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第一部:『今川義元編』 第4章:「霧中の策、鳴る角笛」

知識は静かに鳴る刃となり得ます。

前話で布いた伏線、信長の進む道を予測し、伏兵を配置したその策が、ついに動き出します。

霧が重く立ち込め、視界を奪う桶狭間の朝。

角笛が鳴るその瞬間から、“知略”という名の戦いが幕を開けるのです。

歴史を書き換える覚悟

その刃が、今、霧を裂いて飛び出します。

東の空が淡く白み、山並みの稜線が霧の向こうに浮かびはじめた。

その冷気と共に谷間には濃密な霧が立ち込め、視界は遮られ、声も音もすべてが遠ざかるようだった。

その沈黙を裂いて届いた、ひとつの声。


「殿、信長軍、本陣へ進入開始―先鋒は騎馬を含む精鋭、整然と進んでおります!」


私は帳の中でゆっくりと目を閉じた。

戦いは、計画の段階を終え、いま「実行」の局面へと移ろうとしていた。


泰朝との視線が交わされ、小さく口を開く。


「泰朝、今こそ動け」


その言葉と同時に角笛が鳴り、伏兵たちは一瞬の静寂を破って動き出す。


霧の中で響いた無数の弓弧が、信長軍の列を貫いた。

悲鳴と混乱の鮮烈な波が伝わる。

それはまるで、霧の盟約を破るような、死の宣言であった。


「包囲、完成!」


私の次の指図を永楽通宝の旗印の合図とし、側面から遊軍が襲いかかる。

狭い谷間で隊列は崩され、兵同士の連携は断たれ、命令は届かぬ。


混沌の中、私は霧の隙間に目を凝らす。

白馬の上に佇む一つの人影、それが信長と識別できた瞬間、確信が胸に走った。


「射手、狙え。信長を狙撃せよ」


伏兵はすでに布陣を終えている。

弓の音は静かに、しかし確かに、白馬の男を貫いた。


「命中!」


白馬がよろめき、信長は馬上から崩れ落ちた。

側面から駆け込んだ部隊がその周囲を固め、もはや彼に逃げる余地はなかった。


「首を獲った者には三百貫!」


その号令は、ただの報酬ではなく、「知の勝利」を示す号令だった。


報告が届き、私は地図を前に静かに息を吐いた。


「知略こそが武を超える。これが歴史を欺いた瞬間だ」


戦場は霧が晴れてゆき、残されたのは敗残と静寂。

しかし、私の中ではすでに次なる布石が始まっていた。


尾張の平穏、岡崎の動揺、三河の情勢。

私はその地図を広げ、冷静に遠くを見据えた。


「次は岡崎だ。次の歴史は、私が組み立てる」

第4話「霧中の策、鳴る角笛」をご覧いただき、ありがとうございます。

今回描いたのは、義元=拓海による奇襲戦略の実行と成功、

そして信長討伐による歴史の改変という、非常に重要な展開です。

「知」によって「武」を凌駕し得るという視点が、この物語の核となります。

次回は第5話、「翻る陣、織田の終焉」。

尾張統治の整備と、松平元康(家康)の覚醒がテーマです。

どうぞ引き続きお楽しみくださいませ。

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