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いやはや、客商売というのは辛くて厳しいものですね。「お客様は神様です」とはよく言ったものですが、こういった下働きが言えば様になるのですけれども、ふんぞり返った店の主なんかが申しますと、こう、小者といたしましては苛りと来たりするものでして、駕籠屋さんも例外ではなく、全くもってやる気を無くしてしまいました。
首を捻りながら黙り込んでいる駕籠屋二人を何とかしようと、主人は躍起になりまして、あれやこれやと提案するも、中々良い案が浮かびません。
駕籠屋・田吾作:「私、思うのですが、駕籠は運べど駕籠に乗った事がございません」
と、急に駕籠屋の田吾作どん。
客の老主人:「何ですか?いきなり」
唐突な言葉と真剣な顔に、思わず驚く御老体。
駕籠屋・田吾作:「乗った事が無いから思い付かないのではと思う訳でして」
しかし成程、こいつは一理ある。という事は、主人も思う所でして、
客の老主人:「仕方がありませんね。一度だけですよ」
と、駕籠屋二人は快い御返事を頂く事が出来た次第でございます。
しかしながらに老主人、実は本当にやりたくはございません。それはそうでございますよ。年が年ですし、何せ客なのでございますから。
でも、背に腹は変えられないとばかりに、溜息混じりにエイヤと力を込めますと、御駕籠は何とか持ち上がりました。
駕籠屋・田吾作:「ほう、こりゃあ気分が良い。ちょいと歩いてみては貰えませんかね?」
と、調子が良くなった田吾作どん、
客の老主人:「ちょっと待ってください!」
流石に主人に叱られました。それもそうでございましょうよ。御老体に払わせるだけ払わせて、自分は楽をしようという腹なのでございますから。
駕籠屋・田吾作:「何ですか?」
客の老主人:「何で私が金まで払って、貴方を担いで運ばなければならないのですか!まるで苦行ですよ!」
と、これがSM倶楽部の先駆けとなり、となれば締まりも良いというものではございましたが、残念ながらそうではございませんでした。