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「くそっ、離せ!」
往生際の悪い様子で騒ぎ立てているのは、黄色い髪に青い瞳のフローライト、その横で観念したようにおとなしく歩いているのは、真紅の髪と赤い瞳のガーネッタ。
旅人の宿「アクアマリン」で会った、あのふたり組だった。
「あらあら、どうしましたの?」
ラピス姫は衛兵に歩み寄り声をかける。
「こ……これは姫様。こいつらは賊です。地下倉庫前まで侵入してきたところを捕らえました。これから牢にぶち込みます」
「あらあら、そうですか」
とくに驚いた様子もないラピス姫。
姫の後ろから歩いてきた私とエリーの姿に、ふたり組も気づいたのだろう。
お前たち、なんでここにいるんだ? そんな視線を向けられた。
「あなた方、この屋敷にあるという秘蔵のお宝を目当てにやってきたのですか?」
「……ああ、そうだよ。でも、罠だったってことかい?」
ガーネッタが、質問したラピス姫を睨む。観念してはいても、その眼光の鋭さは失われてはいなかった。
「ふふ、そうですよ。この屋敷にお宝なんて、あるわけないじゃないですか」
しかし、このふたり組、やはり盗賊だったのか。
騎士団長を務めていた私から見ても、その強さが感じられるほどの腕前を持っていながら、もったいない話だ。
そう考えていると、
「騙されたんだよ……」
フローライトがつぶやいた。
「ともかく、牢に連れていきます」
「お願いしますね」
衛兵に答えるラピス姫の言葉を遮るかのように、エリーが声を上げた。
「ねぇ、ラピス姫。この人たち、知り合いなの。放してあげてくれないかな?」
☆☆☆☆☆
おいおい、なにを考えているんだ。
そうは思ったが、もしかしたらエリーは、指輪を返してもらうために演技をしているのかもしれない。
ふたり組を助けて信用してもらい、そして盗まれた指輪を快く返してもらう作戦を考えたとか。
……いや、このエリーがそんなことまで考えるはずがなかった。いつでも本気。そういう奴なのだ。
「この人たち、悪い人じゃないんだよ。だから、放してあげて。ね?」
必死に懇願するエリー。
その様子に驚いているのは、ラピス姫や衛兵たちだけでなく、ふたり組も同じだった。
「あなた方、エメラリーフ姫とお知り合いなんですの?」
ラピス姫が問う。
フローライトはその言葉にも若干驚いた様子を見せた。エリーがジュエリア王国の姫だとまでは、気づいていなかったようだ。
だが、
「ええ、そうなんですよ。エメラリーフ姫、お久しぶりです」
ガーネッタのほうは、状況を素早く理解したのか、芝居を打つことに決めたらしい。
「うん。そっちも、元気だった?」
エリーは素直に笑顔で答える。
これが演技だったら、エリーも相当な役者なのだが、実際には友人との再会を喜んでいるといった感じなのだろう。
自分を助けてくれたとはいえ、たまたま宿で会っただけの知り合いという関係でしかない上に、指輪を盗んだ犯人かも知れないというのに。
「……わかりました。この人たちを解放してください」
ラピス姫は衛兵に命令を下す。
さすがに渋る衛兵たちではあったが、姫の命令には逆らえないのだろう。ふたり組の手を縛っていた縄を解いた。
「ともかく、エリー姫のお知り合いなのでしたら、おもてなししなければいけませんね。お時間があるようでしたら、もう一度部屋に戻ってお話でもどうでしょうか?」
微笑みをたたえながら提案を持ちかけてくるラピス姫の口調には、逆らえないような力強さがあった。
エリーの言葉自体は信用しているものの、このふたり組まで信用できたわけではなく、話をすることで化けの皮が剥がれるようなら改めて捕らえる、といったつもりなのかもしれない。
ここは断るわけにもいかないだろう。
「時間は大丈夫ですので、お言葉に甘えさせていただきます」
そう答える私に、ラピス姫は満足そうな笑顔を見せる。
私はふたり組にも視線を送った。ここは言うとおりにしてくれ、そういった意味を込めて。
ふたりは、黙って頷いた。
外に侍女と衛兵たちも控えさせたまま、ラピス姫に促された私とエリー、そしてフローライトとガーネッタは、再び部屋の中へと入った。