ミエル、カワル、オキル、monoGAたり
クリスマス記念です。
短いですが、楽しんでいただけたら幸いです。
――一瞬の出来事とは、一瞬きぐらいの時間で起こる出来事、ということである。
「うぃ.......。疲れつぅぁ......」
加納夕夜はそう呟く。
やっと、自分が企画したものが採用され、なおかつ、今日仕上がったことで、夕夜は達成感に胸を膨らましていた。今、肩にのしかかっている疲労も、なんだか自分を労っているとすら感じてしまう。
そんな夜のことだった。
「あぁ、そうか、世間では今日クリスマスなのか......」
子供の頃は楽しみにしていたクリスマスも、年を取ればこんなもんである。第一、恋人もいなければ、プレゼントをあげるorくれる人など今の夕夜にはいない。そんな中で何を祝うというのだ。
そういえば、と夕夜は思い出す。
子供の頃一度だけ、サンタさんを見てみようと、寝たふりをしたことがあった。確か、その時は初めての夜ふかしだったため、すぐに寝落ちしたんだっけ。
子供でも、サンタさんを信じていない子は案外いる。しかし、子供は好奇心大盛である。信じていなかったとしても、その目で見なければ、否定も肯定もできない。
そう、その目で見なければ。
「んんッ!?」
夕夜は静寂に包まれた住宅街で、一人驚く。
文字どうり、一瞬の出来事だった。
最初は、疲れで目がかすんだと思った。
それが、疲れのせいでも、目がかすんだせいでもないと分かっても、やっぱり信じれなかった。
それもそのはずである。
一瞬、否、一瞬きの後に眼前にある景色は、一瞬き前とは似て非なるものだったからだ。
コンクリートで作られたごく平凡な塀は、赤茶色のレンガに置き換わり。
寒くとも、ここら辺一帯では降らないはずの雪が、これまたレンガに置き換わっている家々の屋根や、塀、そして道にも、降り積もっていた。2~3センチほどではあるが。
ついで、その道さえもアスファルトから石材をふんだんに使ったヨーロッパ風なものになっている。
端的に言うと世界が、いや、視界が、クリスマスになっていたのである。
「おぉ......、なんだこれは。俺の頭が、やばくなったのか?いや、きれいだけどさ。きれいだけれども」
なんだか、怖いな。
異世界に、うっかり、足を突っ込んだようで。
『3歩ゴ、足下にgrass。転倒ちゅうい。』
レンガの塀に突然現れた文字。それに気を取られる。
結局、文字の警告通り三歩後に転んでしまった。
「いっつぁぃ、警告に気を取られて転ぶとか、本末転倒じゃねぇか......」
文字どうり。な。
雪が降っているせいか、空中に数少ない街灯の明かりが反射して、幻想的な――既に幻想だと思われるが――風景を醸し出す。夕夜はそんな景色に見とれながらも、帰路を行く。
先ほどのような警告が、頻繁に出てくるようになった。しかも、それが全て実際にその後に起こってしまう。 本当は無視しようとしたのだが、達成感で気分が高揚している夕夜は、疲れた体をフラフラ揺らしながら警告どうりに歩いていった。
警告に従うのに慣れてくると、いつの間にか夕夜の意識は妄想に傾くようになった。
世界には霊能力者、超能力者、と称されるものがいる。ほとんどはインチキや病気なのだが、もしかしたら、本物の霊能力者は、こんな景色が見えているんじゃないだろうか。
実際、これほどではないとしても、人間一人一人見えている景色は違う。
しかも、人間はたった3色――黒白入れると5色だが――しか感じることができないという。であるならば、私たちが見ている世界は、本来の色彩ではなく、人間が圧縮して見ている世界、ということになる。
もし、圧縮せずに見ることのできる能力を持っていたとしたら。世界は、もっと混沌としているのではないだろうか。
――ていうか、俺、超能力者の仲間入りじゃね?予知能力開花したんじゃね?
駅から徒歩10分。という触れ込みの、駅から徒歩20分のところにある自宅までもうすぐ。
この幻想的な雰囲気を抜け出したくない気分だが、疲労には勝てない。
住宅街と、自宅を隔てる大通りに差し掛かった時だった。
突然、警告が消えた。同時に、視界いっぱいに文字が浮かぶ。
『転倒により、道路へover、大型トラックのターン、夕夜にattack、夕夜のHPがhurtpoint(傷ついた値)になった!、大型トラックの置き言葉、「お前は死ぬ運命なのDEATH!」』
「はッ?、って、うぉ......ッ!」
地面は雪が積もって滑りやすくなっている。それに足を取られる。警告どおり、道路へ体が流れてしまう。
「いやいやいやッ!!おかしいからッ!!、うぉッ!!」
慌てて立ち上がるも、前のめりに転ぶ。
顔の右側に光が当たる。眩しさで思わず目が眩むが、光の主を確認せずとも正体はわかっている。
夕夜は諦めを選択させられる。
ああ、ここで、俺は死ぬんだな。
この幻想的な風景は、死ぬ直前にミエルと言う走馬灯のようなものか。
せっかく、企画が通ったことでこれからの人生がカワルと思っていたのにな......。
目をぎゅっと瞑る。直後、体に、トラックがあたった衝撃が伝わるのを感じる。
拡張された一瞬のなか、夕夜は、最後に幻想的な世界にいられただけでも良しとするか、と納得した。
体が、重力が、感情が、反転したような、ぶれたような、そんな感覚。
最後に、魂が体から離れる反動か、ズドン、と重みのような衝撃を感じた。
光で満ちている。
目に光が染みる。その痛みに耐えながらゆっくりを周囲を確認していく。
「ああ、電気消すの忘れてたのか......」
手を伸ばし、紐を引っ張る。
カチン、と蛍光灯の光が消える。
企画が通らなかったショックを紛らわすために、クリスマスイヴからふて寝していたことを思い出しながら、夕夜は二度寝に沈んだ。
まあ、夢オチですよねもちろん。