表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

第一部:『今川義元編』 第9章:「稲葉山炎上、斉藤家の黄昏」

前話で、今川義元は稲葉山城を無血開城させ、斉藤義龍の臣従を受け入れました。

しかし、戦国の世はそう甘くはありません。すべてが“静かに終わる”わけではないのです。

今回の第9話では、斉藤家内部に潜む強硬派、かつての戦人たちが“誇り”を掲げて立ち上がります。

義元の知略と火計が交差し、稲葉山城の最後の夜が幕を開けます。


燃える城、散る忠義。美濃の夜空に浮かぶのは、火の海か、それとも新たな秩序か。

「斉藤家の若手家臣団が、城の奪還を企てているようです」

泰朝の報告は、夜の帳の中で静かに響いた。


「義龍は病に伏せ、嫡男は降伏を選んだ。だが、誇り高き者たちは、簡単に膝を折るつもりはないか」


稲葉山の山腹に明かりが灯り、斉藤家の旧臣たちが集結しているという。


「その中には、稲葉一鉄の姿も確認されております」


なるほど。義龍の忠臣、武辺一徹の将。彼が動くならば、反抗は小さな火では済まない。


私は小さく首を横に振った。


「泰朝、火計の用意を」


「まことに?」


「誇りある者に、命で報いる必要はない。ただし、火には“説得力”がある」


人が何より恐れるのは、“終わりの兆し”だ。


そしてそれを最も象徴的に伝えるのが、“城が燃える”という事実だった。


その夜、稲葉山城の山麓で、三方から松明を手にした兵たちが静かに動いていた。

私の命により、旧臣たちの潜伏地に火矢が打ち込まれ、乾いた風に乗って火が走る。

「何事だ!?」


斉藤残党の一人が叫ぶ。だが、それは“始まりの合図”に過ぎなかった。


「こちら、今川方より使者、投降すれば命は取らぬ!」


叫ぶ声と共に、崩れかけた寺院に追い込まれた者たちに降伏を呼びかける。


それでも剣を抜いて飛び出してきた者たちは、すべて泰朝の兵により制圧された。


夜空に赤く浮かび上がる稲葉山城の天守閣。


その炎を見上げながら、私は静かに呟いた。


「武の誇りを、知が覆す。これが、時代の変わり目だ」


城に取り残された女房衆と民には手を出させず、翌朝には炊き出しと物資の支援を届けさせた。


民心は動揺していたが、“火の後に来る救済”は、絶大な信頼を生んだ。


かくして、美濃・斉藤家は完全に滅び、稲葉山は“岐阜城”として今川の手に落ちた。

第9話「稲葉山炎上、斉藤家の黄昏」、お読みいただきありがとうございます。

この回では、義元が火計と心理戦を組み合わせて“最後の抵抗”を断ち切る姿を描いてまいりました。

彼の知略は、ただ敵を倒すのではなく、“民を生かす”という次なる段階に入ろうとしています。


次回はいよいよ第一部・最終話。

**第10話「帝国布武、知識が創る天下」**では、今川義元がいかにして“知の帝国”を築き、

新しい統治体制を整えるのかを描いてまいります。


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ