表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHIELD  作者: ミヤモト リオ
プロローグ
1/13

プロローグ 幼き日の誓い

 赤い西日の射し込んだなだらかな丘で、三人の少年少女たちは寝そべっていた。

 二人の少年と、一人の少女。

 いつも通りの遊び場で、いつも通りの友達同士で。それなのに、いつもとなにか違う。まだ幼い少年には、何が違うのかは分からなかった。

 顔を横に向ければ、赤く照らされた二人の顔がある。そうして作り出される陰翳が、あるいは彼の、なにか得体の知れない恐怖を煽ったのかもしれない。僅かな気恥ずかしさを押し殺して、彼はぼそりと呟いた。


「ねえ、ぼくたち、ずっといっしょだよね……?」


 それを聞いた二人は、一瞬だけきょとんとした表情を浮かべてから、同時にくすくすと笑い出した。


「あははっ、なにいってるの? あたりまえじゃない」

「ははっ、なんだよ急に」


 少年は少し頬が赤くなったのを自覚した。夕日がそれを誤魔化してくれることを祈りながら、唇を尖らせて横を向いた。


「な、なんだっていいだろ……。でもさ、それなら『ちかい』をしよう」


 そのとき、ふと。彼は、ゆうべ父親と話したことを思い出して、それをなんとはなしに口に出した。


「ちかい……?」


 そのときの少女の疑問の言葉はとても弱くて、彼の頭には妙に印象的に残っていた。それが嫌に儚げだったからなのか、或いはその表情に何か思うところがあったからなのかは分からない。


「そう、『ちかい』。ぜったいにやぶっちゃいけない約束のことなんだって」

「約束って、もともとやぶっちゃ駄目なものなんじゃないのか?」


 話を持ちかけた少年は、投げかけられた疑問の言葉に首を傾げる。


「あれ? そういえば、そうだね」

「うーん……。なんか違うの?」

「よくわかんないけど……多分、ちかいは、約束よりだいじなことをきめるときにつかうんだよ」


 父さんも、一生に関わることを決めるときに使うっていってたし、という言葉は飲み込む。幼少期の少年というものは複雑なのだ。


「だからさ、ぼくたちもしようよ。ずっといっしょだって、『ちかい』」


 それまでの訝しげな表情から一転して、少女の顔がパッと華やいだ。うん! ちかい、する! と何度も繰り返す。彼は、なんともいえない気まずさと照れくささが入り混じって、ぽろぽりと頬をかいた。


「よし、じゃあ、やろうか」

「うん!」

「そうだね」


 やり方なんて、詳しいことはわからない。それでも彼らは彼らなりに一生懸命になって、内容を考えた。


「いてっ」

「いたっ」

「いつっ」


 結果として彼らが決めた方法は――『血に誓う』というもの。彼らは、小さな傷をつけたそれぞれの手を掲げた。


「ぼくたちは、おおきくなってもいっしょだよ! これは、ちかいだからね!」


 最初の言葉に、残る二人も大きく頷く。


「うん!」

「おれも、ちかう」


 滴る血を舐め取って、誓いは完成した。



 誓いを終えた後は、それぞれが僅かに余韻に浸り、そして間もなく、子供は家に帰る時間となった。連れ立って丘を去る。

 その途中で、誓いの話を持ち出した少年は、特に何を思うでもなく振り返った。


 見慣れた丘の、なんでもない夕暮れ。そしてそこに咲く、一輪の花。それが、何故か彼には無性に悲しく見えた。


4/21 あとがきを活動報告へ移動させました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ