第17話 暴かれ始める詐欺の証拠①
レオン・アヴァルトとカトリーナ・ヴェステアは、カトリーナ家の応接室で向かい合っていた。頬杖をつきながらテーブルに揃えた書類を眺めるレオンと、その横で貴金属を指で弾いてカリカリと音を立てているカトリーナ。どちらも落ち着かないようすで、空気にはピリピリとした焦燥感が漂っている。
「ねえ、レオン様。正直に言うと、私、だいぶ不安になってきたの。アルディアス家の書類が偽造かもしれないとか、社交界にいろいろ噂が出回ってるでしょう?」
カトリーナが重苦しい声で切り出すと、レオンはチッと舌打ちして視線を彼女に向けた。
「まあ、聞く限りじゃ少し怪しいところもあるみたいだな。だけど、ここで『怪しい』って理由で出資を引き上げたら、俺たちの借金はどうにもならないぞ。お前だってそうだろ?」
「……それはそうだけど、このまま突っ込んで実は詐欺でしたーってなったら、私たち完全にアウトじゃない。全財産失うわよ?」
「ふん、だからって今さらやめられるか。せっかくここまで支払った仲介料も無駄だし、一応エレノアもガイルも『問題ない』って言い張ってる。下手に疑って抜けるより、一発逆転に賭けた方がよっぽどいいさ」
レオンの声には強気の響きが戻っているが、その表情はやや引きつっているのがわかる。カトリーナはその表情を鋭く観察しながら、言いづらそうに唇を尖らせた。
「でも、やっぱり怖いわ。周りの投資家が『もう引いた方がいい』なんて言うのもチラホラ耳にするし、私たちだけがバカを見るのはいやよ」
「なら、どうするんだよ。お前は今さら金を引き上げるのか? それで、借金は何とかなるのか?」
「……ならないわよ。ギリギリのところまで来てるし、アルディアス家が成功しない限り私たちは破滅一直線。わかってるわよ、そんなこと」
やりとりが少し膠着状態に陥る。二人の声はやや大きくなり、部屋の外にいる使用人が「また喧嘩かしら」と不安そうにしているのが透けて見える。が、そんなことを気にかける余裕はない。
「カトリーナ、俺はまだ希望を捨てちゃいない。確かに噂は怪しいが、もし本当に詐欺だったらこんなに長々とやってられるか? どこかでバレて終わりだろう。だけど、まだ続いてる。つまり、まだいけるんだよ」
「……レオン様にしては珍しく説得力があるわね。……いや、正直、そう思いたいだけのように聞こえるわ」
「俺だってそうかもしれない。だけど、ここで降りたら全部パーだ。お前も同じだろ? なら、一気に利益を確保して逃げるのがベストじゃないか?」
レオンの言葉にカトリーナは沈黙する。けれど、しばらくして小さく息を吐いてから、腰に手を当てて大きくうなずいた。
「……わかったわ。確かに、今引いても失うものが大きいだけ。なら『まだ間に合ううちにがっつり儲けて、後はトンズラ』ってことね」
「そう。もし本当に成功すれば借金返済どころか、私たちは一気に金持ちになれるかもしれない。こんな夢みたいな話、滅多にない」
「夢みたいだから怪しいのよ……。でも、そうね、今はそれに賭けるしかない。ギャンブルするしかないわね」
二人は短く視線を交わし合い、互いに苦笑する。どちらも得たいのは金だけ、だが進む道は「もう少し粘る」という危険な選択。カトリーナは最後に確認するように尋ねる。
「そうなると、いよいよタイミングよね。いつ引き上げるかって判断が必要かもしれない。もし“これ以上ダメだ”って思ったらどうするの?」
「そんときは一気に売り抜けるか、契約を破棄して連絡を絶つか……まあ、いろいろ方法はあるさ。とにかく今はまだ俺たちが逃げ出す段階じゃない」
「いいわ。私も覚悟を決める。いつ逃げるかのタイミングは絶対ミスらないようにしましょう」
カトリーナはそう言いながらも、内心では「もしそれを判断できるのが先にレオン様か私か…」と疑問を抱いていた。けれど今は、そのモヤモヤを口にすることはしない。
こうしてレオンとカトリーナは「まだいける」「一発逆転で莫大な利益を狙う」という甘い夢を追い続けることに合意する。借金返済を夢見る彼らは、タイミングを完全に見失うことで、さらに破滅に近づいているとも知らずに。
一度賭けに出た者が撤退しないまま深みへと進む姿。二人の欲望は、ますます取り返しのつかない炎へと変わっていくのであった。




