第18話 総攻撃と醜態②
この騒動を耳にしたのか、レオン・アヴァルトとカトリーナ・ヴェステアも慌ただしくアルディアス家へやって来た。門の外にはまだ多くの被害者が詰めかけているが、二人は「あれ、すごいことになってる」と目を丸くする。そして、ちょうどガイルとエレノアが弱々しく門を閉じようとするところへ飛び出した。
「なんだこりゃ……お前ら、一体どういう詐欺をやらかしたんだ!?」
レオンは開口一番、まるで被害者面で叫ぶ。その姿を見たエレノアは震えた声を上げる。
「はあ? あなたも出資者として関わってるじゃないの。なんでそんな言い方――」
「うるさい! おかげで俺たちまで大損してるんだぞ! お前らのせいで借金が返せなくなったらどうするんだ!」
レオンが勝手に激昂すると、カトリーナも続いて「そうよ! 私たちを巻き込んだのはそっちじゃない!」と泣き叫ぶ。自分たちも詐欺の片棒を担いでいたはずなのに、今は完全に「被害者」のトーンだ。
「ちょっと、カトリーナ! あなたたちは金目当てで近づいてきたくせに、詐欺も何も私たちを利用してたのは一緒でしょうが!」
「誰が金目当てですって? こっちは真剣に借金を返す方法を探してただけよ! それを『投資すれば大儲けだ』とか言って煽ったのはあなたたちじゃない!」
「そうだそうだ!」
レオンがあっさり同調し、ガイルを指さして罵声を飛ばす。
「おかげで損が膨らんだじゃないか。俺にとっては『アルディアス家の計画が成功すれば借金なんて一気に解消』ってふれこみだったんだぞ!」
「だから! それはあんたたちが勝手に期待しただけじゃないの!?」
エレノアは青筋を立てながら反論するが、レオンもカトリーナも「勝手に期待した?」と怒りを増して眼を剝く。
「言ったわよね、エレノア。『成功は確実だから金を出せばいい』って! 私がその言葉を信じたのが悪いっていうの?」
「そうよ。エレノア、あんた『もうすぐ莫大な配当が出る』とか散々豪語してたろうが。責任取れ!」
「責任って……あなたたちも加担してたじゃない! エレノアやガイルにいい顔して『自分たちも出資するから特別待遇しろ』みたいに要求してきたくせに、どうして今になって他人事みたいに言うのよ!」
エレノアとレオン、カトリーナが入り乱れ、互いを罵り合う泥仕合が始まる。おまけにガイルまでも「お前たちだって『ここで儲けたい』と騒いでただろうが!」と声を荒らげ、全方位の責任押し付け合い状態に。
もはや「誰が悪い」という話でもない。全員が打算で金を求め、詐欺行為にも手を染めたか、あるいは加担していた。にもかかわらず、いざ失敗が目に見えると全員が自分を被害者だと喚き立てる。
「ひどいわ! 私たちはあなたたちを信じてただけなのに!」
「信じてくれってそっちが言ったんだろ! 勝手に裏切ってんじゃねえよ!」
「あなたこそ裏切り者よ! いまさら被害者面とか笑わせる!」
応酬はエスカレートして収拾がつかない。周囲に集まった被害者たちも「俺も俺も!」と叫び、「自分だけが一番被害に遭っている」と声を競い合うかのようにカオスが広がる。
この醜悪な光景は、詐欺計画が露見すれば当然の結末と言えるかもしれない。レオンとカトリーナも、エレノアやガイルも、全員が底なしのクズっぷりをさらしながら責任を押し付け合うという救いようのない場面。
歪んだ叫びが屋敷を揺らし、暴動寸前の大混乱。こんな有様では、「計画を最後まで押し通す」など夢のまた夢。状況はすでに誰にもコントロールできないほど荒れ狂っていた。




