冒険者あるある対決
〜酒場《酔いどれ山羊亭》は今日も平和じゃない〜
夜の《酔いどれ山羊亭》は、妙な熱気に包まれていた。
「さて」
店主バルドが、カウンターをドンと叩く。
「今夜の対決テーマは
冒険者あるあるだ」
途端に、あちこちから笑い声が漏れた。
「それ、全員一つは心当たりあるやつじゃない」
ミレイナが嫌そうに言う。
「だからこそだ」
ロウは眼鏡を押し上げ、静かに笑った。
「ルールは簡単。
一番“分かる……”って空気を作った方が勝ち。
赤面と苦笑いが多い方が負け」
「嫌な勝負だなぁ!」
第一戦:ミレイナ
「じゃあ行くわよ」
ミレイナは立ち上がり、堂々と言った。
「冒険者、回復薬は“まだいける”って言って使わない」
一拍。
「分かる」
「あと一撃耐えられる」
「死ぬ直前まで温存する」
酒場中がうなずいた。
「で、結局使う前に倒れるのよ」
「やめろ、思い出す」
ロウは小さく咳払いした。
「これは強いな……」
第二戦:ロウ
ロウは静かに指を立てる。
「冒険者、危険な依頼ほど“報酬が安い理由”を深く考えない」
沈黙。
次の瞬間。
「……あ」
「それはダメだ」
「考えちゃいけないやつ」
「“簡単な調査です”の時点で察するべきなんだよな」
バルドが腕を組んでうなずく。
「酒場評価、高いぞ」
第三戦:ミレイナ
「まだあるわ」
ニヤリと笑う。
「冒険者、装備を新調した直後に限って罠にかかる」
「ある!」
「初日でヒビ入る」
「血糊が落ちない!」
ロウは目を伏せた。
「……新品ローブが、沼で」
「聞いてない!」
最終戦:ロウ
「では、これで終わりにしよう」
ロウは一瞬だけ間を置き、淡々と告げた。
「冒険者、酒場では強気。翌朝、全員ボロボロ」
完全沈黙。
そして
「うわぁぁぁぁ」
「それ言うな!」
「二日酔いと筋肉痛!」
ミレイナは頭を抱えた。
「はい負け!
完全に私たちの明日の話!」
罰ゲーム
「よし」
バルドが満足そうに言う。
「負けたミレイナ、罰ゲームだ。
“冒険者あるあるを一つ、自分の失敗談で語れ”」
「それ一番恥ずかしいやつ!」
だが逃げ場はない。
ミレイナは深呼吸し、観念した。
「……冒険者、地図読めるって言って迷う」
どっと笑いが起きる。
「私、三時間同じ岩見てたことある」
「あるあるすぎる!」
ロウは静かにグラスを掲げた。
「素晴らしいオチだ」
「次はあんたが負けなさいよ」
酒場《酔いどれ山羊亭》は、今夜も冒険に出ない冒険者たちで賑わっていた。




