よそはよそ、うちはうち
わたし、岩魚真里恵。
まあ、わたしの名前なんてどうでもいいわ。
うちは三姉妹でね、姉が二人いるの。つまりわたしが一番下の娘ってこと。
それの何がいけないか知ってる?
簡単に言えば、姉のお下がりで我慢しろ、ってことになるの。
そう、うちは裕福な家庭ではなかったから余計にね。
まあそんなわけで、姉からのお下がりの服、カバン、おもちゃに本。
そんな子供時代だったわけ。
とりわけわたしが気に入らないのが、たまに勇気を出して母親に頼み込んで、こんなことを言ったときのこと。
* * * * *
「ママ! あかね(ともだちの名前だ)が持っているような、アイドルの財布が欲しいの!」
「ええっ? 財布ならかわいいキャラ物のを持っているじゃないの」
「ママ、わたしもう高学年だよ。もうまわりの子はキャラ物で満足してないよ」「よそはよそ、うちはうち。アイドルじゃなくてもいいでしょ。まだ使えるんだし」
* * * * *
こんな具合でわたしの幼少期は、がまんがまんでやってきた。
姉だってがまんしていた部分は多いと思う。
それでも三女のわたしがいちばん被害をこうむってきた。
なんの被害かって?
「よそはよそ、うちはうち」の被害よ。
* * * * *
それでもわたしはいい大人になっていた。
もうまわりがアイドルの話題で盛り上がっていても、芸人の話題で盛り上がっていても、わたしには関係がない。
わたしはわたしの仕事に一所懸命に取り組んで、ただひたすらに貯金を貯めていた。それはもう命がけでね。
守銭奴とでもなんでも言うがいいわ。
わたしは独りで生きていくって決めてるの。
男なんてろくでもない。
自分のことしか考えないつまらない連中ばかり。──ああ、それなら女もおんなじだけど。
とにかく、わたしはわたしの願いのために生きるの。
なのに────
母親がある日、うちにやって来た。
一人暮らしの部屋にやって来て、しばらく顔も見なかったわたしに会いに来たと思ったら、とうとつにこんなことを言い出したの。
「あんた、いつになったら結婚するの。久巳(長女)はアメリカに渡っちゃったし、那岐(次女)は沖縄に行っちゃうし。孫の顔も見れないわ。
近所のあかねちゃんは二歳になる子供がいるってのに。
あんたもさっさと結婚して、わたしに孫を抱かせなさいよ」
わたしは母親にお茶漬けを出しながらこう言ってやった。
「よそはよそ、うちはうち」
日常にあるお話。
結婚して子供を、というのは、古い時代の固定観念そのものかもよ。