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客の老主人:「高い所、高い所が良いのですよ!」
天高く指を突き上げ金切り声、
駕籠屋・弥次郎:「高い所かあ。駕籠で一番高い所は天井でやんすね」
と、怒る御老体に何とも呑気な弥次郎どん。
客の老主人:「馬鹿、どうやって天井に上がるのですか?」
駕籠屋・田吾作:「そうさね、屋根なんてどうでしょう?」
と、三人寄れば文殊の知恵。田吾作どんの提案に、
客の老主人:「それですよ。やれば出来るじゃないですか」
と、主人も何だか嬉しそう。
早速、三人は駕籠の屋根への座り方について思考を巡らす事にいたしました。
駕籠屋・弥次郎:「こう、馬に跨がる感じはどうでしょう?」
跨がる格好を真似ながら、その様はやや滑稽ではあるものの、物は試しと御主人が
客の老主人:「そうですか。では、試しに」
と、ひょいと御駕籠に跨がれば、
客の老主人:「やや、これは中々」
御老体、満更でもない御様子。これとばかりに担ぎ上げ、
駕籠屋・二人共:「えっほ、やっほ」
と歩き始めるも、
客の老主人:「待った、ちょっと待った!」
と、悲鳴にも似た制止の声が轟いたのでございます。
駕籠屋・弥次郎:「どうしたんですか?」
と不思議そうに、駕籠屋が主人を見やりますと、何やら股間を押さえて苦悶の表情。
客の老主人:「どうしたもこうしたもございませんよ。縦揺れで股間が割れそうです」
と、とても続けられる状態ではございませんでした。
駕籠屋・弥次郎:「すいません。でも、馬でも揺れますでしょう?」
と、保身紛れに火に油を注いだ所には、
客の老主人:「馬じゃないでしょ、駕籠は!大体、屋根は尖っているのですから、まるで拷問ですよ!」
と、まあ、お決まりの怒鳴り声が響く訳でございまして、こうして三角木馬の原点が、とくれば締まりも良いというものでございますが、残念ながらそういう訳でもございませんでした。