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幻想語録 下

作者: 初谷ゆずる
掲載日:2013/05/13

ただっぴろい平原にて、ゴロクは素手で、鎌を持つ死神と対峙していた。

「どうするつもりよ」

 ゴロクが問い詰めると、死神は構えていた鎌をスッと下ろして答える。

「・・・俺達の意見・・・勝利と正義と敗北の魂使いの意見としては、この状況を維持する、で決定だ。母とも言えるロキセを殺すなんてことは考えられない」

「自立する意思も無い人間は、見てて吐き気がするわね。アンタたちの半分も生きていないあの子が自立しようとしてるのに。これじゃあまるで宗教と同じね、いい年して自立しようとしないなんて」

 冷たくそう言うゴロクに、死神は顔を険しくして言う。

「・・・お前、今なんて言ったか自分で分かってるのか?」

「分かってるわよ。だから口を開いているのよ。この餓鬼」

 餓鬼、というゴロクの言葉に最後の防波堤が崩壊した死神が、鎌を思い切り上から下へと振り下ろした次の瞬間、見えない何かがゴロクの右側をかすめるほど近くに通り過ぎた。

凄まじい風圧を感じて右側を見ると、死神からゴロクの横を通って遙か後方まで、地面がえぐれていた。

「あんた、力弱まってるんじゃないの?」

「木村が死んだらその魂をもらえる約束でな、あんな餓鬼一人喰うよりもよっぽど効率的なことをさせてもらったぜ」

「なるほど、契約ってわけね。ますます・・・吐き気がするわね、それと言っておくけど、こういう相手が知らない技っていうのはまず一度目には相手を驚かすために使うんじゃなくてね、こう使うのよ」

 初めて見る知らない技にも驚く素振りを見せないゴロクは、スッとうでを縦に線を描くように振り下ろす。

刹那、死神の右腕ごと、地面が一直線に抉れていった。

「・・・っ!?」

 突然の出来事に痛みに叫ぶことも出来ずに慌てふためく死神を冷たい目で見据え、ゴロクは言った。

「随分、弱いわね?良かったのは威勢だけかしら?」

 フフ、と静かに笑い、ゴロクは腕を横になびかせるように引く。

その動きを見てまたあの攻撃が来ると推測した死神は空高く跳躍するが、攻撃はブラフでしかなく、空高く飛んだ死神に一瞬でゴロクが肉薄する。

「――――――っ」

 攻撃が来ることを予想して自分がいた場所を見ていたために、一瞬で肉薄してきたゴロクに反応するのがコンマ一秒遅れてしまった。

魂使いの戦いではそのコンマ一秒が命取りになる。

ドン!と胸を拳で殴るのと同時に、胸ぐらを掴み逃げられないようにして足で死神の鎌を弾き落とす。

「武器は簡単に落としちゃあダメですよ!」

 ゴロクはそう叫びながら死神を地面へと思いきり叩きつけ、先程死神から覚えた攻撃を地面に叩きつける。

風を切る音が耳を劈き、視界が砂煙で埋まる程に連続して攻撃したが、倒した、という手応えは全くと違っていいほど無い。

「・・・」

 さすがに疑問に感じたゴロクは少し距離をとって地面に着地する。

それに間髪おかずに反応して、砂煙をかき分けながら飛来する透明な何かをぎりぎりのところでかわし、戦いに乱入した新たな敵に対してゴロクは言葉を放つ。

「今のは少し、危なかったですよ。久し振りですね、勝利の魂使い」

 余裕綽々、といった表情でそう言うゴロクに、呆れたように砂煙の中から出てきた男が言った。

「いーや、お前マジかよ。今の能力使って攻撃したのになんで俺は勝ってないの?」

 不平を漏らす子供のように唇を尖らせる勝利の魂使いに、ゴロクは微笑んで答える。

「そりゃあ、貴方は自分の能力を過信しすぎなんですよ。貴方は勝利するだけじゃないですか。知らないんですか?試合に負けて勝負に勝ったっていう諺」

 つまり、貴方の能力はどうとでも解釈できるし、それ次第によって貴方はどうでもいいことにしか勝てない。

「例えば、今貴方は死神を助けるという勝負には勝った。まだ勝利の能力のタイムラグの問題は解決できていないんですね?」

 四天王を決めた際にロキセにつかれた穴は、未だに改善出来ていなかった。

「勝利に奢るというのも、勝利の魂使いらしくて、良いんじゃないですか?」

 どこまでも馬鹿にしたその言葉に、勝利の魂使いと呼ばれた男は顔をしかめて答える。

「うるせぇな、しかし何だな、お前は異様に成長しすぎじゃあねぇか?それこそ――――80年間修行でもしたみてーによ。三年前に戦った時には原理分からないと学べ無かったよな?お前は本当に何なんだ?この案件で一番謎なのはロキセでも腹黒魔女でもなく、お前だ。お前は一体キセをどうしたいんだ」

 勝利の魂使いに問われ、ゴロクは微笑んで答える。

「何を疑問に思うんです?私の行動を疑問に思えるのはマザコンぐらいのものですよ?私はただ一人の女の子が独り立ちするのを手伝っているだけですよ」

「・・・どういう独り立ちかに、よるな」

「答える義務は、ありませんね」

「クソったれ、このアバズレが。腹黒魔女ならぬ腹黒い本が」

「馬鹿言っちゃあいけませんよ。本が黒かったら存在の意味が無いでしょう?文字が読めない本なんて、ただの墨染の分厚い紙ですよ?」

 フフ、と笑って両腕に力を込めて一気に振り上げ、先程死神から学んだ攻撃を勝利の魂使いの両脇に放ち、自分の足元を、思い切り踏む。

するとシーソーのように此方側の地面がずるずると下がっていき勝利の魂使い側の地面がゆっくりと、しかし確実に盛り上がるように高度を上げる。

「んなっ!」

 背後にも切れ目が無いとそれはできないはず・・・いや、さっきの死神への追撃か!

「二人でかわすのではなく、弾くべきでしたね!」

 そう叫びゴロクは盛り上がった地面を駆け上り、死神の技をうでに纏わせて突きを繰り出す。

予測ができない、使い方。

たまらず横にステップを踏んでかわすが、死神の技は放たれない。

「学んだものは、応用しないと意味がないんですよ!」

 つきだした拳はそのまま斜めに、勝利の魂使いのかわした方向へと振り下ろされる。

ゾン!と空気を裂きながら進む透明な刃を、崩れる足場を蹴って跳躍することで何とかかわした男は死神を持ってない方の手で鋼のロングソードを引きぬいて縦に振り下ろす。

勝利の能力を込めた斬撃は、それでもゴロクには届かない。

ゴロクが死神の技を纏わせていたもう一方の腕で、剣をはじき飛ばした。

「応用力ってレベルの使いこなしじゃあねぇだろ!」

 思わず悪態をつきながら、体を回転させてかかとで側頭部を蹴る筈だったのだが、その攻撃すらも難なく受け止められた挙句にそのまま掴まれて地面へと放り投げられる。ゴロクは投げた後に周囲に浮遊・・・同時に落下している岩石を追撃で投げつけ、更に死神の技を三発同時に放つ。

これで流石に、気絶程度はし―――

そこまで考え、投げた勝利の魂使いが異様に軽かった事を思い出す。

あれは、人二人分の重さじゃあない。

「まさか―――」

 事実に気付くのには遅すぎた。

気付いた時にはゴロクの背後にあった岩石を切り裂き、鎌を振り上げるようにしてゴロクを攻撃する死神の姿が視界に入った。

まずい・・・っ!

 命の危険を感じたゴロクはとっさに両腕に死神の技を作り、その技同士を衝突させて爆発を引き起こした。

その反動で、一気に死神との距離を開けるが、死神の機転が、ここへ来て働く。

「死ね・・・!」

 一度目の攻撃をかわされた死神は、その勢いを殺さずに、一回転してゴロクへと向き直る。その瞬間には、何故か死神はゴロクの目の前へと出現していた。

近づいたのではなく、出現した。

「!?」

 距離をとったことで完全に安心しきっていたゴロクに、できた防御は右腕を捨てて鎌を防御することだった。

ざっくりと右腕が裂けてしまったがまだ使えないほどではない。

見てみれば、死神のなくなったはずの腕も復活している。

「そう、もう手加減はいらないということね。そこまで力をつけているのになんで独り立ちしようと、しないのよ!」

 叫び、イカれかけている右腕を酷使して死神の技を発動させて攻撃後のディレイに怯む死神の両足を切断し、そして先程の死神の―――おそらく空間を死なせ空間を詰めると言う技を使って勝利の魂使いが使っていた剣を左手に引き寄せ、死神の腹部へと突き立てるために突きを繰り出す。が、失った足と腕を取り戻した死神が、その攻撃を鎌で防御する。

まさか、この戦闘の中で事象を殺すなんて言う馬鹿みたいなことを、学ぶなんて―――

つまり、死神を仕留めるには、一撃で命を絶たなければならない。しかも能力を使わせる余裕もなく、出来れば気付かれないように。

「なんて、厄介な――――!」

 そう悪態をつくゴロクは、魂使いが成長する理由というのを思い出していなかった。

魂使いは、神や妖怪と同じで、信仰がなければ、強くなることはない。

つまり、世界で死神という単語が色濃く認識され始めたということだ。


****

「ちんたらやってる暇はない・・・ってことか」

 街頭テレビをみて、キセは大きくため息を吐く。

そのテレビでやっている内容はどれも同じでただひとつ。

気絶者多発。

それによる死亡事故。

どれもこれもが今日始まったことらしい。なぜ今日なのかはわからないが・・・おそらく私達魂使いという存在がロキセを認識して居ると信じたから、ロキセの能力が世界に反映されるのが早くなったのだろう。

魂使いは魂が強い。だから一人あたりの認識の重さも大分変わってくる。

厄介な。

 心の中でそうつぶやいて、まず何をすべきかを整理する。

おそらくゴロクは死神とたたか・・・遊んでいることだろうから、まず一人でできること。一人でできることといえば・・・そうだな、ロキセを、探すことだろうか。

ならまず、あそこに行くべきかな。

ロキセの墓場に。


****

 分ける、というのは何時の時代も勇気がいるもの。要るものと要らないものに分けるとか、そんな些細なことでも大変勇気がいる人はいる。

「ダケド、マァ?生きるのと死ぬのの境目ホド分けるのが怖いモノはないよナァ?」

 キヘヘ、と下品に笑う少しカタコト混じりのその男は、ロキセのはかの前で剽軽に笑っていた。

「誰よ、あんた」

 とてもじゃないが怪しいと言うレベルじゃない。

「このハナシを聞いてモ、分からないのカイ?

・・・僕は、分ける魂使いサ。勇気が無いとできない、魂使いだヨ?」

 白装束に身を包んだ奇妙な男は、昼間の墓場には似つかわしくない、髪型の刈り上げの茶髪。ムサイくせに白装束だ。

分けるならとりあえずジャンル統一しろよなんていうツッコミを声を大にして言いたい。

「それは分かったけど、魂使いってことは、ロキセに関係してるのよね、そこにいるってことは」

「ソウダヨ?ただの偶然じゃあない。偶然と必然は分けにくいけどネ、これは偶然じゃなくて必然にワケラレルヨ?」

「そう、で、アンタは何?ロキセの魂を消すのに賛成?反対?」

 とりつく島もない、とはこのことで、至って冷たくキセは男に問う。

「ソウダネ、僕はどちらでも良いという言葉を吐いてみたいものだけどそれは性質上できないんダヨ。だから、僕は君の敵だと言う他ナイネ?」

 語尾を上げたその台詞が終わるか終わらないかと言う瀬戸際で、キセはボソリとつぶやく。

「ああはいはいわかった敵なのね。なら私はアンタを倒すわ。だから、消えて」

 消えて、とキセが言った途端にキセの右手には青い剣が握られていた。

「ヘェ、オカシイネ、君は言霊使いなのに言葉で説得しようとしないんダネ?」

「当たり前じゃない、アンタもここに戦うつもりで来てるんなら、説得なんてものは無意味でしょうが」

「クヘヘ、分かってるじゃあないか!くだらない問答なんてものはヤッパリいらないヨナァ!それを勘違いしてる輩が多くて困る!分けにくくて困る!戦いたいのかそうじゃあ無いのか分けにくいんダヨ!」

 男は喜びに震え、地面から綺麗に剣の形に整えた石を切り出す。

「さぁヤロウ、今すぐヤロウ!くだらない問答はナシダ!」

 男はそう叫び跳躍する。

「右と左にワカレルト言いと思うんダヨネ!」

 上から下へ真っ直ぐな斬撃だった。簡単に後ろにかわそうとしたが、何かが体を動かす邪魔をして左へと動いてかわす。

次の瞬間、一瞬ではあったがその剣の先20m程の空間が、左右に別れた。

「馬鹿みたいな能力ね・・・っ!」

 分ける、分割の魂使い、この能力の持ち主がどこまで能力を使いこなしているかによるが、物質の分割ができている時点で既に厄介だ。一撃でも攻撃を食らってしまえばそれで終わりだ。

わざわざ斬り込んでくるということは遠距離での分割能力は使えない、ということか?

 一旦距離をとって思考を巡らせるが、一向に答えは出そうにない。まだ情報が少なすぎる。

「斬り込んでみるしか、ないか・・・!ふき、とべぇっ!」

 キセがそう叫ぶと、風が吹いたわけでもないのに男は遥か後方へと吹き飛んだ。

 なるほどこういう使い方も―――

自分の能力に関心仕掛けた所で、先ほどの一撃を思い出す。馬鹿な事をしてしまった。

相手の動きがわからなければあの攻撃はかわしようがない!

慌てて墓を見渡すが、どこにも男の姿は見えない。

おそらく既にどこかの墓石に紛れていることだろう。

「どこだ、どこに―――姿を見せろ!」

 キセの言葉通りに、男の姿が墓石越しにうっすらと現れる。男は、剣を引き絞っていた。

縦ではなく、横に。

「っ!」

 まずい、と気付いた時には既にキセは足に思い切り力を込めて跳躍し、いずれ来るであろう攻撃を避ける。が、男がやろうとしていたのはただの斬撃ではなかった。

「愉しい事をシヨウ。さぁ別れろ―――地と、空に」

 男がキセに近づくようにジャンプしてそう言うと、地面が、消えた。

つまり二人は際限なくただ落下するだけだ。

「は?」

 あまりに現実離れした事態に、思わずキセは叫び声を上げるが、それも隙となる。男は慌てふためくキセを笑いながら、足元の不純物を切り分けて集め足場を作り、その足場の裏側に小さく水素と酸素を集め、足場に含まれる金属を切って火の粉を発生させて爆発を起こす。つまりは水素爆発を起こして凄まじい速度で前進し、キセに肉薄する。

「右と左か!?上か下か!どっちに分かれるのがお好みダ!」

「どっちも・・・嫌よ!来るな!」

 キセがそう叫ぶと、男の前進は途端に止まったその隙に、きえろ!とキセは叫んで二本目の青い剣を出現させて男へと投げつける。

そして、男に触れたその瞬間に、青い剣ははじけ飛んだような光景を見せ、そして男もろとも消えていった。

「・・・!?」

 消えろ、と言う言葉で出現させた剣がただ剣としての役割しか果たさないわけがない、少し考えればすぐに分かることなのだが、そこまで考えが及ばなかったキセは目の前の光景に驚きを見せる。

 そして目を丸くしていると、不意に四メートル程下に突然地面が出現した。

「お、っと」

 突然現れた重力で崩れかけたバランスを持ち直し、なんとか着地すると、目の前で右腕を失くした男が立っていた。

「そんな言霊の使い方、俺は知らないゾ?お前・・・何かオカシイネ?」

 壊れた機械のように、右腕を失くした男はよたよたとキセに歩み寄り、目を覗き込み、口を三日月型に引き裂かれたように開いて笑った。

「キヘヘ、そうかそうかそういうコトカ、君は面白い事になってるね、その起伏のない性格、人間味が無いその優柔不断さ、そうかいそうかいそういうことカイ。だからこの物語は、だからアイツハ、この物語を奇蹟と呼んだのか、ナルホドナルホド、これは面白い」

 男が意味もわからずそう告げるのを、何を思うでもなく聞く。

「ソウダネ、このまま物語が進むのもそれはそれでいいケドネ、それだと僕はただの端役に過ぎないからね、中途半端は僕キライナンダヨ、分けられないからネ」

 そう行って、男は左腕をゆっくりと上げてキセの手に何かを握らせる。

「何かアレバこれを使うといい。使い方なんて知る必要はナイ。ただ、使いなさイ。頑張ってネ、僕はどちらかというと・・・君を応援しているヨ」

 男はそれだけ言うと満足したように笑って膝から崩れ落ちていった。

「何なのよ、全く」

 そう呟くキセだったが、キセにも大体の予想は付いた。

魂使いは、魂の形を能力にしたもの。

だからこそ、その能力に反することはできない。しかしそれをよしとしなかったために彼はカタコトで、どこまでも統一性のないキャラクターを演出していたのだろう。

俺は、そんなものには屈しないと言葉の裏に叫んでるのが、想像出来る。

魂使いになるのは良いことだと言われることはよくあるが、それは勘違いにも似た思想で、実際魂使いになったために制限でがんじがらめになってしまったということは珍しくない。

そして魂使いの最期は。

「骨も肉片もなく消えていく・・・か。世知辛いねぇ」

 そう言って、地面に横たわる名も知らぬ分割の魂使いからもらった透明な剣のキーホルダーのようなものを太陽に透かして見てみれば、そこにある太陽はどこか濁っていて、まるでこの世界が偽物だと言っているようだった。

「・・・あながち外れては居ないわね」

 気持ち悪い、と何かに言うでもなくキセはそうつぶやいて、ロキセの墓を見る。

「・・・ねぇ、お母さん。私はどうすればいいのかな。お母さんを取ればいいのか、それとも大して仲良くもない友人を取ればいいのか。私には分からないよ」

 まぁ、あんたに聞いたらすぐにこう返すんでしょうね。

「そりゃあアンタ、友人を優先するべきだろ」

「!?」

 突然背後から聞こえてきた声に反射的に後ろを振り返ると、そこには見知らぬ女性が一人立っていた。黒いレザーコートを羽織ったサイドポニーテールの緑色の髪の毛を携えたキリッとしたつり目に青みがかった眼球。

「アンタ、ロキセの娘だろ?」

 口に棒が付いた飴を咥え、突然現れた女性はしたり顔でそういった。

「え、は、はい」

 少し驚いてそう答えると、女性はフフッと笑って口を開いた

「いや、少しは人間に近づいたんでねぃの?」

「え?」

 女性が言った意味が分からずそう聞き返すが、女性はその問に答える気もなくロキセの墓場に手をつき、キセに尋ねる。

「で?アンタどうすんだ?ロキセなら十中八九友達を取れと言うと思うぜ?」

 コロコロと口の中で飴を転がしてるのか、棒が上下左右に動くのを目で追いながらキセは答える。

「・・・まぁ、そうでしょうけども」

「なんだい、まだなんか迷うことがあるのかい?」

 女性にそう聞かれ、キセは言うべきかそうでないかを一瞬迷った末に、口を開いた。

「なんて、言うか。私の選択は私の意思なのかな、って思って」

「・・・そりゃまたなんで?」

「その、なにか見えないモノに引きずられているようなそんな感じがして。気持ち悪いんです」

 キセのその言葉を聞いて、女性はふむ、と一つ頷いてから、答える。

「思春期ってやつか?遅いようで妥当な時期だな。まぁそんな風に思う時期は誰にでもある、なんていう月並みな言葉を送るしか無いってカウンセリングは言うんだろうけど、私の場合はそうだな、なんて言うんだろうな」

 彼女はそう言ってコロコロとキャンディを転がして少し思案して、こういった。

「そうだね、自分探しの旅をするという言葉の矛盾を、アンタは分かるかい?」

「・・・。自分はそこにいるのに、どこに探しに行くのかっていうことですか?」

「まぁ、大体正解。突然ぱっと現れた私に言われるのも癪に障るかもだけど。人生の選択ってのは自分で選んでいるようでどれも自分だけで選んでいるわけじゃないのさ。そっちは危険だと言われれば別の方向を選びたくなる。その選択に関して他人から何かを言われた時点でそれは自分だけで選択したものじゃあなくなるわけさ」

「じゃあ、私のいる意味は?」

「だから、それはもうそれだと割りきるしか無いのさ。他人に影響されようが、なんだろうがそれが私だと割り切るしかないだろ。それを割り切れないで他人が全てだと、そのアドバイスに頼り切って自分だけじゃなくなるどころが自分さえも消えてしまったのが、神頼みってやつ。君が憎んでいた、神に心酔した連中もこういった類の連中さ」

 彼女の言葉をキセは自分なりに噛み砕き、理解する。

「そう、ですか。結局貴方が言いたいのは最後に自分で判断すればそれは自分の選択だと言えると、そういう事ですか」

 キセがそう言うと、女性は微笑む。

「正解。最後に選択したのがアンタならその先がどうなろうが、誰かの意図通りだったとしてもそれはアンタの選択だ。但し」

 自分の選択だと言い切るからにはそれ相応の、責任が伴うものだよ。

「例えばこの件で言えばアンタがこのまま何も行動しないのもひとつの選択だ。だとすれば高確率で大半の若い世代が死んでいく。それはお前のせいだと言われても仕方のない事だよ。でも責任っていうのはマイナス以外にも働くんだぜ」

成功すれば褒められる、ってのは責任がプラスに働くいい例だと思わないか?

お前が選択して、お前が責任を請け負うのは何も悪いことだけじゃあ無いんだぜ。

 彼女の言葉は今出会っただけの人間から出た、一見して薄っぺらいだけの台詞。

だけども、掃いて捨ててしまっていいほど軽い物でもない。

「まぁ、アンタがどうするかは勝手だ。私も私で勝手にやらせてもらうだけだし。別に強制しないさ。負けるのなら慣れてるからな。一人でやるのは別に構わない。まぁ、負かすのにも、慣れてるわけだけど」

 彼女はそう言って、軽く墓の上の空間を指でつまむようにしてグイと引っ張ると、何か透明な膜が無理やり引き伸ばされたような光景が広がる。そしてその引き伸ばされた空間が耐え切れなくて引き裂かれたかのような、細く黒い空間が縦に出現し、そのなかに彼女は足を踏み入れる。

「じゃあ行ってくるよ。私は私の勝負に、敗けに行くだけさ」

 冗談交じりにそう言って笑う彼女がぼやけた空間に入って消えてしまう寸前で、キセは声をかけた。

「待ってください!」

 キセがそう言うと、彼女の動きがピタリと止まり、その先の言葉を待つかのように、ぼやけた空間を開いてこちらを見据えた。

「なんだい?」

「私も、行かせてください」

 キセが意を決してそう言うと、女性は少し微笑んで頷いた。

「なら早く来い。母親はあんまり待たせるもんじゃないぜ、どの世界の母親も、子供にはできるだけ長く会っていたいと思うもんだしな」


****

 この世界は、神に見放された。

二年前、つまりは神が消された日に両親が居なくなった小さな子供は、絶望に包まれた。

 信心深かった両親は、原因不明の脳梗塞により、死去。

原因不明という割に病名はわかっているではないかと言われるが、つまりはなぜ脳梗塞になったのかが分からないと言う事だ。老化も、血液状態も、血管の状態も健常な人のそれだった。ただおかしかったのは精神だけだった。それなのになぜ、突然脳梗塞になったのか。

 分からない。

誰もがそう言う。なぜ死んだと医者に問えば、分からない。なぜ死んだと警察に問えば、分からない。なぜ死んだと、御本家と呼ばれる宗教団体のトップに立つ人間に聞けば、分からない。

分からない事だらけだった。いやむしろ分からない事しか無い。

なぜ?なぜ?なんで?

多すぎる疑問はやがて未知への恐怖へと変わり、そして未知への恐怖は絶望へと変わる。

――――こんな事が起きたのは、人間が世界に見放されたからだ。

 少年の心境がそう変化したのは、ごく自然な事だろう。

少年の心に、絶望が巣食う。

そして少年は思った。

――――ないなら、作ればいいじゃないか。

 ある種ポジティブなその思考だったが、その実それは限りなくネガティブだった。

神というものが存在する必要条件としてまず、世界に絶望が必要だという事を少年は把握していたからだ。

つまり。

 手始めに自分を、そして世界を、絶望に落とそう。

そうだな、何がいいかな?

―――少年は少し考えそして結論に至る。

 やっぱりあらがいようのない、死かな。

心の中でそう結論付けた少年は悲しそうに、とても哀しそうに・・・笑った。

「神を、作ろう」

―――そして、殺すんだ。

世界を、もっと絶望に落とすために。

 この時点で既に、少年の心は絶望というものに食われてしまっていたと言って間違いないだろう。既に、魂使いの性質である能力に反することができないという縛りに、囚われてしまっているのだから。

こうして幸せを知っていた少年は、絶望を与える少年に、なったのでした。


****

「と、まぁこんなもんだな。今回の事件に絡んでる人間で、アンタが知らなそうなのは。解ったかい?」

 デロッタと名乗った女性はそう言って、キセに理解したかどうかを尋ねる。

「ええ。概ね理解しました。・・・それにしても、そこまで事情を知っていて何故ここまで遅れをとったのですか?」

 少し咎めるようにキセが言うと、デロッタはケラケラと笑う。

「そもそも私がこの事件に関わろうと思ったのが一昨日だしな。まぁそれにしては早い情報収集能力だと思わないかい?」

「・・・ええ。それと一つ聞きたいことが」

「ん?」

「この事件、誰が味方で誰が敵で、今何が起こってるんですか?」

 相当頭がごちゃごちゃになってるのか、まゆをひそめてキセは尋ねる。

「あー。そうか。アンタにしてみれば全員初対面のようなもんだからな。名前がわからないのも仕方ないか」

 デロッタはそう言って、キャンディのなくなった棒を持って空中に文字を描いた。

「アンタの味方と思われる陣営から行こう。まずゴロク。記録の魂使いだな」

 語録、と空中に書いた下に本の絵を描き、デロッタは棒を持った手で殴るように描いた文字と絵を叩くと、それが浮き上がって歩く二人の頭の高さに浮遊する。

「んで、二人目。カラドボルグの店長ことウィッチ。本名は知らんし、能力も知らない。ただ知ってるのは・・・得体のしれない腹黒やろうってことだけだな」

「ウィッチって呼ばれてるんですね・・・彼女」

 キセがなんとも言えない表情で言うのを聞いて、デロッタは笑う。

「まぁ、あいつはキモいからな」

 うわぁ・・・・

「んで、三人目。アンタの陣営は・・・そうだな。もういないな」

 デロッタはそう言って、ふむ。と顎を手で支えて考えこむふりをして、口を開く。

「ま、いっか。次は敵陣営だ。こっちはぱっと思いつくだけでも五人。正義・勝利・死神・絶望。正直どうでもいい連中ばっかだな。私にしちゃどいつもこいつも大して変わらん。ただ、だ。一番厄介なのはどっちの勢力に付いているかも分からないロキセの存在だ。こいつが相手側に付いてるのだとすると、相当厄介だ」

 コロコロとキャンディを舐めながらのデロッタの説明が終わるのと同時に、真っ黒な空間が途切れ、突如目の前に石造りの洋風な洋館・・・のような大きな建物が現れた。

「ここ・・・は」

 この時代にはもう目にしなくなった石造りの建物が突如現れ、キセは目を丸くしてデロッタに尋ねる。

「ここは、なんて言うんだろうなぁ、まあ、地獄だとでも思ってればいいんじゃねぇ?」

 ケラケラと笑いながら、デロッタはふざけて答える。

「ま、行こうか」

 まるで予想通りだと言わんばかりの冷静さで、洋館の扉を足で乱暴に開ける。女性の開け方ではないとか、そんなことはもう些事と言っていいほどこの状況は混乱してる。

 そんなことを思いながらデロッタについて歩くと、玄関から伸びる廊下を少し行くと、大きな木製のドアが異様な雰囲気を持って佇んでいた。

「ふ・・・む」

 デロッタは先程とは違って少し慎重に、触るでもなく隅々を見渡して何かを調べていた。

「何をしているの?」

「ン、ああね、もうここはアイツらの拠点と言っていいところだから流石に警戒しようと思って」

「え・・・それ普通玄関からやりませんか・・・?」

「警戒した結果蹴破ってもいいかなと」

「えー・・・」

 デロッタの破天荒さに少し呆れてため息を吐くのと同時に、罠の確認が終わったのかデロッタが静かにドアを開く。

「おーじゃまっしまーす」

 陽気に、今にもスキップでもしそうなほどの笑顔でデロッタがドアを開けてエントランスに一歩踏み入れた次の瞬間に、白い物がデロッタへと思いきりぶつかった。

「ってぇ・・・何しやがる・・・」

 反射的に抱き抱えたソレを地面にゆっくりと下ろしながら悪態をつくと、飛んできたものが苦しそうに口を開いた。

「あ・・・れ?デロッタさんじゃありませんか、貴方が来るとは思いませんでしたよ」

「ん、おおゴロクか、久しぶりだな」

 ロキセ繋がりで知り合いだった二人が再会の挨拶をすると、ゴロクはキセに顔を向けて悪態をつく。

「遅すぎますよ、遅いのは頭の回転だけにしてくれると助かるのですが」

「うっうるさいわね、大体こんな事になってるなんて知らなかったわよ」

「まぁ、正直私もあそこからここに来れるとは思ってませんでしたがね・・・良かったのか、悪かったのか」

 服に付いたホコリを払いながら立ち上がったゴロクは、エントランスの向こう側に居るであろう敵を見据える。

「随分、手荒い歓迎を受けまして」

 ゴロクがそう言うと、エントランスの奥に居た人間が、ゆっくりとこちらへ歩きながら口を開く。

「手荒い歓迎?馬鹿言うなよ。殴りこんできたのはどこのどいつだ?」

「心外ですね、そもそも殴りこみされる理由を作ったのは貴方達でしょうが。死神と、勝利の魂使いさん」

「いや、そもそもの原因がロキセなんだから俺達が責められるいわれは無いと思うんだけど?」

 死神とはまた違う男性の声が、エントランスに響く。

こいつが、勝利の魂使いの、人間。魂使いの四天王の頂点に立っていたと聞かされていたために思わず体を固くしたキセに、デロッタは軽く言う。

「そう硬くなるなよ。あいつは私が居る時点で能無しだぜ。勝利というプラスイメージがあるって程度の差は頭が良い勉強家と頭がいい怠け者程度の差しかない。つまり私があいつを倒すことは簡単だってことだぜ、キセ」

 軽い調子の声を聞いて、エントランスの奥にいる男は頭を抱えてうずくまる。

「なんてこったデロッタが居るなんて聞いてねぇぞ!」

 くそ!と悪態をついて嘆くその男は、どうやらデロッタが天敵らしい。

「あれだ、試合に負けて勝負に勝ったっていう諺・・・慣用句?よくは知らないけどあるだろ?あれと同じでな、私とあいつはどちらも共存することができてしまう能力でな。つまりはどっちが明確に強いとか無いのさ。言ってしまえば互角。有り体に言えば相殺されてしまう。だから私がここに存在するだけで、あいつは極端に弱くなる」

 けど、私は基本的に能力に頼らない戦い方をするから、私にかんしては問題無いんだけどな。

キャンディを舐めながらそう言う彼女は、なんだろう、旦那を尻にひく気の強い女性そのものだった。

デロッタは面倒そうにエントランスを見渡し、

「軽快に行くぜ、シリアスなんてものは苦手なんだよ。軽快に軽く、爽やかに行こうぜ」

 右腕を横に振りぬき、エントランスそのものを、切った。


****

「はぁああああ!?」

 あまりの出来事にキャラも忘れて叫ぶキセを気にも留めず、デロッタはケラケラと笑いながら落ちてくる瓦礫をひたすらに相手に向けて発射させる。

「色々とおかしい・・・おかしすぎる・・・」

 戦い方のおかしさに呆れてため息を吐き、自分は自分の事をやるために目を凝らす。

いや、言葉を凝らす、とでも言おうか。

「ロキセの場所を、私が見つける」

 ダメ元でそう言うと、土煙で埋まる視界の中に一つ、ぼんやりと浮かぶ人影があった。

「・・・まさか、事象まで操れるなんて・・・ね」

 そう呟くキセをデロッタが驚いた顔で見ていることに、キセは気付かず崩れる瓦礫の合間を縫ってその浮かびあがる人影へと駆けると、土煙の中から銀色の刃がキセの喉元へ吸い込まれるように迫る。

「―――弾け!」

 キセそう叫んだのと同時に、迫る刃は何かに弾かれたように軌跡を90度上に変更してどこかへ吹き飛んでいった。

「・・・ったく、木村と戦った時より使いこなしてねぇか・・・?」

 崩れ落ちる瓦礫の向こうで呆れてそう笑う少年は、一旦は仲間になったはずの死神だった。

「そりゃ、主人公は成長するものよ」

「速すぎるんだよ、その成長が・・・」

「主人公ってのは相手より常に強くなくちゃいけないものだし。仕方ないわ」

「はぁ・・・話が通じないな」

 呆れてため息を吐いた死神は、吹き飛ばされたはずの鎌をいつの間にか自分の右手に握り、周囲にある瓦礫をすべて切り裂く。

「死んで、もらうぜ」

「――――残念だけど、お断りするわ」

 キセがそう言って笑うのと同時に、死神の持っていた鎌は反転し、合ったはずの天井の向こう側から差し込む太陽の光が鎌に反射してキセの視界を潰し、よろめいた隙に地面を踏みしめて思い切りキセに向かって跳躍する。

「ひざま・・・づけ!」

 死神が地面を蹴ったのを音で確認したキセはとりあえずの対処法として死神に言葉で攻撃、

「断る・・・ぜ!」

 しかし、言葉の攻撃は死神に、死なされてしまう。変わらず迫る鎌の刃を、やっと回復した目で視認したキセは、鎌の行き先が自分の首だということを理解して、残り2cmも進めば首に刺さると言う所で、キセは叫ぶ。

「止まれ」

 もう刺さる、と言う所で油断していた死神は突如降りかかった言葉の抑止に抗うことができない。

距離も近ければ、音が聞こえるのも速くなる。つまり口の動きを見て言葉の攻撃を殺すという所業が難しくなるという事だ。

「・・・っ!」

 慌てて体を拘束する言霊を殺そうとするが、その前にキセの重い蹴りが死神の腹部に突き刺さる。

「ぐっ・・・」

 ギリ、と歯をかみしめて痛みを我慢し、途切れかける集中力を復活させて言葉の拘束を解く。が、既に鎌の先にキセはいない。

「どこに――――」

 慌てて後ろを確認すると、死神に構わずエントランスの奥へと進もうとしているキセの姿が目に入る。

「いか――――せるかよぉっ!」

 クル、と右手に持っていた鎌を一回転させ、キセと自分の間の空間を切るように斜めに振り下ろすと、先ほどまで50mほど先にいたキセの姿が、目の前に出現する。その背中を返し刃で切り裂こうとするが、鎌の動きが突然制限される。

「距離を―――殺す。中々便利な能力ですが」

 もっと使い方を考えるべきでしたね。

脳裏に響くその言葉は、

「ゴロクか――――っ!」

 鎌が止められたのがキセによるものではない事に気づき、慌てて対処をしようとするが、ゴロクがそこまで余裕をもたせるわけもない。

「遅すぎますよ、頭の回転も、体の動きも!」

 手で抑えていた鎌を足場にし、死神の正面に回りこんで胸元を右手で掴む。

「地面に、挨拶ですよ!」

 空中に浮遊しているとは思えない力でゴロクは死神を空中に引き上げ、空中で一本背負いのように死神を頭から地面に叩きつける。

「ギッ――――」

 かろうじて衝撃を殺したが、砕けた地面から飛んできた破片が体の隅々にぶつかるという事象までは殺せず、僅かにダメージが残る。

「貴方も成長しましたが、まだまだですね!」

 死神の意識が途切れていないということを把握すると、ゴロクはそのまま横に回転させて地面を引きずり回し、上空に思い切り放った。本来なら距離を殺して一瞬でゴロクにも、キセにも肉薄できるためにこの手は使わないほうがいいのだが、今の死神は引きずり回されたダメージを殺すことに手一杯でそこまで能力に余裕がなかった。

「これで終わりです!」

 空中に放り投げられた死神にジャンプし肉薄し、右手で胸元を掴み、左手で石の破片を持って首元に押し当て、崩れていく瓦礫を能力を駆使して死神にぶつけていく。

 つまり、処理遅れを狙っているのだ。

殆どの攻撃が処理を遅らせてしまえば良くて骨折悪くて死亡という攻撃の中、どれもかわせるわけもない。そして地面に落下した時に、ただでさえ間に合わない処理の上に重ねて4つ以上の攻撃が重なる。

 落下の衝撃と、首の石と、降ってくる石と、胸の上に乗っているゴロクの衝撃。

複合的に重なった攻撃が、今の死神にかわせるわけがない。

つまり、ゴロクの勝利。

その―――――はずだった。

 地面まで残り2mと言う所で、急に全ての攻撃が止まる。

「っ」

 ソレを確認したゴロクは小さく舌打ちをして思い切り死神の腹部を蹴ってその場を脱出し、数十メートル離れた場所に着地する。

「・・・結果ではなく、原因を殺すことが出来るんですか、魂使いっていうのは便利なものですね」

 ここへ来て成長した旧友に、ゴロクはため息を吐いて称賛の言葉を送る。

「お陰様で・・・な」

 ゆっくりと立ち上がった死神は、未だに降り注ぐ瓦礫のすべてを、殺した。

パキン、とガラスが割れたような乾いた音が響き渡ったと思えば、上空で落下を続けていた瓦礫全てが消え去っていた。

「・・・瓦礫を、殺したんですか」

 本来生を持たないモノに死を与えるということは、つまりそこにあったと言う事実を殺す事ができるということで、概念にまで手を出したということにもイコールになる。

「距離ってのはまだ感覚がつかみ易かったからいいんだけどよ・・・無機物はいささか難しかったんだ、まぁ、今はできるようになったんだけどよ」

 立ち上がった死神は、フゥとため息を吐いて鎌を持ち直す。

「さぁ、第二ラウンドだ」


****

「ハハッ。はーでにやってるじゃねぇの、若者連中は激しいねぇ」

 ニヤニヤと笑いながらゴロクと死神の戦いを眺めているデロッタに、一人の男が剣を向ける。

「何のつもりだ。お前はこっちの人間じゃあ無かったのか?」

 男が剣呑な目付きでデロッタを見据えてそう言うと、デロッタはキャンディを口の中で転がし、

「ん、まぁそうなんだけどよ、知ってるだろ?私は気まぐれなんだ。ここに来る途中にロキセの忘れ形見と会ったら気が変わっちまってな。あんな物心もついてないような少女一人を寄ってたかって敵にしてる人間は、馬鹿みたいだと思わねぇか?」

「母親を殺すか知らない他人を殺すかと聞かれれば、答えは明白だろ」

「ソレこそ馬鹿だってんだ。キセはロキセの娘だろ?んで私たちはある意味ロキセの子供だ。兄弟で殺しあえないようにあいつが死ぬことは許さないと言ったのはいいけどよ?兄弟で殺しあうってのは、滑稽じゃあねぇか?」

 デロッタがふざけた調子でそう言うと、男はギリ、と奥歯を噛み締め悔しそうに顔を歪めて口を開く。

「ソレ以上に、母親を見殺しにするほうがおかしいだろうが―――っ!」

 ドパン!と地面を蹴り、剣を振りおろしながら接近する男を見ながら、デロッタは吐き捨てる。

「くだらねぇ、あいつはあいつで死ぬと決めたんだ。死んだ人間の魂を括ろうなんざ、無理で無意味で無価値なんだよ」

 ゾン、と空気が引き裂かれる音と共に振り下ろされた剣は、デロッタに当たる直前にデロッタが口から吹き出したキャンディによって弾かれる。

「なっ!?」

「馬鹿が、対象を変える程度の事もできない低能で、私に勝とうなんざ百年はえーんだよ!」

 剣が弾かれたことで動揺した男の胸をハイヒールのピンの部分で思い切り突く。メギ、という嫌な音を響かせてから吹き飛んだ男に、デロッタは追撃をかける。

「物理現象が、私に負ける」

 そう言い、デロッタは近くにあった巨大な瓦礫を摘むようにして持ち上げる。

「さぁ、潰れろよ穀潰し」

 ブン、と軽く放り投げられたソレは、発射時と違い着地の衝撃は凄まじく、周辺の地面にヒビさえ入れる程のものだった。

「ま、死にはしないだろうけど――――」

 言いかけて、瓦礫の下から飛んできた透明な斬撃を危なげもなく跳んでかわす。

「へぇ、まだ意識あったなんてな。タフなだけが売りなのは現在進行形か?」

 少し離れたところに着地したデロッタは、新たにポケットからキャンディを取り出して咥え、感心したように言う。

「タフなのは、まあ俺の特権さ」

 ボゴリ、と鈍い音を立てて上にのしかかる瓦礫を砕き、男はゆっくりと立ち上がる。

「それに言うけどね、勝利が負けるなんてことが、本当に君はあると思うのかい?」

「ハン、だから言ったろうが、私たちは同時に存在出来るんだから、勝ちも負けもありゃしない。私達が二人戦って出来る結果はただ、動けるか動けないかぐらいだろうが」

「そうは言うけどね、残念ながらこの世界にはプラスエネルギーというものが流れていてね、負の概念は勝利の概念に勝てないのさ、残念ながら、それは世界のルールなのさ」

 誇らしげに、男は言う。

「ある種、宗教みてぇなもんだな。悪いとは思わねぇが、気色悪いぜ、大の男がよってたかって一人の女にのしかかりやがって。生き地獄って言葉は知ってるか?」

「その地獄を天国にすることが出来るのが、僕達プラスエネルギーから生まれた魂使いだと、何でわからないかな」

「くだらねぇなぁ。神を信仰して思考を停止する程にくだらないぜ、今のお前。お前は神とロキセを同一視してるだけだって、何でわからないかな?」

「・・・馬鹿にしているのかい?」

「当たり前だ」

「今君は、ロキセと神を同時に馬鹿にしたんだよ?そして、世界のルールさえも馬鹿にしたんだよ。わかってるのかい?」

 信じられないようにまゆをひそめてそう尋ねる男に、デロッタはため息を吐いて答える。

「わかってねぇのはお前だよ、お前ロキセが何を殺したのかもう覚えてないのか?」


―――――神だろうが。

 デロッタがそう言ってキャンディを噛み砕いたその瞬間に、男の周囲に土の槍が出現する。

「!?」

「問答は嫌いだ、とっとと行動不能になれよ、自称最強」


****

「君は神というものを何だと捉えるかね?」

 初老の男性が、隣に座る秘書に向かって尋ねると、秘書はさして興味もなさそうに、淡白な調子で答える。

「神、というのは人間が創りだした偶像だと私は考えます」

「・・・そうか、ソレは半分正解で、半分外れだ。次の質問だ。神は人間に造れると思うかい?」

「――――先程も申したとおり・・・」

 秘書は言いかけ、この男が同じ答えを期待して質問をするわけがないと考えなおす。

造る、というのはつまり・・・

「可能、ですね」

 逡巡して答えた秘書の言葉に、初老の博士は満足気に頷く。

「彼女は何も知らない。何一つ覚えていない。すべてが彼女のおかげで始まった事件なのに、だ。それは悲しい事だとは思わないかね?」

「私には、解りかねます。私が知るあの子は・・・彼でしたから」

「そうかい。たしかに君は少女の方には会ったことがなかったね。さぁ、解答編だ。このスパコンで算出した未来予測が、天使達の動きにどこまでついていけたのかを知りたいものだね。そしてソレを台無しにする楽しさを、僕は味わいたい。だから、頼んだよ。彼を自由の身にしてやってくれ。彼の調整はもう十分だ」


****

「貴方、だったのね」

 乾いた喉を震わせて、キセは目の前に立つ人物を見据える。

「そうですよ、僕――――です」

 そこにいたのは、何度かよるに出会った、あの少年だった。

 裏切られた、そうキセは心の中で分かっても、それでも怒りが湧き出てこない。

 ただ、悲しいという事実を理解して、私は悲しんでいると思い込むだけだ。

 キセのその様子を見て、少年は哀しそうに顔をゆがめる。

「やっぱり、貴方は―――――」

 少年が何かを言いかけた所で、グサリと背後から何者かに刺された音が響く。

「――――っ」

 突然の事態の転換に、キセは慌てて背後へ跳んで事態を把握するために崩れ落ちる少年の向こう側を見据える。

誰だ。

――――――お前は誰だ!

 見てはいけないと、目が拒絶し、ここにいてはいけないと足が後退りしようとし、感じてはいけないと意識が落ちようとする。

しかし、そのすべてを、キセは拒絶し、目を限界まで開いて凝視する。

その先にいたのは。

―――――もう一人の、私だった。


****

「動いた、のか。やっぱり双子の妹の居場所っていうのは分かるものなのかね?」

 初老の男性が、秘書にそう問いかけると秘書は少し思案する。

「そう言う研究結果は出てませんが」

「・・・つまらないねぇ。僕は理論ではなく感情論で話をしたかったんだよ?」

「・・・失礼しました」


****

「やぁ、久しぶり―――と言っても覚えてないのかな?」

 コツン、と軽く着地した男は、キセに瓜二つの少年だった。その存在に、その場にいた人間全員が、驚愕する。

「あれは―――キセ・・・か?」

 呆然と呟く死神の声が、静寂しきったエントランスに響き渡る。

そして、もう一人のキセはゆっくりと右腕を掲げ、言う。

「君たちは、死なないといけないんだ。残念ながらね」

 キン、と指先から放たれた光がまっすぐにキセたちに襲いかかる直前で、二人の影がキセたちと光の間に飛び込む。

「ボサッとするな!こいつはお前の双子の兄だが、全くの別モンだぞ!」

 ガガガガガッと絶え間なく続く競り合いの音が聴覚の大部分を占める中、彼女の声ははっきりと耳に届いた。

「一旦ここから脱出するぞ!ここじゃあ分が悪すぎる!」

 店長がそう叫んだ瞬間に、視界が一色で塗りつぶされる。


****

・・・・・

 慌てて転位したためか、一行はバラバラになって戻ってきてしまった。

隣にいるのは、不機嫌な店長だけだった。

「・・・・」

 綺麗な青空の下、今起きた出来事が理解できずに、キセはため息を吐く。

「知ってるんですよね、あなた」

 キセが店長にそう言うと、店長は煙草を足ですりつぶして答える。

「知ってるさ。知りたくない事までな」

「なら、教えてください。私は・・・誰なんですか?」

「・・・お前は、三年前の家族が襲われた被害者だ」

「・・・知ってます」

「家族構成は、四人」

「おぼえては、います」

「そうか、なら生き残ったのが、二人だということは?」

「え・・・?」

 知らなかった。だって残って保護されたのは、私一人だけだった。ロキセと共に暮らしていたのは、私だけだったんだから。

「お前の兄は、お前を守るために、いや、お前の望みを叶えるために犠牲になったんだ」

「私の、ために?」

「正確には自分のためでもあったんだろうがな、お前の兄は神を殺すために犠牲になったんだ」

 新興宗教の、気が狂った人間に家を襲われた。その原因は信仰していた神、信仰していたのに助けてくれなかった神だと誰に言われるでもなく二人は思っていた。

「犠牲・・・」

「昔から、神に出会うためには生贄を捧げるのは、有名だろ?そして、お告げを聞く」

 この・・・いや、2012年の当時ですら、そこまで狂信的な儀式をやっていないはず。

「この場合、大事なのは事実じゃない。生贄を捧げれば神に出会えるという人間の思考だった」

 神は、人間の創造物なのだから、人間がそうすれば会えると長い間信じられているのなら、会えるのだ。

「半分以上が、賭けだったがな、それは幸い・・・いや、不幸にも、成功してしまった」

 成功した事を後悔するように店長は歯ぎしりをして言う。

「そして降ろした神を、分散させた。これもまた出来ると信じた事によって可能にしたわけさ。不思議で皮肉なことだろ、神を信じるっていうのはな、神を殺すときにも、有効なのさ」

 けれども、と店長は一呼吸置く。

「神を完全に殺してしまえば、今起きようとしている青年達の死がすぐに訪れてしまう。だから神を、分割してこの世界に振りまいた」

「って、事はもしかして――――」

「ああ。魂使いは、神の欠片がこの世界に降り注いだせいで、現れたんだ。それでな、キセ―――――」

 店長がそう言いかけた所で、朝に鳥の声を流すなど無駄な役割を持つスピーカーからしわがれた声が響く。

『それは言ってしまってはいけないのではないのかい――――?必ず起きると分かってしまえばその能力は成り立たない。自覚が無いから、意味があるのだよ?』

 突然放送されたその声を聞いて、開いていた口がだんだんと閉まっていく。

「クソが、お前はどこまで監視すれば気が済むんだ」

『失礼な事を言ってもらっては困るよ。たまたま君のいる場所が私の管轄内だったってだけだよ』

ふざけてそう言う男性の声に、店長は吐き捨てるように答える。

「黙れ丸だぬき。そもそもお前があいつを放したんだろうが」

『まぁ、そうなんだけどねぇ。ところで良いのかい?このままではあの子が軍隊にやられてしまうよ?』

 あの子、とはおそらく私の兄の事だろう。しかし、その言葉を聞いても店長は慌てる様子もなく答える。

「バカ言え、人間の軍隊ごときが、あいつに勝てるわけがないだろ」

 ハァ、とため息を吐いて、店長はキセに言う。

「お前の兄の能力は、何だと思う?」

 そう問われ少し思案するが、思い当たるわけもなく首を横に振る。

「全知全能、さ」


****

「ユダ」

 唐突にそう言う博士の意図を汲みかね、秘書は心の中で首を傾げる。

「ユダ、というのを知っているかい?」

「キリストを裏切り処刑へ追い込んだ人物だということしか、知りません」

 秘書の答えに満足したように、博士は微笑む。

「それで十分だよ。ユダはつまり裏切り者さ」

 では応用問題だ。

「このメンバーでユダは、誰なんだろうね?」

 ニヤリと楽しげに唇を歪める博士に、呆れてため息を吐く。

「この時代で、神というのは法律であり、国。つまり、それに組みするもので、裏切る可能性があるのは」

「そう、僕達さ」

「そして、さらに言えば神と神はこの日本という世界において親和性が高い」

「そう、ヨーロッパや西欧ならば、神と神は殺しあうものだけれど、日本においては神と神は協力するものだ」

「つまり」

「そう、非常にまずい。僕の開発した無人人形兵器が、神と同時に使用される」

「国の、目的は?」

「増えすぎた人口の、淘汰だろうね」


****

「何なんだこれは・・・」

 建物の影で、一人の男が街の中心に浮かぶ自分の身長程の白い髪の毛を持った男と、その周囲にたつ黒い人型の機械を見て呆気に取られていた。

「あれは、兵器?」

 この平和な世界で、そんなものが開発されているわけが――――

そこまで思考を巡らせて周囲を見渡すと、ヘルメットを被り、防弾チョッキを着込んだ軍人が何人かがグループで現れた。

「い、一体あれは――――」

 軍人に問い詰めるために足を踏み出した瞬間に、男は心臓を一撃で撃たれる。

「なん・・・でっ・・・」

 ゲホ、と血を吐き、紐が切れた人形のように男は崩れ落ちる。

「勘弁してくれよ―――何で、こんな事に」

 軍人がそう吐き捨てた言葉は、誰に受け止められるわけでもなく、死が充満した路地に溶けていった。


****

「ふざけやがって」

 ザン、と腕の長さほどの剣を地面に突き刺して、眼下で広がる惨状を眺めて正義の魂使いは吐き捨てる。

「この国に、正義はもう無いのか」

 丘の上でそう言う男の背後に、複数の足音と、銃を構える機械音が響く。

「誰だ?」

 ドスの聞いた声でそうつぶやいて振り返った男の視線の先に居るのは、緑色の軍服を着た六人の人間だった。

「魂使いとお見受けします。誤解はありませんね?」

 その中心に居る軍人が、男に問う。

「ああ、間違いはない」

「そうですか――――では」

 さして感情の動きが感じられない声で軍人がそう言うのに合せ、六人の軍人がためらいもなく引き金を引いた。

パパパパパパ、と短い間隔で響いた乾いた音だが、発射された銃弾が彼を貫くことはない。

「私達が戦闘で鉛玉を使わない理由は知っているか?」

 突如後ろから聞こえた声に軍人達は慌てて振り返るが、既にそこにも男はいなかった。

「遅すぎるからだ」

 男はそう吐き捨て、ゾン、と鈍い音を響かせて六人の男を切り伏せる。

「・・・・命の軽い時代だな」

 男はそう言って、剣を振って血を払い、街の中心を見て小さくつぶやいた。

「正義を、執行する――――」


****

「ああ、居た」

 店長と二人で対策を練っていると、死神とゴロクが肩を並べて歩いてやってきた。

「・・・また仲直りしたの?」

 軽く呆れたキセがそう言うと、ゴロクは苦笑いを浮かべる。

「あんな馬鹿みたいなのが出てきてしまっては、身内同士で戦ってるのはおかしいと思いまして」

 ハァ、とため息を吐きながら、黒い人形兵器と、キセの兄を見やる。

「どうするんだ?」

 こんなことになっちまったんだ今、どうするのか。という策を店長に求める死神。

「・・・そうだな。まず、今やつが神だと民衆に思われている事から、改変していかなければならないだろうな」

 神の力というのはつまり、民衆の思想の塊。

「あいつにも弱点があるとさえ分かってしまえば民衆はあいつを神だと認めない。私達があいつに一つでも傷をつければ、奴はその時点で神からただの殺戮者へと成り下がる」

 その時点で、全知全能というあいつの能力は破綻する。

「机上論だな、出来るのか?それが、俺達に」

「具体策は、戦ってみないとわからないだろう。なにせ私たちは神と戦ったことがない。そこに期待するのは無理だろう」

 つまりは場当たり的に、戦えと言う事だ。現状それしか無いのは事実だが、それではどうしても犠牲が出てしまう。それは、避けたい。

「対抗策が無いわけじゃないぜ」

 ザリ、と砂を踏みしめる音と共に現れたのは、キャンディを咥えたデロッタと、少年をわきに抱えた木村だった。

「き、木村!?生きてたの!?」

 実は生きていた木村に思わず驚いたキセが叫ぶと、木村はうるさそうに頭を振って答える。

「甘いな、人を殺す気になったらちゃんと生命活動が停止したかどうかまで確かめないとな」

「・・・あれ、死神が何も言わないから死んだのかと思ったけど」

「悪いな、俺達はロキセの誓いで同じ魂使いは殺せないんだ」

 そう言って俺は悪くないと肩をすくめる死神をジトッとした目で睨むキセを、店長は手で制して話を続ける。

「で、対抗策ってのはなんだ?」

「その前に、ゴロクが死神へやった対処法は覚えてるか?」

 デロッタがゴロクにそう言って対処法を言うように促す。

「彼の能力でダメージを殺すのを処理するのが遅れるまで、ひたすらに連続して、出来ればすべての攻撃が致命傷になるように攻撃を、加える」

「そう。それが正解だ。全知全能っていう能力はあるがな、使ってるのは人間だ。人間の脳以上の力は発揮できないんだ」

「―――――つまり、奴が1を防御してくれば2で、2を防御すれば3で、という風に攻撃パターンを幾重にも張り巡らせて攻撃をする、ということですか」

 ゴロクが要点を簡潔にまとめてそう言うと、デロッタは満足気に頷く。

「そういう事だ。つってもこれもある種賭けだぜ。全知全能ってことはなんでもありってことだからな、あいつの頭の回転が早ければ、私達に勝ち目はない」

 厄介な事にな。

「そこで、だ。おそらくこの中で一番攻撃パターンが多い、ゴロクとキセが後方で進行、そして他のメンバーがあの黒い何かを破壊する。近接した後に、ゴロクとキセがあいつと戦闘を開始する。ざっとこんなもんか?」

 デロッタが言い終えて周囲を見渡して確認すると、各々が静かに頷く。

「じゃあ、やろうか」


****

 神出現から、二時間後。

 各々が心の準備を終え、丘の端に集合した。

「本当に、良いのですか?」

 白いグローブを手に装着したゴロクは、キセに改めて確認する。

「・・・。いいのよ。あれはもう人外でも妖怪でも何でもない。ただの外道よ。それが存在していい理由もないわ」

「・・・あくまで合理的に、ですか?」

「バカ言わないで。合理を突き詰めれば行く先は外道よ。感情を弾いてしまえば人の道は歩めない」

「失礼。言い換えます。鉄面皮、ですね」

「・・・なんでだろうね。私は神というのが居なくなってから、この世界には喜怒哀楽がなくなった気がするよ」

「仕方有りませんよ。神、宗教というのは実は日々の行いにも関係してきますから。いただきます、ごちそうさまもあれは宗教からきた言葉ですからね。宗教にも、いい部分はあるんです。間違いなく」

 悪いのは、思考を停止させること。

 魂使いの彼女たちは、その事を常に頭に置いて行きてきた。

その結果が兄との対峙だというのなら、私はそれを甘んじて受け入れる。

「私は、奇蹟を起こしてみせるわ」

 全知全能さえ、倒してみせる。

「よし、各自決意は固まったな。じゃあ行こう――――決戦だ」


****

 魔術展開―――!

両腕に力をこめ、背後で爆発させる。

「いく―――――ぞっ!」

 あいつは、助けだしてみせる!

 煙草を吐き捨て、店長ことマキは心の中で誓う。

直後、凄まじいGが全員に伸し掛かり、点として存在していた風景が一瞬線となる。

そして、5km程の距離をおよそ三秒で詰め、邂逅。

「行け!」

 神を囲う人形兵器を衝撃で吹き飛ばし、背後に居るキセとゴロクに叫ぶ。

「私たちは私たちの仕事をするだけだ。配分通り行けよ!」

 マキがそう叫ぶと、デロッタと死神は各自二体ずつ、衝撃で吹き飛ばされて態勢が崩れている人形兵器を掴んで遠くへと跳んでいく。

それを見届けたマキも近くに居た人形兵器の首根っこを掴み、先程と同じ魔法を発動させて一気に後退、その場から脱出。

「ここらへんで良いか」

 神の居所から数キロ離れたところに、思い切り二体の人形兵器を叩きつける。

「さぁ、やろうぜ。無粋な横槍は、入れさせねぇよ」

 マキはそう啖呵を切って、起き上がる二体の機械兵器の周囲に隙間が無いほどの魔方陣を展開させ、右拳を握りこむことで魔法の一斉掃射を行う。

ズドドドドドド!と様々な色の閃光と共に雨のように魔法が約十秒間続いた。

「・・・・」

 フゥ、と大きくため息を吐いたマキの肩は多少上下していた。

―――どうだ

 相手が未知な敵なために確実に殺ったとは言えないが、それでも多少のダメージは与えているはずだ。

そう考えてもうもうと立ち込める土煙を凝視する。

タタン!という軽快な音が響き渡り、黒い影が凄まじい速度でこちらへ迫る。

「―――っ!」

 反射的に魔法で生成した壁を一瞬で数十枚作成して黒い影と自分の間に設置するが、その全てがまるで障子紙を触って破いたようにあっさりと砕け散る。

「うそだろ・・・っ!」

 これで何とかなると思っていたマキは次の反応が遅れ、人形兵器の攻撃をかろうじて致命傷から避ける程度の回避行動しか出来なかった。

「くそったれ、何だあれは・・・」

 先程の現象を振り返ってマキは一瞬で仮説を立て、右手に光る玉を出現させて、右と左から迫る黒い影に1つずつ当てる。

すると爆発するはずの光球は、水風船が割れたように破裂して終わった。

「なる・・・ほどな」

 こいつは・・・魂使いの一番の天敵・・・って事か。なるほどあの博士が言っていたことはこれか。

「でも、まぁ攻撃全てを弾いてるわけじゃあ無いなら簡単だ。異能を無効化するだけなら、ただの雑魚だぜ」

 ニヤリと笑って、足元を爆発させて真後ろに後退して建物がまだ建ったままの場所へと移動し、周囲にある建物を魔法の力を使って持ち上げる。

「これを放つまでは、魔法だけどよ、これを放った後は――――ただの物理現象だぜ!」

 叫んで周囲に浮いた建物を投げつけ、更に瓦礫を魔法で精製して弾丸を造る。

「喰らえ――――!」

 ドン!という重い音を響かせて空気の壁を引き裂いて跳ぶ建物は人形機械に一瞬にしてバラバラに寸断される。

「無駄、ですよ」

 崩れて山になった建物の向こうで立つ人形兵器がふと声を上げる。

「なんだお前、無人機じゃなかったのか」

「ええ、まぁもともとは無人機だったんですがね、強化外骨格っていうのは便利なものですよ。貴方達とも対等に戦える様になるんだから。神を殺した、貴方達とね」

 黒い流線型のフルフェイスヘルメットから聞こえるその声を聞いて、マキはこの国がやったことを理解する。

「ふざけやがって」

 ロキセの犠牲を学んだっていうあの言葉は、嘘だったみたいだな―――!


****

「・・・」

 急に無言になった博士を横目で見た秘書は思わず恐怖に背筋を凍らせた。

いつもはヘラヘラと笑い、軽薄そうな笑みを浮かべているのに今の彼からは殺気すらも感じさせる。

「ねぇ、秘書君」

「・・・はい」

「僕はね、こういった裏切り行為が一番嫌いなんだよ。ロキセの犠牲を学んだから、もう人間を被験体にした実験はしないと、彼はそう誓ったはずだ。人工的に魂使いが造れるかという実験の結果として、彼はそういったはずだ。この国の首相はそういった筈なんだ。それなのにかれは孤児を洗脳して、いいように操っている。これを君は許せるかい?いや君の意見はどうでもいい。何より僕が許せない。ふざけやがってあの肉塊が。喋れないようにしてやる。行くよ秘書君。ユダの反逆だ」

 博士はそうまくし立てて椅子から立ち上がり、モニタールームから出ようと扉を開けると、そこには二人の軍服を着た兵士が立っていた。

「ここでおとなしくしていろとのことです」

 兵士のその言葉で、博士は更に激情する。

命までは取るつもりはなかったが、予定変更だ。

彼はそう言って、今外で戦っている強化外骨格と似た物を装着した右手で、兵士を一瞬で地面に引きずり倒す。

「軍人なら、死ぬ覚悟はできてるよね?」

 ニコリと笑ったその顔は今までの軽薄な笑いではなく、凄みを持った脅しの笑顔だった。


****

 相手は二体。手にはコンクリ二枚程度なら打ち抜ける拳銃と、切れ味がおかしい刃渡り一メートル程の光剣。

「滅茶苦茶だな・・・」

 しかもその二つを操る操縦者は相当の手練と来た。面倒なことこの上ない。と飛んでくる鉛玉をかわしながらマキは思う。

「・・まぁ、打開策が無いわけじゃあ、無いんだけどね」

 相手が業を煮やして精密射撃を諦める前に、とマキは先手を打った。

ドスン、と瓦礫の重なる地面に深々と足を突き刺すと、周囲に不純物のないコンクリートを作ってドーム型の防御壁を生成する。

「まぁ、真似ってのも戦略の1つとしては良いんだぜ」

 そうひとりごとをつぶやくと、地面の奥深くからダイヤモンドを引きずり上げて溶かし、粘性を高くして自分の体から一ミリほどだけ浮かして維持し、その上から不純物の混じっていない水を纏わせ、その上に節々を溶かしたコンクリートを重ねる。

「急遽作成、強化外骨格」

 満足気にそうつぶやくと、その下にある身体に魔法で強化をかけ、戦闘準備完了。

「さぁ軽快に行こう。重い戦いは私は苦手でね」

 マキがそう言った瞬間に、マキの右側と左側のドームの壁が破壊され、同時に人形兵器

・・・強化外骨格が現れる。

「いいタイミングだ。褒めてやるよ!」

 光剣を突き出して突進してきた両方の強化外骨格のうち、右側に居る強化外骨格の光剣を持つ腕を、自分の関節が触らないように器用に掴んでそのまま逆にへし折る。

ベギン!という嫌な音が響き渡るのを気にも止めず、フルフェイスマスクの後頭部を思い切り拳で叩き、フルフェイスマスクを叩き割り、フルフェイスマスクが割れたことによって生まれた背中と強化外骨格の間を掴み、もう一体の強化外骨格へ投げつける。

「ぐっ」

 中々の重さの仲間をぶつけられて怯んで生まれたその隙を、マキが見逃すはずがない。

一瞬で接近し、苦し紛れに振るわれた光剣を右腕でがっしりとホールドする。

するとコンクリートと水を経過し、溶けたダイヤモンドへとぶつかった瞬間に魔法の力は解け、全身のダイヤモンドが一瞬で固まる。

「パージ・・・ってなぁ!」

 パリン、という軽快な音を響かせて割れたダイヤモンドを、強化外骨格の隙間へ向けて射出する。

「な・・・っ」

 信じられない展開に目を丸くしてるであろうフルフェイスの下の顔を想像し、マキはほくそ笑む。

「これで終わりだ、餓鬼」

 関節部分にダイヤモンドが差し込まれて自由に動かなくなった強化外骨格は、ただのおもりでしか無い。つまり二人はもう動くことができない。

「私の、勝ちだ」

 マキがそうつぶやくと、三人を覆っていたコンクリートのドームがバラバラと崩れて青い空をその上空に出現させた。

「みろよ、いい天気だ」

 あいつが死んだ日も、こんな天気だったな。


****

 クル、クル、クルと鎌を回して死神は心の中で毒づく。

 事象を殺せるのは、後三回。無機物を殺せるのは、あと六回。生物なら、あと十回。

 続く連戦に、既に死神は疲弊しきっていた。

「くそが・・・」

 思わずため息を吐いて、目の前に立つ二人の黒い強化外骨格を見据える。

あいつに触れてあの強化外骨格を殺せればいいのだが、どうやらあれは、異能の力を消すという性能がある。

「神を守る奴が、神を殺す決定的な力を持ってるなんてな」

 皮肉なもんだぜ。ロキセを守ることがあいつを守ることに繋がるとか、そんなことを思ってたんだけどな。

「どうやら違うみたいなんだよ。あいつはもう親元を離れることを選んだ」

 自分でも馬鹿だと思う。あんな見ず知らずの奴のために体を張るなんて。でも。そんなこともできないような奴が、主人公なんて出来るわけ無いだろうが。

「脇役にラスボスを譲るって、新しい主人公だと思わね?」

 クルクルと鎌を回しながら軽薄にそう言うが、目の前に立つ二人は何の反応もない。

「・・・・」

 あくまで無言か。まぁそうさね。ここまで来て争わないで会話しようなんて甘すぎるか。

死神は少し残念そうにため息を吐いて、鎌を構える。が、二人は何を構えるでもなくただ立ったままだ。

「・・・そうか、余裕だってのか」

 そうかそうか。

「なめられた、もんだよなぁ!」

 グ、と腰に力を溜め、横に一閃、続けて縦に一閃。

「さぁ、潰れろ」

 ギン、と何かが割れるような音と共に、強化外骨格の上に複数の建物が出現する。

 あと―――一回。

自分の疲労度を考えて事象を殺す事ができるのは後一回。その一回はもう、使い方は決まっている。

が、それはあくまで予定通りに相手が動いた場合の話だ。

死神は基本的に、頭が悪い。

 ガガガガガガッとマシンガンが発射されたような音を響かせ、黒い影が背後へと回る。

「くそったれ―――!そんなに動きが早いなんてきいてねぇぞ!」

 ゴウ、と凄まじい速度で迫る黒い拳をかろうじて鎌で防御するが、異能の力を無効化するその力に耐えられるわけがなく、激しくバウンドしながら地面を転がる。

「ってぇ―――」

 ゲホ、と肺に溜まった息を吐き出して顔を上げれば、既にそこには強化外骨格が剣を振り上げて立っていた。

「早いんだよ――――っ!」

 そう悪態をつきながら、手近にあった鉄パイプを引きずりだして振り下ろされる剣ではなく拳を横からはたいて剣の起動を変え、わざわざ鎌を出現させて強化外骨格を叩く。が、当然のようにその攻撃は届かない。

 しかし死神はそれに構いもせず、鉄パイプを持って強化外骨格の肩を足場にして空高く舞い上がる。

「うっひょ、たっけ」

 無我夢中で空高く跳躍した死神の高度はおよそ二百メートル。

先程剣をもって襲ってきた一体目がこちらに向き直るのを確認して、もう一体の強化外骨格の姿を探して周囲を見渡すと、もう一体は大きな銃口をもったバズーカにすら見える銃をこちらに向けて膝を下ろしていた。

「んな――――っ!」

 驚く暇もなく、その銃口が火を吹いて大きな鉛玉が射出される。

「うごっけええええええええええええええ!」

 迫る鉛玉を、体を横に捻って軌道をずらすために下から上に鉄パイプで思い切り叩く。

 ギャギャギャ!と鉄がすり切れる嫌な音と火花を激しく散らしながら、鉛玉はかろうじて上方にずれる。

「クソったれ、が!」

 鉛玉を弾いて生まれた回転力をそのままに死神は回転し、膝を卸している強化外骨格の喉元へと今の競り合いで尖った鉄パイプを思い切り投擲する。

グォン!と空気を切り裂いて死神の手から射出されたそれは強化外骨格が逃げる暇もなく喉へと突き刺さる。

 が、それで安心出来るわけがない。

 二体目の強化外骨格を倒し、一体目の強化外骨格へと目を向ければ、既に半分の距離まで跳躍していた。

「連携プレイ上手いね、お前ら!」

 感心してそう叫ぶと、跳躍してきている強化外骨格が肩から銃弾を数発発射させる。

その致命傷になりそうなものだけを殺し、消滅させながら、鎌を二本出現させて両手にもって迫る強化外骨格へ叩き下ろす。

ガン!と音がなった次の瞬間には鎌が消えてるが、死神はめげずに更に鎌を出現させて鎌を横に振り抜いて強化外骨格の胴体を引き裂くために敵を完全に捉えて鎌を引き抜くが、やはり鎌は消滅してしまう。

そんな死神にお構いなしに、相手はふりあげた剣を思い切り振り下ろす。

「簡単に、やられねぇよ――――!」

 そう叫び、振り下ろされた剣ではなく拳を足場にして地面に向かって跳躍する。

予想外にスピードがでて着地が上手く行かず少し転がったが、それでももう良い。

「俺の、勝ちだ」

 新たに鎌を出現させ、クルクルと二回回して死神は鎌を横に振る。

その瞬間に、強化外骨格はバラバラに砕け散り、何が起こったのかわからないといった様子の操縦者が現れる。

「異能を消す、っていうのは殺せないけどな、異能が俺の能力を消した、っていう事象は殺せるんだ。俺達概念系の魂使いはそう言う卑怯業が使えるから、強いんだぜ。伊達に四天王の四番目やってたわけじゃあ無いんだ。パワーインフレなんざ、この世界では普通だぜ」

 言って、着地に失敗して立つことが出来ない操縦者に歩み寄る。

「ま、頑張って生きることさね」

 ・・・さぁ、俺のやることは終わった。お前が何を選択できたのか。俺はそれを見届ける。


****

「おいおいおい、勢いで二人連れてきちまったけどいいのか?大丈夫か?あの二人」

 言葉では心配する素振りをみせる見せるデロッタだが、その表情は楽しむような表情だけだ。

「っていうか私にたかが二人でいいのか?どうやら異能を消す能力があるようだけど?そんなの私にとっちゃ吹けば飛ぶただの小細工だぜ?面白くもないねぇ」

 デロッタは凄まじい速度で振り下ろし、薙ぎ、振り上げられる2つの光剣をかわしながら笑って言う。

「お前らに対する異能は取り消せてもお前らの攻撃が私に当たるという勝負の勝敗は消せないみたいだな?なんだよ欠陥品だらけじゃねぇかその力。武器の魂使いならいざしらず、相手が悪かったな。概念の魂使いにその程度の力は通じねぇよ」

 そう言って、敵二人が同時に踏み込む瞬間を見計らい、その瞬間が来た時にデロッタは地面に巨大な穴を2つ生成する。

敵の三倍もの深さの穴だ。

「ブーストでもつけておくんだったな。お前達」

 デロッタは穴に落ちていく二人を見て笑い、手にその穴の直径と同じ大きさの、片面に五寸釘以上に大きな貼りの付いた蓋を削り出す。

「私はキセとかマキとか死神と違って甘くはないぜ。一番効率的に、至って冷酷に死んでもらうぜ」

 そう言って、デロッタは穴に落し蓋をするように放り、その上に重力をのしかからせて蓋の落下を加速させる。

「常識程度が、弱点程度が、私に勝てるわけ無いだろ?」

 ズン、という重い音を響かせ落下していくその蓋は、彼らを容赦無く襲った。

 そして、静かになった穴の中を見るでもなく、デロッタは踵を返す。

「・・・気に入らねぇな」

 余りにも早く付いた決着に、デロッタは悪態を吐く。

「この国も、腐ったな」


****

「久しぶり、だね」

 ゆっくりと、喋りに慣れていない子供のようにキセの兄はそういった。

「・・・そうね・・・久しぶり、ノゴ」

「大きくなったみたいだね?」

「そう言うあんたは、変わらないわね」

「正直、もうちょっと身長は欲しかったね」

「小さいとあんまりモテないものね」

「・・・困ったことにね」

 他愛のない日常会話だが、その内容とは違って周囲の風景は戦時中のそれだった。

「派手にやるわね」

「僕の存在意義でもあるからね」

「これじゃあ神じゃなくて、ただの殺戮者よ」

「味方になった全知全能が神で、敵になった全知全能は魔王になると昔から決められてるじゃないか」

 キセは、剣を構え、ノゴと呼ばれたキセの兄は拳を構える。

「久しぶりの、いや、もしかしたら最初で最後の、兄弟喧嘩といこうじゃないか」

「・・・そうね、でも知ってる?兄さん。兄弟喧嘩っていうのは往々にして、女が勝つものよ」

 グニュン、と柔らかいスライムを潰したような感覚が、二人の五感を襲う。

「僕は兄だからね、威厳というものもあるのさ。だからそっちが二人でも許してるんだよ?」

 構えるキセとゴロクを余裕の表情で見下ろす。

「・・・そう。ハンデはありがたくもらっておくわ。じゃあ始めましょう」

「ああ始めよう」


 世界を賭けた、兄弟喧嘩を。


****

「はっじっけっとべええええええええ!」

 キセの叫び声は衝撃へと姿を変え、自分たちの周囲一帯の空間を弾けさせた。

バヅン!という頑丈なゴムが切れるような音にも似た効果音が響き渡る中ゆっくりとキセへと歩み寄るキセの兄にゴロクは全体重を載せた右拳を腹部に向けて振りぬく。

ゴン!と圧縮された空気が暴走する鈍い音が響くが、攻撃は兄には当たっていない。

「あの一瞬で、点と面の広範囲攻撃をかわすなんて・・・」

 ノゴの俊敏さに思わずゴロクは感嘆する。

「おいおい、良いのかそんなんで。まだ攻撃無効すら使ってないぜ?」

 ひらひらと右手を揺らしてふざける彼からは今戦っているという事すら感じさせられない。

「ふざけてるわね、全く」

 珍しく笑顔でキセが言う言葉にゴロクは頷いて同調する。

「私はお前を、否定する」

 キセがそういった途端にノゴは表情を一瞬凍らせてから笑った。

「やっと本気って事かい?ノイエ・・・いや、キセ?」

「ええ、本気で、行くわよ」

 キセがそういった瞬間に、ゴロクの目も追いつかない速度で・・・いや、最早瞬間移動と言ったほうが正確だと言える程の速さでキセはノゴへと肉薄し、右手に持っていた黒い剣を縦に振り下ろす。

ギャギャギャ!と金属同士が擦れる音が響き渡り、あまりの衝撃の強さに周囲一帯の瓦礫が吹き飛ばされる。

「良いね、その剣!僕も剣を持つのは憧れててねぇ!」

 一瞬で出現させた剣でキセの攻撃を受け止めたノゴは、そのままキセの剣を弾いて空いた腹部の服をがっしりと掴んでそのまま地面へと投げつける。

ドン!と激しく地面に激突したキセを見届ける暇もなく、ノゴにゴロクが襲いかかる。

 右拳を思い切り突き出しての正拳突きは剣の刃の部分で弾かれる。

「硬いね、ゴロク!」

「あいにく私は成長が早くてね!」

 パン、とはじかれた右拳での攻撃を諦め、ゴロクは左足で右拳を弾いた剣を更に攻撃してノゴの腕からはじき飛ばす。

「キセ!」

 ゴロクの叫びに反応するように、空中で回転するゴロクの影から出現したキセが自分の体ごとひねって身長ほどもある剣を下から上に奔らせる。

 剣もなく防御する術が無いノゴの右足から心臓にかけて切り裂かれるはずだったが、右足の肉に剣が食い込むその直前に、ノゴは百メートルほど後方に一瞬で退避する。

 刀での攻撃が届かないと判断したキセは、その巨大な剣の遠心力を利用して回転速度を引き上げ、そしてノゴへと放った。

「苦し紛れのそんな攻撃で・・・!」

 飛んでくる大剣を下から拳で突き上げて弾き飛ばすと、大剣の影に隠れていたゴロクが

ノゴの腹部に渾身の一撃を放つ。

「奇襲したつもりか・・・!」

 凄まじい速度で迫る拳をノゴは容易く右手で受け止め、そのまま上に引き上げられて隙だらけのゴロクの体がノゴの眼前にさらされる。

ゴッ!と鈍い音を響かせてゴロクの腹部に拳が突き刺さり、軽々とゴロクは数十メートル吹き飛ばされる。

「こんの!」

 吹き飛ばされたゴロクを横目で見て生きていることを確認してからキセは両手に新しく剣を生成し、地をはうような姿勢でノゴに詰め寄り両の手に持った剣で秩序もなくノゴへ斬撃を咥える。

きらめく刃が見えたと思えば既にノゴには六回の斬撃が加えられている程の速度の斬撃のなかで、ノゴは平然とその攻撃全てをかわす。

「っんの!」

 右手に持った剣で足払いをして飛び上がったノゴに左手の剣と右手の返し刀で追撃を加えるが、2つの剣を足場にしてノゴは空高く跳躍する。

「ひょいひょいひょいひょい鬱陶しいなぁ!」

 叫び、大技が外れた直後の不安定な姿勢のまま地面を蹴り上げて跳躍して前宙しながらのごへ肉薄し、回転力をすべて乗せた振り下ろしの斬撃をノゴへ加える。

「いい加減に・・・っ!」

 いつまでたっても進展しない戦闘に業を煮やしたキセが歯を食いしばってノゴの頭へと二つの剣を振り下ろすが、刃がノゴに届くことはない。

ギギギギギギギ!と重低音の効いたセミの鳴き声のような音を響かせ、視界一面に火花が散る。

「重い・・・なぁ!」

 二秒ほどの鍔迫り合いの後に、パン!とキセの二本の刃を弾き飛ばし、怯んで隙が生まれたキセの足を掴んで地面へと放り投げる。

 ドォン!と凄まじい轟音が鳴りき、瓦礫と土煙が立ち込める。

「なんだよ、まだ俺に一撃も・・・?」

 言いかけて、ノゴは不思議そうに土煙の中を覗き込む。

今何か、得体のしれないものが見えたような・・・

 ブチン、と何かが切れる音がして、土煙がサァッと霧散する。

その、中に居たのは。

「吹き飛べっえええええええええ!」

 光球を握りこんだ右拳に纏わせ、ズン、と右足を地面に突き刺してキセは血だらけの右腕をノゴに向けて突き出した刹那。

ギュン、という音が一瞬した後に世界すべての音が消失。そして次に起きたのは、眩い閃光が迸ったかと思えば、凄まじい速度で光球が直線のビームへと変換されてノゴへと射出される。

正体不明のその攻撃に、ノゴはとりあえず光球の無効化という手で対処した。

 が、光球は止まらない。

「な―――――っ!?」

 ここへ来て魂使いとの戦い方という点においての弱点が露呈する。

―――――頭を、使うべきだったわね

 ニヤリと笑うキセの口がそう動いたと把握したのが、彼の視界が最後に捉えた映像だった。

「そうか―――お前は―――」

キン――――

乾いた、綺麗な音が温かい光と共に世界に響き渡った。

 そして神は―――――二度目の死を迎えることになる。


****

「・・・まさか。神を殺すとはね」

 博士がスーツを着込んだ男に銃を突きつけてニヒルに笑う。

「奇蹟―――ですね」

 クイ、とメガネを引き上げて言う秘書に博士は満足気に笑いかけて言う。

「そうさ。彼女の魂使いの能力は言霊使いなんていうものじゃあない。全知全能と等しくレアで、等しく強力なものだからね。彼女はおそらくこの二ヶ月でそうとう奇蹟という単語を聞いてきたはずだよ。なにせ彼女は」


 奇蹟の、魂使いなのだから。


****

「あいつは、キセは奇蹟の魂使い」

 神との、ノゴとの戦いを眺めていたデロッタが不意に死神と木村に漏らす。

「奇蹟・・・?」

「ああ。あいつは全知全能の魂使いより更におかしな能力を持ってる」

 奇蹟の、魂使い。それはつまり不可能を可能にすることが出来る。しかもそれを自由自在に可能にすることがでいると言う事だ。

「だからこそ、あいつはあるはずのない二人目の言霊使いを作れたんだ」

「二つの能力を同時に持つことも、あるわけがなかった」

 木村が確認するようにそう言うと、デロッタは頷いて肯定する。

「人間の頭の処理能力が追いつかずに頭が破裂するはず。現にそれをやろうとして死んだ奴が一人居ただろ?」

 デロッタに言われ、かつて兼用という魂使いが異なる能力を同時に利用しようとして死んだ人間が居たことを思い出す。

「そしてさらに言えば、あいつが自分の能力が奇蹟だと分かってしまえば、あいつの能力はもう使えない」

 そしておそらく、あいつはもう気付いている。自分の魂使いとしての能力に。

「偶然が必然になってしまえばそれは奇蹟でも何でもなく、起こるべくして起こるただの事実だ。つまり、何でも起こすことが出来ると言われた時点で、あいつの能力は破綻するのさ」

 ガリ、とキャンディを噛み砕き、デロッタは悪態を吐く。

「それをごまかすために、ロキセはキセに魂使いを与え、例外だと教え、そしてゴロクを付けて監視させた」

 でも、それもおそらくここまでだろう。

あいつ自身が自分の能力に気付いてしまっただろうな。

だからもう、終わりなんだよロキセ。

 お前が起こした奇蹟は、もう終わる。


****

『ガガッ―――気圧――――ガッ』

 故障したラジオがこの地域の天気が荒れてきたことを示す情報を流すが、聞いて分かるほどの情報量は出せていなかった。

「――――――」

 曇った空の隙間から差し込む太陽の光が、ノゴとキセを照らす。

「終わった、のよね」

 ポツリと呟いたキセの足元には、概念を殺す短剣と、そしてあの分割の魂使いからもらったアクセサリーが落ちていた。

分割のアクセサリーが、攻撃と投擲の混ざった光球を分割し、攻撃だけは消えたが短剣の投擲と言う事実は消えなかったために、ノゴにそのまま短剣が突き刺さった。

「・・・はい。たしかに、終わったはずです」

 二転三転、何度も終わったと思えば終わっていなかったこの事件で、一段落ついたからといってそれが安心できる要素になるわけがない。

「でも、今回はもう・・・」

 疲弊しきった体を立たせることは既に限界で、ノゴの横にドサリと腰をおろす。

「もう、疲れたよ」

 目を瞑って幸せそうな顔で死んでいるノゴの顔を見てため息を吐く。

「あとは、ロキセを―――」

 キセは言いかけて、何かの気配を感じて周囲を見渡す。

 するとノゴをまたいだ場所に、ロキセが座っていた。

死んだ時と同じ、金色の髪の毛を束ねて、黒い服を着て。そして静かに、笑っていた。

「ロキセ」

「・・・ん?」

 何があったわけでもなく、ただいつも通りといった雰囲気で、ロキセはキセの声に答えた。

「私、ね。鉄面皮なんていうふうに呼ばれちゃったんだよ」

「・・・そう」

「私、ね。小さな子供を助けるためにここまで来たんだ」

「・・・そう」

「私・・・ね」

 段々と瞳に涙が溜まっていくキセを見かねてか、ロキセがノゴ越しに声をかけた。

「もう、良いわ。分かってるから。ごめんね。本当は私がやらなくちゃいけなかったことを貴方にやらせちゃって」

 謝罪するロキセは、それでもキセに触れようとせずに、ノゴを境界線としてキセには一切近寄らなかった。

「私も・・・疲れたよ」

 だから、もう終わりにする。

口にしなくてもキセの意図は伝わったのか、ロキセも立ち上がる。

「じゃあ、行くよ―――――」

 そうして、キセはロキセを、母であり神でありそして何より親友だった人間を、殺した


****

後日譚

 結局、神を分割した原因であるロキセを消しても概念としての神は再生しなかった。

しかし一度悪魔のように残酷なノゴが出現し、一人を残して大した被害もなかったために、再び神という概念の存在は復活した。

ロキセの抑圧も解けたために、という条件付きだったために、キセの行動は無駄にはならなかった。

そして、ノゴとキセ達の戦いは物語の魂使いの力によって受け継がれることになった。

考えることはやめてはいけないよ、という警告を伝えたいというキセのたってのお願いから、らしい。

そして、キセはどうやら奇蹟の魂使いとしての能力を失ったようだった。しかし同時に、色々と終わらせたためか、次第に彼女に表情というものが戻ってくる事になった。

何故能力が消えたか、と言われれば奇蹟ですら、存在と引き換えにならないと消化しきれないことをやってのけたからだろう。

事実は変わらなかった。

しかし結果は、確実に変わったのだ。


****

***

**

四日後。

「奇蹟ですね、脳梗塞になったのに後遺症も何も無いなんて!」

 若干の疲労のために、今僕は看護婦さんの叫び声を背中に、車椅子に座っている。つけっぱなしのテレビが、首相が暗殺されたと持ちきりでうるさいが、今の僕にそれは関係ない。

 それにしても病院のベッドで脳梗塞なんて。

そのおかげで処置も早く、さらに原因不明の回復力で助かったというのだから謎の余命宣告とかもあってよかったと思える。

 感謝の言葉を言いたいのだが、木村先生は急な出張で遠くへ行ってしまったとか。

残念。

 そんな事を思っていると、看護婦が来客に声を弾ませる。

お母さんかな?

 そう思って振り向こうとするが、無言で目に布を被せさせられる。

「誘拐されるー」

 そんなわけが無い事も分かっているのでのんきにそんな事を言っていると、車椅子が動く。

 そしてウィーンという電子音が響いたと思えば、布越しに街頭の光が目に入る。

え、本当に誘拐?

 なんて事を思っていると、建物の影から出たのか、冬特有の冷気が頬を撫でる。

気持ちがいい。

 この季節にこの時間の空気に触ると、あの人を思い出す。青い髪の、不思議な人。

名前も聞いてないし、名乗ってもいない。

けれども人並みを持ったあの人。

あの人は、今何をやっているんだろう。

そんな事を思っていると、キィ、と車椅子が止まる。

「布、取っていいわよ」

 聞きなれた声にまさかと思いながらも布を取ると、そこにはあの人と、そして―――


満開の桜が、咲いていた。

「わぁ・・・」

 思わずため息を吐いて、少年は感動に浸る。

自然が、自分を祝福しているみたいだ。

 そんな事を思っていると、自然と口から言葉が漏れた。

「まるで・・・奇蹟だ」

 少年がそう言うと、少女はふふっと笑った。

 そうね、と言いながら少女は腰に提げていたバックから葡萄を取り出す。

「君の好みなんでしょ、葡萄。花見しながら葡萄を食べるなんて、そう無いわよ」

 この軽口は、間違いなく少女のものだ。

 少年はなんだかこれが最後の気がして、少女に名前を聞いた。

「名前は・・・何というんですか?」

 そう言うと、少女は意外とばかりに目を丸くする。いや、今更かよ、って意味かな?

「なんで?」

聞き返すのか。

「いえ、この奇蹟に名前をつけるなら、あなたの名前が良いと思って」

 なぜか、この人がこの奇跡を起こしてくれた気がしてならなくてそう言うと、少女は笑う。

「今の台詞、かなりキザよ?」

 少女にそういわれて顔を赤くして少年は反抗する。

「違います!はぐらかさないでください!」

「・・・キセよ」

 突然言われて聞き取れずに、思わず少年は聞き返す。

「・・・え?」

「キセ。漢字は無くて、カタカナでキセ」

「・・・良い名前ですね。僕の名前は、亮太です。本条 亮太」

「・・・そう。ありふれた名前ね」

 ・・・ここはお世辞でも良い名前だというところだと思うんだけどなぁ。

 なんて、この空気をわざと壊しているようにしか思えないキセの行動が、更にこれが最後だというのを強調しているようで、なんだかさびしくなってくる。

「ねぇ、亮太君。君は、一期一会という言葉を知っている?」

「・・・ええ、確か貴方と出会っているこの時間は二度と訪れないから・・・大切にしよう。とかなんとか。そんな感じの意味ですよね?」

 確か、これが最後かもわからないから、とかいう解釈もあった気がする。

 そして多分、少女が言っているのは、後者の解釈だ。

「そう。その通り。じゃあ分かるわね」

 少女はそう言うと、立派な葡萄を亮太の手において、車椅子の隣のベンチから立ち上がった。

「・・・さて。今日はもうお終い」

―――――

「―――宿を、探しに行くんですか?」

 亮太がそう言うと、キセは首を横に振る。

「ええ。どこか、私を見ることが出来る宿を、探すわ」

 暗に別れを告げるキセの言葉を聴いて思わず涙がでそうになるが、キセが泣いていないのに、泣けるわけがない。理屈は分からないが。そうなんだ。と心の中で必死に言って涙をこらえる。

「じゃあ、さよなら」

 キセがそう言ってベンチの後ろの公園の出入り口から出て行こうとすると、亮太が後ろから声をかけた。

「また・・・会いに行きますから!絶対に!」

 亮太の言葉を聞いて、振り返って「うん」と言うキセは、とても、綺麗な笑顔で、笑っていた。


****

 キセが見えなくなるまで後姿を見つめ、いずれ見えなくなると桜へと視線を戻す。

「やっぱり葡萄、おいしいな」

今日の僕は―――少しさびしいです。


****

ガタン―――ガタン。

 風景が線になって、窓の向こうを通り過ぎていく。

 古き良き寝台列車と言うやつだ。

 しかしそこから見える風景はのどかな田舎の風景ではなく、都会の夜景。

「・・・。」

 ペラ、とゴロクはキセから隠れるように人間に戻り、自分の分身として作った本を捲る。

「全く。あの人に似てるようで・・・違うよなぁ」

 フフフ、と微笑むゴロクの視線の下には、生きたい。と書かれたページの次に、一つの 言葉が書かれていた。

『また会う』

 再会・・・か。きっと、容易く起こすんでしょうね。この広い世界ではほとんど起こり得ないそんな奇蹟さえも。

「生きたい・・・かぁ」

 ゴロクはそう呟いて、本から消えたその一言の事を思って、寝台列車の壁に体を預ける。

 この一言は、消えたことからも分かるようにキセのものではなく、ロキセの言葉だった。死神に殺されるときにロキセがキセと生きたいと願い、言った言葉。

 ロキセの・・・友人の二度目の最後を思い出して涙を浮かべながらゴロクは心の中で亡き友人に言う。

 貴方の娘と貴方は共に生きる事は出来ませんでしたが、貴方の起こした奇蹟は、貴方の言葉に載って確かに、届いていますよ。

貴方の愛した―――娘に。

ゴロクはそう言って幻想語録を静かに閉じた。

彼女は、やってくれそうな気がする。

ロキセが出来なかった言葉の蒐集と・・・言葉で人を幸せにすることが。

彼女なら、やってくれる。

ゴロクは心の中でそう言って、そっと目蓋を閉じて眠りについた。


――――――パタン。

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