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姫王子が往く!  作者: 沙φ亜竜
チャプター1 姫と王子と旅立ちと
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-6-

「おい、エリー! そんなことを言って、王妃様を困らせてはダメだろう!」


 王妃の前だというのに、思わず大声で怒鳴りつけてしまった。はっとして、すぐ王妃に謝罪する。


「失礼致しました。しかし、王子の申し出を認めるわけにはいかないと、私はそう考えます。姫の影武者としての役目もありますし、それに王妃様においても、姫と王子のふたりとも城からいなくなってしまうというのは、心情的に穏やかではいられないと、失礼ながらお察し致します」


 なるべく丁寧な口調で意見を述べる。

 仮に無礼な言葉遣いをしてしまったとしても、この王妃は大して気にもせずに受け答えてくれるのだが。

 だからといって、礼を欠くわけにはいかないだろう。


「お母様……」


 寂しげな表情で手のひらを顔の前に組み、エリーは懇願する。

 エリーの気持ちもわからないわけではない。

 大好きなお姉様が、何者かにさらわれてしまったらしいという現状。そんな中、一番近くにいる時間の長かった私までもが城を離れてしまうのは、相当に不安なはずだ。


 とはいえ、今回ばかりはエリーのわがままを許すわけにはいかない。サーヌ王妃だってそう考えるはずだ。

 私はそう信じて疑わなかったのだが……。


「エリー。あなたは自分の立場がわかっていますか?」

「はい……。でも、僕はお姉様のことが心配なんです。城でただじっと待っているなんて、ましてやそんな状況でルビアもそばにいてくれないなんて、僕には耐えられません!」


 エリーは長い綺麗な髪を振り乱して力説する。


「お姉様は、僕が見つけて連れ帰ります!」


 エリーの意思は固かった。

 その瞳に込められた力強さは、今まで見てきた中で最高の輝きを放っていた。


 私は正直、そこまでエリーが必死になるのを想像できなかった。だから、とても驚いていた。

 いつまでも子供で甘ったれで、世間知らずなお坊ちゃまなエリー。

 そう考えていたのに、ここまでしっかりとした強い心を持っているなんて。


「姫の影武者は、どうするのだ?」


 ぽつりと、ディル王が問う。

 確かにそうだ。

 姫がいないことを誰にも知られてはいけない。そのためには、姫とそっくりな影武者でる王子が必要だろう。


「それは……」


 エリーは口ごもり、なにも言えなくなってしまう。

 そんな彼に助け船を出したのは、意外にもサーヌ王妃だった。


「パールに任せてもよいかもしれぬな。あの者も長く綺麗な栗色の髪をしておる。遠目からならば、姫の服を着ておれば気づかれないであろう。しばらくは公用の行事などもない時期じゃ。どうにかなるかもしれぬな」


 エリーの表情が、ぱっと明るくなる。

 驚いたのは、私と、そしてディル王だった。


「お……おい、お前。それでは、エリーをルビア一緒に行かせるというのか……?」

「そういうことになるの」


 涼しげな顔で答えるサーヌ王妃に、ありがとう、お母様! とエリーが飛びついた。


「ですが、王妃。危険な旅になるかもしれないのですよ!?」


 すかさず進言するも、王妃はとくに怯む様子もなく、さらっと答えを返してきた。


「わらわも昔、武者修行と称して旅に出ておった。代々ジュエリア王家の女性は旅に出るのが通例じゃ。まぁ、エリーは王子ではあるが、それはこの際、あまり関係なかろう。世間を見てくるのも、立派な王族としての勤めと言えるのじゃ」


 こんなことまで言い出す始末。きっかけとしては、丁度よいじゃろう、と。


「しかし、やはり危険だしだな……」


 ディル王はまだ納得していない様子だったが、


「決まりじゃ!」


 王妃のそのひと言で一蹴されてしまった。

 こういうところを見ると、やはりこの国は女性優位社会なのだと痛感してしまう。

 ……いや、ただ単にディル王の気が弱いだけ、という気もするが。


「ルビア。そういうわけじゃから、エリーのことをよろしく頼むぞ。確かに危険はあるじゃろう。しかし、お主とふたりで協力し助け合い、より大きくなって戻ってくるのじゃ。これはエリーの成長のためだけではなく、お主にとっても重要なことなのだぞ? 騎士団としての使命を離れ、エリー専属のパートナーとして旅立つのじゃ!」


 そうだ、それを聞いて思い出した。

 私が旅立つとしたら、そのあいだ、騎士団はどうするつもりだろう?

 考えていたことを口にすると、それについても簡潔に返答が得られた。


「それはどうとでもなるじゃろう。第三騎士団の中でも、有能な者は幾人か目星をつけておる。無論、お主が不適任だというわけではないぞ。それよりも重要な任務に就く、ということなのじゃからな」

「……はい、わかりました」


 エリーが王妃のそばから私の横に駆け寄り、嬉々とした表情で腕にすがりついてくる。

 そして私を見上げると、キラキラした瞳を向けながらこう言った。


「ルビア、これからも一緒によろしくね! 絶対にお姉様を探し出そう!」


 決意に燃えたエリーの顔を見ていると、私もともに頑張らなければ、という思いにさせられるのだった。


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