大部分を未開地での修行に費やしてきたルマイダが、腹芸で勝てるような相手ではない。
嘘を見抜かれた彼女は、返事に窮して黙り込むしかなかった。
「そんな顔をするな。貴君を責めているわけではない。異界森林で得た同行者が魔人なのかを確認したかっただけだ。サバテニクの前で話せることではないからな」
「……お答えできません」
「相変わらず義理堅い。まあいい、とりあえずここを出るとしようか」
それ以上の追及をすることなく、カルデニオは部屋を出た。ルマイダは息を吐き、緊張に揺れる体を叱咤して足を動かす。
前国政元帥を殺した人物との繋がりが露見した。これはかなり洒落にならないことなのだが、ともあれ一旦忘れることにする。
今のルマイダに将来を憂慮する余裕はなかった。先ほどから、嫌な予感に襲われ続けている。しかもその正体がまるで見えない。
わからないものはどうしようもない。せめて不意の危機に対処できるよう、ルマイダは自身の才能を発動した。
五感が研ぎ澄まされ、他者の気配が鮮明に見えるようになる。カルデニオはさすがのもので、この状況でも怯えや恐怖がまったくなかった。
廊下に出て階段を目指している途中、ルマイダは侍女の二人組を見つけた。
全員を庭園に集めろと命じられたサバテニクが彼女らを無視するはずはないので、おそらく入れ違いとなってしまったのだろう。
ルマイダは呼びかけようとして、しかし動きを止めた。彼女たちの会話が、とても重要なものに思えたからだ。
「メッツ、どこに行ったか知らない? なんか忽然と消えたんだけど」
「メッツって、あの明るい茶髪の男の子? それなら下で水瓶を運んでいたわよ。彼、とても力持ちなのね。片手で一つずつ持っていたもの」
――水?
使用人が水を持って消えた。そんなどうでもいいような話に、ルマイダの全身が粟立つ。
悪寒の原因を確定させるため、こちらに気付いていない侍女たちに声をかける。
「すみません。その話を詳しく聞かせてください」
「え? あ! ルマイダ様、御館様まで……あ、あの、これはサボっていたわけでなく」
「その水瓶を持って消えた使用人を最後に見たのはどこですか?」
言い訳をしている黒髪の侍女を無視して、件の人物の情報を求めた。金髪の侍女が、おっとりとした声で返答してくる。
「二階の書物庫の前でしたよ、ルマイダ様。私は別の用事があったのですぐに目を逸らしてしまったのですけれど」
書物庫と聞いて疑念を確信に変えたルマイダは、侍女二人の手を取って走り出す。そしてカルデニオへと叫んだ。
「閣下! 廊下の端の窓まで走ってください!」
カルデニオは質問も反論もすることなくルマイダに追走する。彼は武人であり、こういう場面での判断は速い。
四人はすぐに窓まで辿り着く。いきなり引っ張られた侍女二人は、驚きに目を回していた。
ルマイダは窓を開けて叫ぶ。
「ナディ! 状況五、対象三!」
そして金髪の侍女の腰紐を右手で掴み、左手で襟を持って肩に抱え上げ、窓から落とした。
黒髪の侍女が悲鳴を上げるが、構うことなく無理やり窓まで引きずり、背負うようにして窓の外へ投げ飛ばす。
それとほぼ同時に爆音が轟き渡った。黒髪の侍女が地面に落ちて爆発したというわけではないだろう。
城館全体が軋み、断末魔の声を響かせている。
「閣下は自力で着地してください」
そうカルデニオに告げて、ルマイダは窓から飛び降りた。
――――
荘厳な城館が崩れていく。
水と反応して爆発性の気体を発生させる火砂を使用し、建築物の支点を破壊することで崩落に導く対拠点秘術『破城』。
それによって隣接する書物庫を吹き飛ばされ、想定外の負荷をかけられた支柱は、大広間の重さに負けてその役目を放棄した。
支柱を失った大広間は周囲の構造を引きずるようにして階下へと沈み、その衝撃と空白は城館の歴史に終止符を打つ。
岩山の頂上にてその威容を見せ付けていたコイラの象徴が、跡形もなく砕け散った。
粉塵が周囲に襲いかかり、サバテニクによって正面庭園に連れ出されていた者たちは一斉に逃げ惑う。
城館に近付こうとしているのはサバテニクくらいのものだ。彼は主の名を叫びながら泣き喚いている。
運動不足で成金趣味の肥満体だが、あれで能力と忠誠心は本物だ。メィーツォは、サバテニクを巻き込めなかったことを惜しいと感じた。
メィーツォは自他共に認める野心家であり、功績は多ければ多いほどいいと思っている。
だが、とりあえずの目標は達成した。ルマイダとカルデニオを仕留めたなら手柄としては充分だ。
まだ死体を確認していないので確実に殺せたとは言えないが、少なくとも無傷ではないだろう。
もし生きていたとしても、この後の救出作業で止めを刺せばいいだけだ。メィーツォは成功を確信していた。
この戦果を持って教国に帰れば、メィーツォは英雄である。表に名前を出せはしないが、それでも彼の権限は大きなものとなる。
派手にやってしまったので、カドルの元で工作活動をするという予定は崩れるが、欲をかきすぎるのはよくないとメィーツォは自分を納得させた。
――しかし、中層区に仕込んでおいたアレの後片付けは面倒だな。念を入れすぎるのは僕の悪い癖か。
『アレ』とは、万が一潜入が露見した時のために用意していた切り札だったのだが、よく考えれば過剰な備えだったとメィーツォは反省する。
もう少し手を抜いた方が経費の節約になると考え、彼は今後の仕事の効率化を予定した。
そうして山頂の風に流される粉塵を眺めていたメィーツォに、突如として危険信号が届く。
ほぼ反射で蟲を集め、警告のあった方向に盾として展開した。なんだ、と思う暇もなく、蟲の盾が爆散する。
彼は尻餅をつきそうになりながらもなんとか姿勢を立て直し、蟲の盾を作り直して全力で走る。二度目の炸裂音と共に、盾に穴があいた。
その穴を一瞬だけ通過した『それ』をメィーツォは認識できなかったが、運よく当たらずに済んだ。
代わりにそれを食らった立ち木は幹の表面が弾け飛び、発火して煙を上げる。
庭園を走り、会食用の空間を囲む低い石塀の影に身を隠したメィーツォは、蟲を使って敵を確認しようとする。
彼の思考波によって操られる蟲の大群が地面に寄り集まり、石塀の向こうの光景を絵のように映し出す。
地面には、巨大な獣に乗った人影が描かれていた。
数十歩離れた場所から、戦意に満ちた名乗りの声が聞こえてくる。
「秘術師ボルダイの弟子、アグタ・ルマイダ・ボルデット。……あなたも名乗りなよ、術師さん」
メィーツォは、ここからが本番なのだと理解した。




