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第ニ部:『本願寺顕如編』 第4章:「京の空白、二つの火種」

三好長慶の死は、畿内の勢力図を根底から揺るがした。

討ち取った松永久秀は約束通り四国の三好領を得て、海を渡る。

だが、その背を見送った京では、空白を巡る権力争いが勃発していた。

将軍足利義輝は権威の回復を狙い、三好家残党は勢力の再建を図る。

同時に、本願寺内部でも顕如の“科学的手法”を危ぶむ声が芽生える。

外と内、二つの火種が顕如の覇権に試練をもたらそうとしていた。

三好長慶の首級が寺の大広間に安置されたその日、

松永久秀は深々と頭を下げ、約束の品を置いて去った。


「では、顕如殿。私はこれより四国に向かいます」

「お前の働き、しかと覚えておこう」


久秀は戦勝の余韻をまとったまま、淡路経由で四国へ渡っていった。


だが、久秀が去った途端、京は騒然となった。

「長慶亡き後、誰が都を治めるのか」

公家たちは将軍義輝の下に集まり、

義輝もまた、この混乱を己の権威回復に利用しようと目論む。


一方、三好家の残党は急ごしらえで結束し、

若き義継を旗頭に再び京への影響力を保とうとしていた。

その背後には畠山高政や細川氏など、畿内外の諸勢力も絡み合う。


私はこの権力争いに、刀ではなく薬を差し込むことにした。

「京の町衆に“顕如様の薬”を行き渡らせよ」

薬師たちは疫病予防の教えと称して、

煮沸消毒や薬草液を配り歩いた。

これを受け取った者は、必ず本願寺への帰依を誓わせる。

数ヶ月も経たぬうちに、京の半分近くが信徒となった。


しかし、寺内で別の問題が芽吹く。

下間頼照、古参の重臣にして、

長く寺務を担ってきた男が密かに私に進言した。


「顕如様、このやり方は仏の教えから逸れすぎております。

 病を仏罰ではなく“菌”と呼び、薬を神の加護と説く

 僧たちの中には違和感を覚える者もおります」


私は笑みを崩さず答えた。

「信仰を守るには、形を変えるしかない。

 それを理解できぬ者は、この時代の遺物だ」


頼照は表面上従順を装ったが、

その夜、彼が反顕如派の僧数名と密会しているという報告が入る。

どうやら、三好残党や京の旧勢力と接触しているらしい。


外では権力争い、内では教義を巡る対立

二つの火種は、いずれ大火となって私を試すだろう。

だが私は、試されることすら喜びと感じていた。

科学と信仰、恐怖と救済

この両輪が揃えば、京も畿内も手中に収められる。

第4章では、松永久秀が四国へ去った後の京の混乱と、

本願寺内部で芽生え始めた反顕如派の動きを描きました。

顕如は兵を使わず、薬と信仰で京の町を侵食しますが、

寺内の反対派は静かにその背後で策を練ります。

次章では、外の権力争いと内の裏切りが交差し、

顕如の科学的支配が初めて試される局面に突入します。

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