第ニ部:『本願寺顕如編』 第9章:「畿内反攻の兆し」
六角義賢の敗北から数か月、近畿は表面上は静けさを取り戻していた。
だが、その陰で、三好残党、六角残党、堺商人衆が密かに同盟を結び、畿内奪還の軍を起こそうとしていた。
資金を出す堺、兵を供出する六角と三好、その総力は侮れぬ規模。
顕如はその情報を掴みながらも、あえて動かず、全反勢力を一度に葬る機会と見定める。
やがて、島田宗悦のもとに召集命令が下った。
「次が最後の戦だ。畿内を、完全に我らのものとする」
雪解け間近の京。
私は報告を受けた。
「六角残党、三好残党、それに堺商人衆が」
使者の言葉に、私は口角を上げた。
敵の総兵力、およそ一万五千。
その中には、かつて私の策略で破れた義賢の腹心や、三好長慶の落ち武者も含まれている。
金を握るのは堺商人衆、今井宗久の名もあった。
火薬、鉄砲、傭兵、堺は海の向こうから物資と兵を集め、反顕如の旗を揚げた。
「顕如様、今ならまだ各個撃破も」
島田宗悦が進言する。
だが私は首を振った。
「いや、一度に叩く。奴らは互いに信用し合っていない。集まった瞬間こそ、壊滅させる好機だ」
そのためには、兵と物資を極限まで整えねばならない。
私は宗悦に命じる。
「免疫薬を全兵に行き渡らせろ。黒煙兵器の配備も倍増だ」
「はっ」
さらに、風向きと湿度を観測するため、比叡山の僧侶たちを観測隊として組み込む。
この時代の戦は天任せだが、私にとっては計算式の一部にすぎない。
数日後、密偵からの報告。
反顕如連合は近江南部に進軍中。
陣形は三好残党が前衛、六角残党が中央、堺商人衆の雇兵が後方に控える。
「来たな」
宗悦を呼び、戦場図を広げる。
「この北西風を利用し、黒煙を奴らの陣に流し込む。背後には火を放つ別働隊を置く」
宗悦は無言でうなずき、薙刀を腰に差した。
「顕如様、これで畿内は」
「我らの帝国となる」
兵たちは免疫薬を飲み、黒煙を避ける布で顔を覆う。
冬の空気が張り詰める中、出陣の太鼓が鳴り響いた。
第9章では、反顕如勢力の総力戦の準備と、それを逆手に取る顕如の戦略を描きました。
あえて敵を集め、一度で葬り去るという冷徹な判断は、彼が科学者であり支配者である証。
次章はいよいよ顕如編最終決戦、黒煙兵器と免疫薬を駆使した戦いで、畿内は完全に一つとなる。
顕如が掴むのは、宗教・科学・政治の三つの権力。
その瞬間を、どうぞお見逃しなく。