罰ゲーム編
「というわけで」
店主のドワーフ、バルドが腕を組んだ。
「勝敗は引き分け、だがなぁ……」
酒場中の視線が、カウンターに集まる。
「このまま終わるのは面白くねぇ」
「嫌な予感しかしないわね」
ミレイナがグラスを置く。
「同感だ」
ロウも眼鏡を押し上げた。
バルドはニヤリと笑い、カウンターを指で叩いた。
「追加ルールだ。次の一問で負けた方は罰ゲーム」
「どんな?」
「安心しろ。服は脱がせねぇ」
その一言で、逆にざわつく酒場。
「……逆に怖いわ」
最終決戦・即席問題
「問題は“酒場で一番赤面する雑学を言った方が負け”だ」
「それ、基準曖昧すぎない?」
「酒場が決める」
拍手と歓声。
「よし、私から!」
ミレイナは胸を張った。
「人は“見られている”と感じるだけで、心拍数が上がる。実際に何もされてなくても、ね」
「おお……」
「分かる……」
あちこちで気まずそうな咳払い。
「次、ロウ」
ロウは一瞬だけ黙り
「……人は“相手が恥ずかしがっている”と、無意識に視線を向けてしまう」
一拍。
ドッ。
爆笑と拍手が同時に起きた。
「今この瞬間の話じゃねぇか!」
「視線、集まってるぞ!」
ミレイナは顔を覆った。
「はい私の負け! 完全に負け!」
罰ゲーム内容
「よし、罰ゲームだ」
バルドは棚から一枚の札を取り出す。
「“大人の雑学を、真面目な顔で一つ解説”」
「……それだけ?」
「条件がある」
バルドはニヤリとする。
「目を合わせて、だ」
「無理!」
だが酒場の客は逃がさない。
「やれー!」
「逃げるなー!」
ミレイナは深呼吸し、ロウの正面に立った。
じっと見つめる。
ロウはなぜか姿勢を正す。
「……えーと」
ミレイナは真剣な声で言った。
「人は緊張すると、無意識に姿勢が硬くなる。でも、それを“相手のせい”だと勘違いしやすい」
静まり返る酒場。
「だから」
一拍。
「今ドキドキしてるのは、あなたのせいじゃないわ」
沈黙。
そして
「うおおおおお!!」
「店主、酒追加!!」
ロウは耳まで真っ赤だった。
「……これは、俺の方が罰ゲームでは?」
「気のせいよ」
ミレイナは勝ち誇った笑みを浮かべ、席に戻る。
酒場《酔いどれ山羊亭》の夜は、今日も平和で、少しだけ騒がしい。




