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第4話 友人フローレンスの策略②

 その翌日。アルディアス家の玄関先に、フローレンスが訪ねてきたという報せが入り、エレノアは少し驚きつつも出迎える準備をする。家の中は以前にも増して経費削減が進められており、使用人の姿もまばらだ。侍女のステラが「お客様ですわ」と案内してくれなければ、フローレンスが来ていることに気づかないほど静かな屋敷だ。


「フローレンスがわざわざ来るなんて珍しいじゃない。何の用かしら」

「さあ、お嬢様。でも、何やら手土産も持参されていたようですし、親しいご友人として慰問に来られたのかもしれませんね」

「……まさか、私が落ち込んでるとでも思ってるの?」


 エレノアは憤慨しつつも、「ま、来たからには相手をしてやるわ」と気持ちを切り替える。彼女のプライドは高いが、婚約破棄による借金問題をどうにかしたい思いも少なからずある。そんな内心を悟られまいと、堂々とした態度を取りながら応接間へ向かった。


「エレノア、突然お邪魔しちゃってごめんなさい。でもあなたにどうしても会いたくて」

「別にいいわ。暇だから相手してあげる」


 応接間に入るなり、フローレンスはにこやかに微笑んでエレノアの手を取る。傍で控えるステラも、作り物のような微笑みを浮かべて見守っている。二人はソファに並んで腰を下ろし、早速おしゃべりを始めた。


「それで、今日は何の用? 婚約破棄の件ならもう聞き飽きたわよ」

「もちろん、そのことも少しは気になってる。だけど、あなたの将来について、もっといいチャンスがあるかもって思ったの」

「……いいチャンス?」


 フローレンスは「実はね」と言って身を乗り出す。エレノアもなんとなく引き寄せられるように聞き耳を立てるが、そのプライドから「まあ、話くらいは聞いてあげるわよ」という態度は崩さない。


「大きな投資案件があって、成功すればかなりの利益が見込めるの。それに参画できるのは、ごく一部の限られた人だけらしいんだけど……もしあなたが興味を示してくれるなら、私も推薦できるかもしれないと思って」

「投資案件? 何それ。私にはピンと来ないけど」


 エレノアは眉をひそめるが、心の底では少し揺れている。借金問題を解決する手段になり得るかもしれない――そんな期待が、プライドの壁を少しだけ溶かしたのだ。


「簡単に言えば、ある新規事業にお金を出すことで、将来的に大きなリターンを得られるって話ね。詳しい内容はまだ確定ではないんだけど、本当にうまくいったら莫大な……」

「莫大な、何?」

「利益、よ。そしたらあなたもお金の不安から解放されるんじゃない?」


 フローレンスのささやきに、エレノアは思わず喉を鳴らしかける。すぐ横ではステラが隠れるように耳を澄ましており、「これで家の借金が片付くなら」と興味津々の気配だ。もっとも、ステラは“自分も一枚噛めるなら”という打算で動いているのだが。


「でも、本当にそんな旨い話があるのかしら? 投資って聞くと、なんだか怪しいわ」

「ふふ、大丈夫。私が保証するわけじゃないけど、それなりに信頼筋からの情報だし。興味があるなら、詳しい話を改めて持ってくるわよ」

「……そう」


 エレノアはソファの背にもたれ、うっすらと笑う。それは「ま、気が向いたら聞いてあげてもいいわ」という、いかにも彼女らしい態度。だが、その瞳には打算と期待がちらついていた。やはり家の財政難をどうにかしたい思いは捨てきれないのだ。


「私としては、エレノアがこのまま沈んでいくのを見るのは嫌なの。あなたにはもっと輝いてほしいから」

「なによそれ。恩着せがましいわね」

「恩着せがましくなんてないわ。ただ、あなたの借金が片付いて社交界で堂々としていられたら、私も嬉しいじゃない」


 フローレンスはあくまでも「友人」然として言葉を紡ぐ。その言葉をすんなりと信じ込むほどエレノアも愚かではないが、今は彼女が唯一「手を差し伸べてくれる」存在に見えるのも確かだ。プライドが邪魔して素直にはなれないものの、彼女の胸にあるのは「なら、その話をもう少し詳しく聞いてみようかしら」という思いである。


「……わかった。もし興味が出てきたら、こっちから連絡するわ」

「ええ、喜んでお待ちしてるわ。あなたも、あまり悲観しないで。少なくとも私は味方だから」


 フローレンスが手を取って笑う。エレノアは「誰が悲観なんてしてるのよ」と吐き捨てながらも、そのままフローレンスを見送る流れになった。

 一方、部屋の片隅でそのやり取りを観察していたステラは、ほんのり笑みを浮かべている。


(ふふ、投資話ねえ……。これは面白い展開になりそう。私も上手く立ち回って、おこぼれをいただけるかしら)


 こうして、フローレンスは曖昧な「儲け話」の種をエレノアの耳に植え付けた。これが後にさらに大きな野望へと発展していくとは、彼女たち自身もまだ気づいていない。

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