第8話 蟻拳覚醒
樹海最深部の石像を前に、凛は拳を握り直す。祖父の教え、樹海の意思、仲間の絆――すべてが胸に流れ込み、身体に熱を帯びる。
「……来たな」
霧の奥から、黒い影が立ち上がった。白影とは比べものにならない巨大な刺客、秘密結社の最終刺客――漆黒の鎧を纏い、赤い瞳が燃え上がる。
「この力……貴様が蟻拳を受け継ぐ者か」
刺客の声が森に響く。凛の胸は高鳴る。恐怖と興奮が入り混じり、拳に全ての力が集まった。
「……俺は、負けない!」
凛が拳を突き出す瞬間、樹海の霧が光を帯び、拳に触れるたびに体が覚醒していく感覚が走った。
──蟻拳覚醒。
蔓や霧、樹海の息吹が全て凛の拳に応え、動きはかつてない速度と精密さを帯びる。花梨は光を強め、零は動きを読み、三人の連携が極限まで高まる。
刺客は強大で、一撃ごとに森が震える。しかし、凛は恐れず拳を繰り出す。祖父の教えが身体に染み込み、拳が自ら道を切り開く感覚――蟻拳の真の力を初めて体感する。
「花梨、零……俺に任せろ!」
三人の心が一瞬で重なり、蟻拳の力が最大限に解放される。拳が衝撃波となって刺客に直撃。森の霧が裂け、赤い瞳が一瞬驚きに揺れた。
刺客の攻撃も避ける余裕を見せる凛。恐怖、孤独、戦いのすべてが力に変わり、拳の一撃一撃が重なり、ついに刺客は霧に吸い込まれるように崩れ去った。
森が静まり返り、霧が晴れる。全身の力が抜け、膝をついた凛に花梨と零が駆け寄る。涙が自然に頬を伝う。恐怖、孤独、試練、戦い――すべてが一気に解き放たれる瞬間だった。
「……やった……凛!」
花梨の声に、凛も微笑む。零も静かに頷き、三人の間に達成感と絆の温かさが満ちる。
樹海の奥深く、蟻拳の力が目覚めた。
そして、三人の心には、仲間と共に乗り越えた証と、さらに広がる未来への希望が刻まれた。
──樹海の試練は終わったわけではない。だが、凛は確信していた。
「どんな試練も、仲間と共になら越えられる」
樹海の霧がゆっくりと揺れ、森全体が静かに凛たちの覚醒を見守った。




