第12話 レオンとカトリーナの参入③
その日の夕方、カトリーナ・ヴェステアの邸宅を訪れたレオンは、彼女と応接間で二人きりで打ち合わせを始めた。元々、二人は結婚を前提に動いているらしいが、愛の言葉など一度も交わしていないに等しい。今の彼らにとって話題の中心は“アルディアス家の投資”でしかなかった。
「レオン様、私も考えました。アルディアス家の投資で儲けて、家の借金を一気に返すわ。やっぱりこれしかないと思うの」
「そりゃそうさ。今どき簡単に金が稼げる話なんて滅多にないし、もし本当に大成功すれば大もうけだ。俺も積極的に乗ってみる気になったよ」
「そうなの? それじゃ、やっぱり一度アルディアス家に正式に打診してみましょうよ。フローレンスを通して仲介してもらうだけじゃ、せっかくの優遇枠も弱いかもしれないじゃない」
カトリーナが身を乗り出すと、レオンも「確かにそうかもな」とうなずく。仮にフローレンス任せで進めてもいいが、直接エレノアやガイルに会えば、もっと好条件を引き出せるかもしれない。二人は打算を共有し合いながらすぐに結論を出す。
「よし、エレノアとガイルに会いに行こう。きっと奴らも大口投資の客なら歓迎してくれるはずだ。面倒だけど、あの家を利用するなら仕方ないさ」
「そうよね。私も『高額出資者』として扱ってほしいわ。そうすればリターンも大きくなる。あの家がきっと丁重にもてなしてくれるはず」
レオンとカトリーナは、その場で「次の大きな社交パーティ」がいつ開催されるかを確かめ合う。最近はアルディアス家やフローレンスが関わる集まりが多いため、そこに参加すれば自然とエレノアたちと接触できるだろう。
「じゃあ、今度の晩餐会は明日だったよな? フローレンスがまた企画してるらしい。それに行けばエレノアもいるだろう」
「ええ、私も招待状を受け取ったわ。どうせ顔だけ出すつもりだったけど、せっかくだから積極的に売り込もうかしら」
「そうと決まれば、あとは当日を待つだけだな。……うん、これで金が入れば俺たちは安泰だろう。いや、俺はな。お前も、家の借金問題があるんだったな?」
「そ、それは……まあ、そうよ。でも大丈夫。私だけじゃなくて、レオン様の借金……じゃなかった、レオン様の金銭問題も解決できるわ」
カトリーナは焦って言い直しながら、レオンに媚びる笑顔を送る。レオンも「まあ、俺はただ金が欲しいだけだからな」と言い放つ。二人の関係は依存というか、お互い借金を抱えているのを隠しながら「他人の金」で救われようとしているだけで、愛情というものがかけらも存在しない。
(でもいいのよ。どうせ結婚なんて形だけでいいんだから。大切なのは金、金よ)
(カトリーナが借金を抱えてるかどうか知らんが、どうでもいいさ。俺も実は厳しい状況だし、アルディアス家からかすめ取れれば文句ない)
こうして二人は「次のパーティでエレノアたちに接触し、好条件を引き出す」ことで合意した。まったく愛もロマンもない、ただ金の算段しか頭にない様子であるが、それを互いに指摘し合うこともなく「これでいける」とばかりに手を握り合う。
「じゃあ、明日はよろしくね、レオン様。私、綺麗なドレスを用意して臨むわ。アルディアス家に『高額投資者』として認めさせるの」
「おう、任せとけ。俺もハッタリかまして、でかい顔をしてやるさ。エレノアがどう反応するか見ものだな」
カトリーナは玄関先までレオンを見送りながら、その背中が消えると独りニヤリと笑った。やがて顔を上げ、「明日が勝負ね……」と小声でつぶやく。破滅寸前の家を救う最後の手段、それが「アルディアス家の投資話」だと信じているのだ。
(私も崖っぷちだけど、レオン様やアルディアス家が私を助けてくれる。絶対に成功して、私だけは幸せになるわ。ふふ、悪いけど利用させてもらうわよ)
こうしてレオンとカトリーナは「借金返済と金儲けのため」だけにアルディアス家と直接コンタクトを取る決意を固める。翌日のパーティでは、エレノアとの再会という運命的(?)な場面がほぼ確定だ。
まさに「強欲」を身上とする者たちが次々と集結し、借金まみれのアルディアス家と騙し合いをする。果たして、この「偽りのカップル」が加わることで、詐欺計画がどう転ぶのか――次のパーティは、破滅へと加速する新たな火種になることは間違いない。




