第ニ部:『本願寺顕如編』 第6章:「二正面の炎」
反顕如派の象徴・下間頼照は一時的に膝を屈したが、
その炎は消えてはいなかった。
三好義継は残党を糾合し、京奪還の機を伺う。
そしてある夜、二つの炎が同時に燃え上がった。
本願寺の内部で僧兵が蜂起し、同時に義継の軍勢が南から迫る。
顕如は科学と信仰を両輪に、この危機を迎え撃たねばならない。
内と外、二正面の戦いが始まる。
それは秋雨の夜だった。
本願寺の回廊を、僧兵の足音が乱雑に響く。
彼らは灯明を手に、庫裏や薬蔵へと押し寄せていた。
「顕如様の薬は偽りだ!
仏の道を歪める異端者を討て!」
声の主は下間頼照だった。
彼は表向き従順を装っていたが、裏では武装蜂起の準備を進め、
寺内の不満分子を糾合していた。
同時刻、京の南方、宇治川を越えて、
三好義継率いる残党軍が北上していた。
彼らは、反顕如派と連動する形で寺を挟撃する計画だった。
報せを受けた私は即座に動いた。
「薬師隊は内部制圧に回れ。僧兵には非致死性の煙薬を使え」
薬草と鉱粉を混ぜた煙は、目と喉を焼き、呼吸を奪う。
僧兵たちは咳き込み、武器を落として膝をついた。
一方で、外の義継軍には別の策を用いた。
私は密かに感染力の高い、だが発症まで三日を要する菌を河川に投じていた。
義継軍は行軍中にこれを飲み、気づかぬうちに体内へ取り込む。
二日後、義継軍は本願寺近郊に到達した。
しかし、兵の半数近くが高熱と嘔吐に苦しみ始める。
戦うどころではない。混乱する陣営を、
私は信徒の僧兵と京の町衆兵で包囲した。
その間、寺内の反乱はほぼ鎮圧されていた。
頼照は本堂前で捕らえられ、膝をつかされた。
「顕如様、これが仏の道か」
私は答えた。
「これは人の道だ。そして、人の道を導くのは力だ」
頼照は処刑せず、実験棟へ送った。
彼の体は、これから新しい薬剤の試験体となる。
外では義継が降伏の使者を寄越した。
私は彼に条件を突きつけた。
「本願寺の庇護を受けるなら、兵と領地の一部を差し出せ」
義継は渋々応じ、南山城の一部を献上した。
こうして、内外の火種は一時的に鎮まった。
だが私は知っている。
これは終わりではなく、私の支配が次の段階へ進むための序章にすぎないと。
第6章では、反顕如派の武装蜂起と三好義継軍の侵攻という、
二正面作戦を描きました。
顕如は科学的手段、煙薬と潜伏期を持つ菌、を駆使し、
武力に頼らず両方を鎮圧します。
下間頼照は生かされ、人体実験の新たな被験者となり、
義継は領地を削られて半ば従属。
これで近畿支配は一歩前進しましたが、
顕如の支配はますます非人道的な色を強めていきます。