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「エリーちゃんとの口づけは、いかがでした?」
パールがなにやら楽しそうに微笑みながら、そんなことを訊いてきた。
式典のあと、私とエリーはそれぞれ式典の衣装から着替えるため、控え室へと戻っていた。
私の手伝いをパールが、エリーの手伝いをシストがしてくれている。
もっとも、私のほうには手伝いなどいらないと思うのだが。
「訊くな」
私はぶっきらぼうに答える。
「あら、イヤでしたの?」
「べつにイヤってわけじゃないが……しかし、男同士なんだぞ?」
「ふふふ。まぁ、気にしなくてもよいのではないですか? 初めてってわけでも、ないのでしょう?」
その言葉に頭を抱える。
私は幼い頃からエリーの教育係として城に出入りしていた。学生時代も基本的には男だけのクラスだった。
騎士団に入ってしまえばそこは男ばかりの世界。女性だけの第一近衛騎士団も存在しているわけだが、顔を合わせることすらほとんどない。
年齢が近い女性で会っていたといえば、パールくらいのものだが、パールとはそんな関係ではなかった。
つまり……。
「あ……あら、そうでしたか……。ふふふ。うん、でも、気にすることはないですわ。それはそれで、貴重な体験かもしれませんし」
パールは、フォローとも言えないような言葉を投げかけた。
「まぁ、べつにいいのだが」
気にしていても仕方がない。
どちらにしても、これからしばらくはエリーと夫婦として暮らしていかなくてはならないのだ。
「そういうパールはどうなんだ?」
思わず意地悪な質問をしてしまう。
「え? 私ですか? うふふ……ノーコメント、ということにしておきます。ちょっと時間がかかりすぎましたね。エリーちゃんとシストが先に行って待っているかもしれません。中庭へ急ぎましょう」
パールはそう言って、さっさと歩き出してしまった。
☆☆☆☆☆
「ルビア、遅ぉ~い!」
眉を吊り上げるエリーと、軽く会釈をして笑顔で迎えてくれるシスト。ふたりはパールが言ったとおり、すでに中庭で待っていた。
草花で彩られた、エリーが大好きな中庭。
ここでお話しよう、そう懇願するエリーに従って、私たち四人はこの中庭に集まった。
「しかしキミたち姉妹は、本当にいいのか? かなりおかしな状況になってしまっていると思うのだが」
私の問いに、迷うことなく、
「はい、私たちふたりは、王妃様のお考えに従うと決めております」
と答えるパール。
「だがあの王妃、どう考えても面白がってやっているとしか思えないぞ?」
「ふふふ、確かにそうかもしれませんね……。でも、私はそれでも構わないんです。シストも納得してるわよね?」
パールの問いかけに、シストも笑顔で答える。
「うん! エリーちゃんが男性だってのは驚いたし、なかなか信じられなかったけど、でもでも、それならケッコンもできるわけだし、嬉しいくらいかも!」
シストはいまいち、状況をちゃんと理解できていないのではないかと思うのだが……。
そんな表情を見て取ったからか、パールが言葉をつけ加える。
「私たちはエリー王子のことを……、あっ、姫と呼ばないといけませんね。……エリー姫のことを、お慕いしておりますから」
そして彼女は私のほうへと向き直ると、さらに続けた。
「それに私は……、ルビア、あなたのことも……」
「……え?」
「……いえ。とにかく、私たちふたり、複雑な感じではありますけれど、エリー姫やルビアと運命をともにするつもりです」
そう言いきるパールの顔は、暖かな日差しに照らされて、綺麗に輝いていた。