表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/30

断章 命名会議


ある晴れた日の午後。珍しいことに霧の森の屋敷にも、窓から優しい日差しが差し込んでいた。


サクは毛足の長い絨毯に座り、傍で羽を休めている漆黒の鳥…のような、怪鳥と戯れていた。指を伸ばせばつんつんと黒く長い嘴で突いてくる仕草が愛らしくてたまらなかった。


サクの手のひらで包めるほどの大きさだったそれは、ここ数日で大きめの猫ほどの大きさになり、ずっしりと重量をもった。


──数日しか経っていないのに、こんなに大きくなるもの?どんどん大きくなって、お屋敷に入らなくなったりしないかな?


サクは少しそれが心配だったが、コルヴァンが何も言わないし、彼は彼でこの怪鳥をそれなりに可愛がり愛着のあるようだったので、そこまで心配はしていなかった。


「はしたないですぞ、主」


紅茶を運んできたコルヴァンが言うが早いか、サクをふわりと抱き上げてカウチに座らせた。サクは名残惜しそうに、絨毯に取り残された怪鳥を見つめながら、意を決して顔をあげた。


「コルヴァンさん。この子のお名前を決めませんか」


珍しく力強い言葉に、コルヴァンはサクを静かに見つめ返す。


「名前の候補があるのですが…」


サクは緊張を表情にのせて、コルヴァンをうかがうように見上げて言う。


「よろしいでしょう。聞かせてご覧なさい、主よ」


静かな返事に、サクはパッと顔を輝かせた。


「ユキはどうですか?」


サクが嬉々として伝える。

それは、この鳥が、かつて真っ白な羽を持っていたことへの、サクなりの愛情の証だった。

そして彼女の心に残る、数少ない美しく儚いものの記憶。その名前を呼ぶと、鳥は嬉しそうに喉を鳴らしてサクの指に頬をすり寄せた。


「…?」


コルヴァンはひややかに首を傾げた。怪鳥は黒いのに、なぜ?ということだろうかと思ったサクは慌てて、彼を見上げる。


「この子は拾ったとき、雪のように白かったでしょう?だから、ユキと」


ふ、とコルヴァンは笑った。それは決して優しいそれではなく、冷笑だった。


「雪は触れれば溶けて消える、儚く弱いものの象徴」


冷たい声に、サクはびくと肩を揺らす。


「弱く儚く、脆弱な人間の感傷…といった名ですな。不愉快です」


「えっ」


不愉快とまで言われるとは。サクは驚いてしまう。コルヴァンは、冷たい瞳でサクの戸惑う眼を追い詰めるように見つめた。


「あなたはこの子に、わたくしたちの力を宿した、この誇り高き眷属に…あの小さく無力で醜い頃の名を冠せよというのか?」


コルヴァンの指がサクの肩を撫で…グ、と少し力が込められる。サクは息を呑んだ。


「この子は、白かったのではない。

あなたとわたくしの魔力が混じり合い、黒く生まれ変わったのだ…その過去を慈しむということは、わたくしとの繋がりを、この子の今の姿を、あなたが否定していることに他ならない」


サクは、彼のあまりにも飛躍した、しかし彼の中では絶対的な理屈に、言葉を失う。


──そ、そんなつもりじゃなかったのに!


良かれと思って付けた名前が、彼のプライドと二人の繋がりそのものを、根底から侮辱する行為になってしまっていたらしい。


コルヴァンは、鳥に向き直ると、命令した。


「おいで」


鳥は、サクの腕から離れると、主人の優雅に差し出された腕へと飛び移る。上等な止まり木に止まれたかのように、安心して喉を鳴らす。

コルヴァンは、その黒い羽を撫でた。


「この子は、我らの繋がりから生まれた夜。ノクスと呼ぶ」


ノクス、と呼ばれた鳥は、主人の言葉に応えるように、一声、高く鳴いた。


サクは、自分の想いを否定された上に、おそらくは真反対の名をつけたコルヴァンをみて戸惑いの表情を浮かべた。


そして、一声呼ばれただけでコロリとコルヴァンの腕へ飛び乗ってしまった怪鳥…ノクス、我が子を見て、寂しそうに眉を下げた。


コルヴァンはすっかりしゅんとなってしまった愛らしい主人をみて、冷たく見下ろしていた眼差しを緩めた。


「…ふふ」


コルヴァンが腕を伸ばすと、ノクスはバサリと羽ばたいてコルヴァンの腕から去った。彼は気にせず、カウチに座るサクを抱き上げた。


「そう拗ねるな」


「拗ねていません…」


家臣の胸に頬を寄せて俯くサクを、コルヴァンはこの世で1番の宝のように抱きしめた。


ノクスは今度はカウチに止まり、静かに寄り添う2人を静かに見上げていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ