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第一部:『今川義元編』 第5章:「翻る陣、織田の終焉」

信長を討ち取ったことで、歴史の舟は明らかに揺らぎました。

しかし、ただの勝利では足りない。真の統治とは、混乱を秩序へ昇華させる作業です。

第5話では、尾張制圧を果たした義元=拓海が、

松平元康(家康)との駆け引き、そして尾張の政策整備へと踏み出します。

戦において強いだけでは支配は続かない

知識に基づく統治こそが、乱世に新たな秩序を創るのです。

戦場を覆っていた霧が徐々に晴れると、尾張には決定的な勝利の残響が残っていた。

織田信長の首級は確かに討ち取られ、その名は事実上、歴史の終焉を迎えた。

私は本陣の帳を出て、尾張平野を見下ろす高台に立った。

朽ちた旗、倒れた槍、静寂を取り戻しつつある大地

その風景は、敗北と新たな支配の狭間そのものだった。


「殿、尾張城への進軍命令、了解いたしました」


泰朝の声は落ち着いていたが、焦りの影もわずかにある。

信長の勢力が去った後、領民に対して統治を示す必要がある。


「兵を二千、尾張城に駐屯させよ。

徴税の制度や宿駅、警備体制も整備せねばならぬ」


私は短く指示を出しつつ、静かに地図を見下ろした。

「尾張は我が知の治世の最初の地。

だが次の焦点は、三河・岡崎の松平元康だ」


その矢先、伝令が急報を持って駆け込んだ。


「殿、岡崎の松平元康殿が“尾張奪還”を掲げて挙兵を宣言しました」


その報を聞いた瞬間、私は既視感に襲われた。

信長の奇襲前の足音と同じような熱気。

尾張を狙う者が、今度は自らの領地に牙を向き始めた。


「泰朝、これは試されている瞬間だ」


「承知しました、殿。忠誠と野望が交錯する相手です」


私は文官を取り集め、政策の具体化に取り掛かった。

徴税係の配置、租税制度の設計、道路整備、関所制度、拠点都市としての尾張のインフラ整備が必要だ。


「この地を知識で統治するためには、

単に強い軍勢ではなく、制度と秩序が不可欠だ」


泰朝は静かに頷き、書状を用意した。


「元康殿へ忠節を尊重しつつ、

尾張に不可侵の立て札を設置すべく、協力を要請する」


この書簡は、敵対ではなく外交の布石。

次に動く者を味方に転じうる可能性を残す作業でもある。


その夕暮れ頃、本陣に新たな視線が集まった。


「信長ではなく、元康を討たねばならぬのか?」


ある若手家臣が問いかける。

私は静かに答えた。


「知の支配とは、単なる勝利ではない。

信長を討った後こそ、尾張に秩序を築き、

次なる戦略を練る時なのだ」


その夜、私は帳の中で文書を書き終え、地図に新たな線を引いた。

尾張城と岡崎城、『知』による治世の境界線

それは運命の次章への布石だった。

第5話「翻る陣、織田の終焉」をご覧いただき、ありがとうございます。

今回は尾張制圧の後、松平元康の挙兵によって新たな局面が訪れました。

知略を以て歴史を変えた義元=拓海の本領は、「統治」へと移り変わります。

戦だけではなく、制度と秩序を持って支配することの難しさと覚悟。

次回、第6話「岡崎の烽火、徳川の覚醒」では、元康の反撃と三河における包囲戦を描きます。

知略と統治の戦い、その続きをどうぞお楽しみに。

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