次の標的に選ばれし者
大野が来たときにはびっくりだった。またどうせ戸山ベテランみたいなのが来るんじゃないか?と腹をくくっていたら、そこそこな美人で親しみやすそうな感じの若い女教師だったからだ。いうまでも無く男子の一部からは大ウケしたが、そこが余計に気に入らなかった。おまけに今まで先生イジメにノリノリで加わっていた男子ですら、裏切ったからだ。
隣のクラスのお調子者の武藤俊助なんて…。
「俺は高校出たら、大雪ちゃんを嫁にする~」
なんてバカなことまでいっていた奴がいたぐらいだ。大野雪花は24歳。私らとはちょうど10歳違い。考えようによってはありえなくはなさそうだ。初代担任の曽我のときも親しみやすいキャラではあったが、そこまで持ち上げる生徒はいなかった。あの当時、曽我と最も親しくしていた鈴木佳乃ですら、そんな大胆な発言はしていない。それにもかかわらず、その鈴木佳乃本人は今この学校にはいない。あの当時、うるさすぎてウザかったので曽我がいなくなってすぐ、佳乃を不登校になるまで追い込んで、夏休み明けには転校させてしまったのだ。
そしてその武藤本人は呆然としている。「…嘘だろ?」とつぶやいたような気もするが、いつもはあの騒がしい武藤がずっと黙ったままだ。
「…秋子…。まさか…?」
武藤の様子を見ている私を見て瑠奈は「次の標的は武藤?」といいそうだった。がしかし、今回ばかりは違う。世の中標的にしていい相手と標的にすると厄介な相手というものが存在する。武藤俊助とはまさに後者にあてはまる男だ。保育園のときから奴を見てきた。確かに俊助は何度もいじめの標的にされそうになったことが多々あった。だが奴はあまりにも破天荒すぎる奴である。彼は自分がピンチになるたびに誰もが予想だにしなかったことをやってのけてしまうため、被害にあうのは彼ではなく、彼を標的にしようと目論んだ側になるのがお約束だった。そしてその結果なぜか、俊助は親や教師など大人からは口頭で注意をされるだけだった。逆に厳しい処分を受けるのはいつも俊助を攻撃した相手側だった。そのため、小学生半ばごろになるとよほどバカな奴以外は彼に危害を加える者はいなかった。瑠奈は一応私の味方ではあるがあくまで傍観者であり、自ら攻撃を加えるようなことをしないため、そういう意味では見る目がない。
そんな奴攻撃したら、命がいくつあっても足りないってーの!
「・・相変わらず瑠奈は単純よね~…。」
「えっ?なにそれー?」
まぁ、曽我がいなくなった直後先ほど紹介した鈴木佳乃、森が消えた後であの別名ガリ勉ガリ子の浅川真由美を標的にしたのは確かだけど、なんか考えが安直過ぎやしませんか?とはいえ、誰も標的がいなくなるのはまた退屈すぎるのも確か。常に誰かを攻撃していないときがすまないのは私の性分。今ここで一番むかついているのは当然…。
「決ーめた!」
「えっなに?」
次の標的は谷川瑠奈!あんただよ!あんた!!
いい加減あんたにはむかついていたんだよね~。そりゃいつも味方はしてくれはするんだけど、自分ばっか、いい子ぶっちゃってさ~。なんだかんだ言ってあんたも若くてかわいらしい?大野とは親しげにしゃべっていたじゃん。元地元アイドルBJN48研修生止まりの女にアイドルに選抜されるコツとか、ちゃっかり聞いてたじゃん。私よりブスのくせしてアイドルだぁ~?無いわそれ~。
このときすでに私の標的は決定した。そしてまた予想だにしないことがこの先起きようとしていた。