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姫王子が往く!  作者: 沙φ亜竜
チャプター5 スノーフレークとアレックスと
32/39

-6-

 と――。


 苦悶の表情を浮かべながらも、エリーが立ち上がる。

 お……おい、無理するな!

 そう声をかけることさえもはばかられるほどの強い意思の力が、すぐそばにいる私には感じられた。


「ほう、悪あがきをするというのか? 面白い」

「僕の……大切な人たちを……危険な目に遭わせるなら……、僕は……お前を……許さない……!」


 苦痛で顔が歪み、汗がだらだらと流れ出し、体は小刻みに震えている。

 それでもなお、エリーは鋭く言い放つ。

 かすれてはいるが、はっきりとした意思を乗せた力強い声で。

 甘えん坊でいつも私が守ってきた、小柄で可愛らしいあのエリーとは思えないほど、その姿は大きく見えた。


「ふっ、許さないならどうするというのだ、小娘。いや、違うか……。まぁ、そんなことはどうでもいい」


 カーネリアンの周りで渦を巻く炎が、少しだけ揺らぐ。

 こちらはいつでも、お前に向けてこの炎を放つことができるのだ。無駄な抵抗はするな。そう言いたいのだろう。


「来なよ……。僕は負けない……!」


 どこからそんな自信が湧いてくるのか、エリーは奴を挑発するような言葉を投げかける。


「黙れ! ならば望みどおり、消え去るがいい!」


 カーネリアンが右手をひるがえす。

 と同時に、辺りに渦巻く炎は、一直線の長く太い槍となって飛び出した。


 奴の目の前に立っていた猫目姫は、どうにか横に飛び退いて身をかわす。

 とっさに避けたとはいえ、地面に倒れ込む彼女の姿が目に映った。


 そして炎の槍は、エリーへと襲いかかる。

 炎は、しかしエリーには届かなかった。


 いや正確には、炎はエリーの目の前までは達していた。

 だがエリーに直撃する寸前、それらは蒸発するかのように一気に霧散していったのだ!


 次々と連なった炎がエリーへと襲いかかり、そのまま煙となって消えていく。

 視界は炎が消え去る際に変化した煙で覆い尽くされた。

 カーネリアンの攻撃が止まる。


「……どういうことだ!? まさか人間ごときが、我の力の断片とはいえ、それを自在に操っているというのか!?」


 驚きの表情を浮かべるカーネリアン。

 エリー自身も驚いているようではあったが、それを気取られまいとカーネリアンに威圧をかけ始める。


「僕の中に封じられた力……。長年僕の中に宿っているうちに、徐々に僕自身と融合し、その力を制御できるまでになった。そんなところかな……」


 エリーはニヤリと笑みを浮かべる。

 もちろん、そんな力が封印されていたことなんて知らなかっただろう。

 ついさっき、封印されていた力が解き放たれそうになって、初めてその力の大きさに触れたはずだ。

 それでも、まだその力は自分の体の中にあるという事実を利用し、どうにか抑え込んでいる。


 おそらく、力を制御して自在に操れるわけではない。

 ただ、その力の一部を利用するくらいだったらできそうだ、と悟ったに違いない。

 先ほどの挑発と炎を防いだ力は、そういった行動を見せることで奴を怯ませるのが狙いか。


 ともあれ、それだけでは……。

 わずかな時間、奴を躊躇させることはできても、再び封じるまでには至らない。


 エリーが、ふと私の手をぎゅっとつかむ。


 ――エリー?


 その視線はカーネリアンをじっと睨みつけながらも、一瞬だけ別の場所に向けられた。


 ――なるほど、そういうことか。


 私は剣を構えてエリーをかばうように立ち塞がる。

 ひらりと、マントが揺れた。


「カーネリアンと言ったか、お前の負けだ、もう諦めろ。こちらが力を制御できれば、封印されていたお前の力は半分ずつ、すなわち互角ということになる。ならば単身でここにいるお前より、こちらのほうが有利だ。エリーの身は、この私が命に代えても守るのだからな!」


 力強く言い放つ。

 ここで動揺を見透かされては、私たちのほうこそ負けとなってしまう。


「ほう、忠実なナイト様というわけか。さっきまで怯えてなにもできなかった奴が、よく言うわ。確かにふたつに分けられて封印されていた力は半分ずつだ。しかしな、それらはもとより我の力。ある程度制御できたとしても、完全に使いこなせるのはこの我だけなのだ。現在の力が互角だという考えは捨て去るべきだな。もっとも、考えを改めたところでどうせ死ぬ運命、なにも変わりはしないだろうが」


 私が奴の注意を引いているあいだに、エリーは準備に入っていた。

 エリーは私のそばで力の制御に集中している。

 それを、私のマントが奴の視線から遮っていた。


「さて……悪あがきも、そろそろおしまいだ。そいつを殺せば、我の復活は完了する。少しは楽しませてもらったが、もういいだろう。さぁ、覚悟はいいかな?」


 カーネリアンがニヤリと余裕の嘲笑を浮かべる。

 そこで、私は動いた。

 剣を、投げ捨てたのだ!


「むっ? なんだ!?」


 私の行動によって一瞬の隙が生まれた奴の背中へと、素早く猫目姫が飛びかかる。


「ぐっ!? 貴様、いつの間に! 離せ!!」


 背後から組みつき力強く爪を立てる猫目姫を、カーネリアンは必死に引き剥がそうとする。

 そこへ、


 ブワッ!!


 足もとへ集中させた力の一部を解き放ち、一瞬でカーネリアンの懐に飛び込むエリー。

 そして、その勢いに任せて体当たりをぶちかまし、残ったすべての力を手のひらからカーネリアンの腹部に向けて放出した。


「うぐああああああああっ!?」

「自分の力をその身で受けて、消え去れ!!」


 エリーの体から放たれた輝く力の結晶が、カーネリアンの中へ次々と吸い込まれ、火花を散らし始める。

 凄まじい音と光の奔流が、カーネリアンを中心に渦巻いていた。


 ――ぐおああああああああああああああっ!!


 声とも言えないような強烈な地響きにも似た断末魔が、辺り一面にこだまする。

 やがて光は徐々に収縮し、消えていった――。

 静寂だけが周囲のすべてを支配する。


「終わった……のか……?」


 光の消え去ったあとには、カーネリアン――いや、アレックスと、エリー、猫目姫の三人の体が、焼け焦げた地面の上に倒れて転がっていた。


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