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断章 ふたりめの子

コルヴァンの“意地悪”を耐え抜いた後。


サクは傷ついた小鳥を自室の片隅で看病した。それはコルヴァンへのささやかな反抗でもあった。


数週間後、小鳥はすっかり元気になった。しかしその姿は、やはり元のただの小鳥ではなくなってしまった。


コルヴァンとサクの魔力が満ちる屋敷で育った影響か、サクの手のひらの中でノクスと同じように魔力を受けたのか。

その羽は、月の光を受けると真珠のように淡く輝く、不思議な乳白色へと変わっていた。

そしてその瞳には、知性の光が宿っている。


「この子の名前はルミにします!だって今、ほら!白いんですもの!」


サクはコルヴァンの前にトトトと走り寄り、両手で大事に抱えた美しい白い怪鳥を見せつけた。


「コルヴァンさん、みてください、この子は白いです!だからいいですよね、ルミでいいですね?」


コルヴァンは呆れた目で、小さな主人のささやかな仕返しを見つめて「お好きにどうぞ?」と告げた。

サクは嬉しそうにルミに頬を擦り寄せた。


ルミは元の野生を失いサクに懐いた。

いつも彼女の肩に乗り、その指先からパン屑をついばんだ。

しかしその性質は、ノクスとは正反対だった。非常に憶病で、少しでも大きな物音がすると、サクの髪の中にごそごそと隠れてしまう。


特にコルヴァンに対しては、蛇に睨まれた蛙のように完全に体を固まらせてしまうのだ。

コルヴァンが部屋に入ってきただけで、ルミはサクの背後に隠れてぷるぷると震えている。


「我々の魔力を受けていると言うのに、なんと矮小な…」


コルヴァンは弱気なルミを気に入らないようだった。

しかし一度サクが本気で激怒した一件以来、サクが愛でるものを無下に破壊することは、やや躊躇うようになっていた。


それに、コルヴァンは決して口にしなかったが、ルミはサクの魔力に強く影響されていたせいか、サクに似ていた。特にぷるぷると震える姿は、屋敷に訪れた頃のサクを髣髴とさせるものがあった。要するにコルヴァンもルミを愛らしいとは思っているのである。自分にまったく懐かないのは気に入らないが。


ノクスはこの新しい妹の存在を、あまり面白く思っていないようだった。

自分よりもちっぽけで憶病で、そして何よりサクの愛情を独占するルミが気に入らなかった。

彼はことあるごとに、ルミを追いかけ回し、その美しい羽を意地悪くクチバシで突くようになった。


そのたびに、ルミは悲鳴を上げて、サクの元へと逃げ込んでくる。


「ノクス、やめなさい!」


サクが叱っても、ノクスは不思議そうにこてんと首を傾げるだけだった。コルヴァンに叱られた時には絶対にとらない舐めきった態度に、サクはショックを受けた。最近はずっとこの調子だった。


しかしノワールのその行動は、単なる嫉妬や意地悪だけではなかったのかもしれない。


ある日、サクは見つけた。

ノワールが必死に逃げるルミを壁際に追い詰め、彼女の目の前に、自分が捕らえてきた一匹の美しい玉虫を、そっと置いていたのだ。


それは彼なりの不器用な求愛なのか、単なる遊びへのお誘いなのか…。


もちろん、そんな彼の気持ちがルミに伝わるはずもなく、ルミはさらにパニックになって逃げ惑うだけ。

そしてノワールは苛立ち、さらにルミを追いかけ回すのだった。


サクはその光景を見て、深いため息をついた。

不器用で一方的で愛情表現が全て、相手を怖がらせる支配になってしまう。

黒くて大きくて理不尽な家臣と、全く同じだ。



ある日のサロンは、珍しく陽の光が差し込んでいて暖かかった。


そこでノクスがまたルミを追いかけ回して怖がらせ、諦めてぷるぷる震える彼女に寄り添って満足げに喉を鳴らしていた。


やわらかなサロンの日差しと平和な光景にすっかり気が緩んでいて。普段より口が軽くなっていたサクは、傍らで静かに控えているコルヴァンに言ってしまった。


「ノクスはなんだか、あなたにそっくりですね。理不尽で不器用で」


それを聞いたコルヴァンは表情の抜け落ちた顔でサクを見下ろした。


「…主よ。今、何と?」


理不尽。不器用。


サクはハッとした。はっきり言いすぎた。実際理不尽で不器用だとは思うのだが──数々の理不尽な躾、謎の嫉妬からの苛烈な交わり、良かれと思ってやった結果サクを絶望させた行為などなど──本人に言うべきではなかった。まずい、地雷であったかもしれない。


冷や汗をかいて目線を彷徨わせるサクを、コルヴァンは静かに抱き上げた。


「あ、あの。ええと」


ぷるぷる震えるサクを静かに見つめるコルヴァンは、やがてその黄金色の瞳を愉悦に歪ませた。


「ルミも、あなたによく似ている」


「え」


「ノクスが突き回したくなる気持ちも、わたくしには分かる」


言うが早いか、コルヴァンはサクの首筋に唇を寄せ、首飾りを上げるとその舌の皮膚に優しく歯をたてた。


「ひ、ぁっ!」


刺激に高い悲鳴をあげるサクをみて満足げに笑った。


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