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股が当たるのが悪いのであれば、尻なら問題あるまいと、横座りにしてみました所、
客の老主人:「おお、まるで神輿にでも揺られているようです」
と、大変具合がよろしい様でございまして、
客の老主人:「暫くは、これで進む事にしましょう」
と、三人はようやく前へと歩み出しました。
駕籠屋・二人共:「えっほ、やっほ」
と道すがら、
駕籠屋・弥次郎:「股間の方は大丈夫でござんすか?」
主人が余りに静かだから、振り落としたのではと心配になった駕籠屋二人。
客の老主人:「馬鹿、折角の気分を台無しにしないでください」
と、まあ良い御返事を頂きまして、ああ、これなら安心と、二人共に胸を撫で下ろす心地でございました。
客の老主人:「それにしても良い塩梅です」
行く人行く人、それより頭一つ抜けているものだから、余程の大男が横切らない限り、視界を塞がれる事はございません。拓けるような実に良い景色が目の前には広がっておりました。
駕籠屋・田吾作:「どうです?お客さん」
と、駕籠屋が自慢気に尋ねると、
客の老主人:「小高いから人が邪魔せず絶景ですよ」
と、ゆらり揺られて主人は大層御満悦の御様子。こいつはしめたといい気になって、
駕籠屋・田吾作:「そいつはようござんした。でも、外から見たら変じゃございませんかね?」
と、チクリと一刺し真面目な一言。
確かに駕籠は中に乗るもの。上に乗っかっているのは、余り見た事がございません。
客の老主人:「良いのですよ、これで。人と同じ事をやっていたら駄目なのです」
成程納得、といけば良いのですが、私は基本が大事だと、こう、思っている訳ですから、どうにもね、成金が調子に乗っている様にしか思えない。
駕籠屋・田吾作:「そういうものでございますかねえ」
客の老主人:「そんな事だから、御前さんは出世出来ないのです」
涼しい顔の御主人が、汗だくの駕籠屋にキツい一言。
ああ、そうか。だから私は小者のままなのだ、と妙に納得。まあ、噺の流れに私の事情は関係ございませんけれども。
「父ちゃん御覧よ。御駕籠の上に人が乗っているよ」
子供が指差す方向には、見るも珍し駕籠神輿。すると、親父は手を横に振って、
「ああ、ありゃまともじゃねえ。『馬鹿と煙は高い所を好む』って言うだろう?大体、あれじゃ下の駕籠の意味が全く無いじゃないか」
と、行く先々で人という人に蔑まれる始末。
駕籠は要らずに棒だけで済むというから、これぞ本当の『木偶のぼう』。