第4話 樹海の囁き
霧がわずかに薄れた森の奥、凛と花梨は慎重に歩を進めた。樹海の息吹が肌に触れ、木々のざわめきが耳に響く。戦いの余韻はまだ消えず、二人の体は疲労で重いが、心は引き締まっていた。
「……この森、何か……感じるね」
花梨が小声で囁く。凛は頷き、拳を軽く握る。
「……樹海が、俺たちに試練を見せようとしてる」
その時、霧の奥で微かな声が聞こえた。囁きのようで、言葉ではない。だが、凛の胸に直接届く感覚がある。
──樹海の意思だ。
「……誰かいるの?」
声の主を探して視線を巡らせると、霧の中に小さな光が揺れていた。近づくと、そこにはもう一人の少年――銀髪に淡い青の瞳を持つ青年が立っていた。
「……君たちも、この森に?」
青年の声は柔らかいが、どこか警戒心を帯びている。凛は拳を下ろし、落ち着いて答えた。
「俺は遠山凛。伝説の拳を求めて、この樹海に入った」
花梨も一歩前に出て、光を微かに揺らしながら答える。
「……俺は零。この森に棲む者たちの異変を追って、ここまで来た」
零の瞳には、過去の戦いで培った冷静さと優しさが混ざっていた。凛は直感で、彼を仲間として信頼できると感じた。
その瞬間、霧がざわめき、蔓が二人の足元を覆った。先ほどまでとは異なる、より巨大で威圧的な影。樹海の意思が、二人に試練を告げるかのようだ。
「……やっぱり、試練はこれからか」
凛は拳を握り直す。花梨は零の手をそっと握り、三人の心が一瞬で結びついた。
影が迫る。蔓は森を這い、目の前を覆う。零は素早く踏み込み、光と樹海の気配を読み取りながら、蔓を避ける。凛と花梨もその動きを追い、三人で呼吸を合わせて攻撃をかわす。
「……行くぞ!」
凛が拳を振り、花梨が光を放ち、零が隙間を作る。三者の力が共鳴し、蔓が砕け散る。樹海の霧がざわめき、森全体が応えるように光を揺らした。
戦いが終わった後、三人は膝をつき、息を整える。森の奥で、微かな囁きが響いた。
──樹海は、まだ試練を隠している。
「……ありがとう、零」
花梨が小さく微笑むと、零も少し笑った。凛は拳を握り直し、二人の背中を見ながら、胸に決意を刻む。
「……まだ始まったばかりだ。この樹海で、俺たちはもっと強くなる」
霧深き樹海の奥、影はじっと三人を見つめる。試練はまだ、終わっていない。




