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姫王子が往く!  作者: 沙φ亜竜
チャプター3 カリナン公国とラピス姫と
18/39

-4-

「くそっ、離せ!」


 往生際の悪い様子で騒ぎ立てているのは、黄色い髪に青い瞳のフローライト、その横で観念したようにおとなしく歩いているのは、真紅の髪と赤い瞳のガーネッタ。

 旅人の宿「アクアマリン」で会った、あのふたり組だった。


「あらあら、どうしましたの?」


 ラピス姫は衛兵に歩み寄り声をかける。


「こ……これは姫様。こいつらは賊です。地下倉庫前まで侵入してきたところを捕らえました。これから牢にぶち込みます」

「あらあら、そうですか」


 とくに驚いた様子もないラピス姫。

 姫の後ろから歩いてきた私とエリーの姿に、ふたり組も気づいたのだろう。

 お前たち、なんでここにいるんだ? そんな視線を向けられた。


「あなた方、この屋敷にあるという秘蔵のお宝を目当てにやってきたのですか?」

「……ああ、そうだよ。でも、罠だったってことかい?」


 ガーネッタが、質問したラピス姫を睨む。観念してはいても、その眼光の鋭さは失われてはいなかった。


「ふふ、そうですよ。この屋敷にお宝なんて、あるわけないじゃないですか」


 しかし、このふたり組、やはり盗賊だったのか。

 騎士団長を務めていた私から見ても、その強さが感じられるほどの腕前を持っていながら、もったいない話だ。

 そう考えていると、


「騙されたんだよ……」


 フローライトがつぶやいた。


「ともかく、牢に連れていきます」

「お願いしますね」


 衛兵に答えるラピス姫の言葉を遮るかのように、エリーが声を上げた。


「ねぇ、ラピス姫。この人たち、知り合いなの。放してあげてくれないかな?」



 ☆☆☆☆☆



 おいおい、なにを考えているんだ。

 そうは思ったが、もしかしたらエリーは、指輪を返してもらうために演技をしているのかもしれない。

 ふたり組を助けて信用してもらい、そして盗まれた指輪を快く返してもらう作戦を考えたとか。

 ……いや、このエリーがそんなことまで考えるはずがなかった。いつでも本気。そういう奴なのだ。


「この人たち、悪い人じゃないんだよ。だから、放してあげて。ね?」


 必死に懇願するエリー。

 その様子に驚いているのは、ラピス姫や衛兵たちだけでなく、ふたり組も同じだった。


「あなた方、エメラリーフ姫とお知り合いなんですの?」


 ラピス姫が問う。

 フローライトはその言葉にも若干驚いた様子を見せた。エリーがジュエリア王国の姫だとまでは、気づいていなかったようだ。

 だが、


「ええ、そうなんですよ。エメラリーフ姫、お久しぶりです」


 ガーネッタのほうは、状況を素早く理解したのか、芝居を打つことに決めたらしい。


「うん。そっちも、元気だった?」


 エリーは素直に笑顔で答える。

 これが演技だったら、エリーも相当な役者なのだが、実際には友人との再会を喜んでいるといった感じなのだろう。

 自分を助けてくれたとはいえ、たまたま宿で会っただけの知り合いという関係でしかない上に、指輪を盗んだ犯人かも知れないというのに。


「……わかりました。この人たちを解放してください」


 ラピス姫は衛兵に命令を下す。

 さすがに渋る衛兵たちではあったが、姫の命令には逆らえないのだろう。ふたり組の手を縛っていた縄を解いた。


「ともかく、エリー姫のお知り合いなのでしたら、おもてなししなければいけませんね。お時間があるようでしたら、もう一度部屋に戻ってお話でもどうでしょうか?」


 微笑みをたたえながら提案を持ちかけてくるラピス姫の口調には、逆らえないような力強さがあった。

 エリーの言葉自体は信用しているものの、このふたり組まで信用できたわけではなく、話をすることで化けの皮が剥がれるようなら改めて捕らえる、といったつもりなのかもしれない。

 ここは断るわけにもいかないだろう。


「時間は大丈夫ですので、お言葉に甘えさせていただきます」


 そう答える私に、ラピス姫は満足そうな笑顔を見せる。

 私はふたり組にも視線を送った。ここは言うとおりにしてくれ、そういった意味を込めて。

 ふたりは、黙って頷いた。


 外に侍女と衛兵たちも控えさせたまま、ラピス姫に促された私とエリー、そしてフローライトとガーネッタは、再び部屋の中へと入った。


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