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断章 主の身支度

朝の光が差し込む、豪奢な寝室。サクは、大きな姿見の前に、静かに座っている。


その後ろに立ったコルヴァンが、彼女の髪を銀の櫛でゆっくりと梳かしていく。

奴隷時代は傷み、肩あたりで切れてぼさぼさだったサクの栗毛色の髪は、今や艶をもって腰あたりまで伸びていた。


サクは、鏡に映る自分…ではなく、背後で櫛を通していくコルヴァンを見つめていた。黒い燕尾服を纏い、ただ黙々と、しかし、どこまでも優雅に自分の髪を梳かす、美しい家臣の姿。


出会った頃から変わらない、作り物のように美しい彼。瞳を伏せ、サクの髪を梳く姿は一枚の絵画のようだ。


「…きれいですね、コルヴァンさん」


ぽつり、と、彼女は呟いた。それは、何の計算もない、心の底からの言葉だった。


コルヴァンは、櫛を動かす手を止めた。彼は、自分が美しいことなど千年と昔から知り尽くしている。しかし、それを口にして嘲笑はしなかった。ただ、まっすぐなサクの瞳を鏡越しに見つめた。


サクの瞳が、朝陽に反射してきらりと金色に反射した。コルヴァンの魔力を得て、日に日に美しく変貌していく彼女。最も顕著な変化が、その瞳が時節金色に輝くことだ。金色…コルヴァンと同じ、異形の瞳。サクはまだ、それに気づいていない。


「…ええ」


彼は恍惚と答えた。


「あなたも、美しい」


彼は梳かし終えた髪に、まるで崇拝するかのようにそっと口づけを落とした。サクは、その言葉の真意を完全には理解できない。ただ鏡の中で困ったように、頬を赤らめるだけだった。


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