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〜酒場《酔いどれ山羊亭》の夜〜  作者: 酔学亭バルド


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4/4

冒険者の本音あるある

 店主バルドが、二人を交互に見る。


「タイマンだ。

 ミレイナ vs ロウ」


「出たわね」


 ミレイナは腕を組み、挑発的に笑う。


「理屈の塊が相手かぁ」


「感情論の塊に言われたくはないな」


 即座に返すロウ。


 周囲から「始まるぞ」「逃げ場なしだな」と囁き声。



ルール発表


「テーマは」


 バルドは楽しそうに言った。


「“冒険者の本音あるある”

 どっちが“言語化しちゃいけないこと”を言ったかで負けだ」


「最悪のテーマね」


「非常に興味深い」


 二人の温度差がすでに勝負を物語っていた。



第一手:ミレイナ


「じゃあ私から」


 ミレイナはグラスを置き、さらっと言う。


「冒険者ってさ、“仲間だから信頼してる”って言うけど、実際は“裏切られたら終わるから考えないようにしてる”だけよね」


 ……静寂。


「うわ」

「それは言うな」

「分かるけど!」


 ロウは一瞬、言葉を失った。


「……いきなり深いところを突くな」


「酒場だからいいのよ」



反撃:ロウ


「では私から」


 ロウは眼鏡を直し、落ち着いた声で続ける。


「冒険者は“自由な仕事”と言いながら、依頼主の機嫌に一番振り回されている」


 一拍。


「確かに……」

「逆らえない」

「報酬減らされる」


 ミレイナは顔をしかめた。


「それ、現実突きつける系で来る?」


「事実だ」



第二手:ミレイナ


「なら、これ」


「冒険者、戦闘後に“無事でよかった”って言うけど、内心は“装備壊れてなくてよかった”」


 爆笑。


「あるある!」

「自分より装備!」

「修理代高い!」


 ロウはこめかみを押さえた。


「否定できない……」



第二手:ロウ


 ロウは一拍置いた。


「冒険者は“経験値”という言葉で、危険な記憶を正当化している」


 空気が、重くなる。


「……それは」

「やめてくれ」


 ミレイナはゆっくり息を吐いた。


「……強いわね、それ」



決定打:ミレイナ


「でも、最後はこれでしょ」


 ミレイナはロウを見据える。


「冒険者って、引退したら“何者でもなくなる”のが怖くて続けてる人、多い」


 完全沈黙。


 誰も笑わない。


 ロウが、静かに目を伏せた。


「……参った」



判定


 バルドが低く唸る。


「今のは

 空気を読みすぎて読めなくしたな」


「つまり?」


「ミレイナの勝ちだ」


 拍手と苦笑が混ざる。



罰ゲーム(ロウ)


「ロウ」


 バルドは容赦ない。


「“冒険者じゃない自分を想像して一言”だ」


 ロウはしばらく黙り


「……」


「……静かな研究室で、酒の理由を探しているだろう」


 ミレイナが、ふっと笑った。


「それ、悪くない未来じゃない」


「君がいないと、雑学の使い道がない」


 一瞬、空気が和らぐ。


「はいはい!」

「いい雰囲気出すな!」

「酒場だぞ!」


 笑いが戻り、グラスが鳴る。


 《酔いどれ山羊亭》の夜は、また一つ、言葉にしてはいけない本音を酒で流していった。

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