表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

第一部:『今川義元編』 第8章:「濃尾の炎、斉藤の影」

三河を制し、尾張を手中に収めた今川義元は、次なる戦略へと動き出します。

その矛先は、美濃・斉藤家。かつて織田家と抗争を繰り広げた、老練なる戦国武将・斉藤義龍が統べる地です。

第8話では、知略の帝王・義元が“力”ではなく“火”と“心”で城を落とす、

斉藤家との静かな火花を描きます。


城を守る者、落とす者、それぞれの正義と誇りが交錯する、美濃戦線の始まりをどうぞご覧くださいませ。

「稲葉山城は、思ったより堅いな」

私は地図を睨みながら、額に指を添えた。


美濃の要害・稲葉山城。

標高の高い山城であり、城下の支配も強固。斉藤義龍は、防衛に長けた老将である。


「直接攻めるのは得策ではありませんな。義龍は、徹底して“籠城戦”に持ち込むはず」


泰朝が冷静に言う。


私は頷き、すぐに「三段の戦術」を提示した。


一、補給線の遮断。

二、経済封鎖による市場の崩壊。

三、内応者への心理戦。


「戦場を“兵”でなく、“生活”に広げる。これが我々のやり方だ」


美濃には、商人と農民の中間層が厚い。

私はその民意を揺さぶるべく、尾張から物資を密輸し、周辺村を“義元寄り”に染め始めた。


「義龍は、義父・道三のやり口とは違う。

強さではなく、堅さを信じている」


だからこそ、強く押すのではなく、じわじわと心を“干す”。


一ヶ月が過ぎた頃。


「義龍様が、城内で病を患っているとのこと」


「来たな」


私はすかさず、次の手を打つ。


稲葉山の裏山に、巨大な狼煙台を築き、

義龍が“民に見放されている”という虚報を散布した。


さらに、兵糧を積んだ偽装部隊をわざと捕えさせ、

その食料に“毒”が仕込まれていると噂を流した。


「この戦いは、“恐れ”が勝つか、“信じる心”が残るかだ」


泰朝の報告によれば、城内で疫病の疑いも広まり、

食料不足と不安により、家中の武将が動揺しているという。


そしてある晩


「使者が参りました。斉藤家より、降伏の申し出です」


静寂の中、その報せが本陣を満たす。


「義龍はどうした?」


「重病の床にあり、政務を嫡男に譲ったとのこと。

条件付きでの開城と、臣従を願っております」


私は、そっと筆を置いた。


「よかろう。誇りある武士の顔を立てよ」


稲葉山城は、開かれた。


火計も剣も使わず、民意と知恵で落とした一城。


「これが、“知”による戦の形だ」


地図の上、濃尾が私の色に染まっていく

第8話「濃尾の炎、斉藤の影」、お読みくださりありがとうございました。

本話では、兵の激突よりも“静かな包囲”と“心理戦”に焦点を当て、

義元の真骨頂たる知略による征服劇を描いてまいりました。

斉藤義龍という歴戦の将も、病と民の離反には抗えず、

“無血開城”という形で美濃が今川の手に落ちます。


次回、第9話「稲葉山炎上、斉藤家の黄昏」では、

わずかに残った強硬派との衝突が描かれ、斉藤家の完全終焉へと至ります。


どうぞ次話も、お楽しみにしていてくださいませ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ