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こうして、私とエリーの夫婦生活が始まった。
結婚の式典があった日から、私たちは一緒の部屋で生活している。
言い換えれば、あの大扉の部屋で四六時中エリーと一緒にいるということだ。
私は、近衛騎士団第三部隊の隊長の任も解かれていた。
王妃様からエリーのことを任されているというのもあるし、もともとエリーを守るのは自分の使命だとまで思っていたわけだが、こういつもいつも一緒にいると、さすがに鬱陶しく思うことがあっても仕方がないだろう。
「え~? そんなの、ひどい!」
私がぼやき声をこぼすと、エリーはこんなふうに膨れっ面で抗議の表情を浮かべるのだが。
そんなわけで、エリーのわがままを適当にあしらいつつ、少々疲れるがとりあえずは充実した毎日を過ごしていた。
正式なものとは言えないかもしれないが、仮にも結婚した身、少しはおとなしくなるかと思ったのだが……。
エリーはやはり、相変わらずだった。
それどころか、事あるごとに暴れ出す始末。
その理由は、
「またルビアと一緒に、いろんなところを旅したい!」
というものだった。
どうも、一度旅に出てしまったことで、そのドキドキ感やワクワク感がどうしても忘れられなくなってしまったらしい。
そうやってエリーが暴れる度に、駄々をこねるのもいい加減にしろ! と大声を上げる日々。
夫婦生活というのは、はたしてこういうものなのだろうか……?
「わらわとしては、旅に出るのも構わないと思っておるのじゃがな」
こちらも相変わらずのサーヌ王妃が、無責任な発言をする。
そしてその横で、ただ苦笑いを浮かべているだけのディル王。
「ほらほら! お母様もこう言ってるんだし!」
エリーは当然ながら、目をキラキラ輝かせ、勝手に出発の準備を始めようとする。
私はそれを押し留めるのに必死だった。
「わらわは、昔よく武者修行と称してひとり旅に出ておったぞ? エリーではまだ心配じゃからひとり旅は許さぬが、ルビアが一緒ならばべつによいと思うのじゃがのぉ」
「よくありません!」
断固として拒否する。
あの旅の一件でエリーも少しは成長したのかもしれない、と思った時期もあったが、城に帰ってからの様子を見る限りでは全然変わってなどいない。
もっとみっちり一般常識などを叩き込まなければ、一緒にいる私が苦労するだけだ。
「ふむ、そうか、残念じゃ」
王妃はつまらなそうにため息をつく。
「わらわがカーネリアンとやり合ったのは、三度目の武者修行のときじゃったかのぉ。そういえば、ディルと会ったのは二度目の武者修行の際じゃった。懐かしいのぉ。ジュエリア王国の外れの小さな村を訪れたわらわは、ディルの姿を見つけ、問答無用で拉致……いや、王城へと招いて、ふたりの愛の生活が始まったのじゃったな」
遠い目をしながら語るサーヌ王妃の話に、エリーは瞳をキラキラと輝かせながら聞き入っている。
ディル王はそれでもなお、苦笑いを浮かべているだけだった。