初めての依頼
城下町から帰り、俺とリリスは買ったものの整理を、副団長は料理をしに行った。
「お兄ちゃん、全然買ってなかったけどよかったの?服と剣と防具だけ……」
「この剣は副団長に無理矢理押し付けられたんだけどな。というかリリスもそんなに買ってるわけじゃないだろ」
「お兄ちゃんと比べたら買ってるよ。新しい魔導書とか、ちょっとした小物とか」
それでも少ない方だと思うが……
「リアム、リリス、ご飯の時間だぞ」
急にノックが聞こえたと思ったら、団長が入ってきてそう言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「団長いつ帰ってたんだ?」
「ご飯の前にだ」
飯の後、副団長とリリスは食器を洗い、俺と団長は食器を片付けていた。
「さて。貴様ら、話がある」
片付けを終えてから団長が取り出したのは、一枚の地図だった。そこにはアンジュ王国の全体図が載っている。
「今度の依頼についてだ。リアムとリリスにとっては、初めて団でこなす依頼だな」
「内容は?」
そう聞いた瞬間、団長と副団長から何か深刻そうな雰囲気が漂ってくる。
え、なんだよ急に。
「……今回の依頼は、魔物の討伐だ」
「魔物の討伐?」
団長が口を開いたが、魔物の討伐なら今までもやっている。そりゃ魔物のランクは高くなるだろうが、そんなすごい依頼には聞こえない。
「あの、魔物の討伐って1番よくある依頼だと思うんですけど、どうしてそんなに暗い顔を……?」
リリスも俺と同じことを思ったのか、2人に向かって質問する。そして、今回は副団長が口を開いた。
「それがね……この時期にはある場所に魔物が大量に発生するんだけど……」
「「ある場所?」」
「城郭都市プロテットだ」
城郭都市プロテット。その名前には聞き覚えがあった。確か昔に行ったことがある。魔界に1番近い場所にある都市で、魔物や魔族の攻撃に対応するための都市だ。警備も厳重だった。
「魔界に近いことは知ってる。魔界に近いから魔物も強いのが多いことも」
「強い魔物がいっぱいいるから暗い顔してるんですか?」
「それもそうなんだけどねぇ……これは最近判明したことなんだけどさ」
一呼吸置いて副団長は言った。
ーー"来る"んだよ。魔物が。
来る。確かに副団長はそう言った。けど……
「「どゆこと?」」
俺とリリスは顔を見合わせて首を傾げる。副団長はずっこける。それをよそに団長の解説が始まった。
「レレの言う通り、そのままの意味だ。魔界からワープホール、というものを使って、やってくる。魔物も……魔族も、な」
「魔族!?」
ーー魔族。戦争の時以外滅多に姿を見せない、普段は魔界で暮らしている存在だ。
魔物よりも少し賢いが、それでも人間に比べて知能は低い。そのかわり、戦い……特に魔法については魔族の方が圧倒的に強い。
魔王によって統率がなされているとされていて、魔族との戦争は何年も続いている。
……そして、リリスの家族を殺した存在だ。
「ワープホールは人間界と魔界を繋ぐことが可能だ。4年に一度、プロテットのあたりで魔物が大量発生していた原因はワープホールの可能性が高い」
大事件じゃねぇか。
魔物は元々人間界に住んでいて、魔物と人間は争ってきた。そして、今いる魔物は昔からの生き残りだと、そう世間は認識しているのだ。
「わーぷほーる?に気づいたのは最近なんだろ?もっと早く気づくことはできなかったのか?」
「ワープホールは魔力の塊だし、そりゃ魔力探知に異変はあるよ〜。けど、魔物がいっぱいいるからね〜、大量の魔力は魔物のものだと思われてたんだよ」
「それに、ワープホールは魔法によって肉眼では見えにくくされている。今のところ観測されているのはプロテットだけだが、そのうち他の場所にもワープホールができるかもしれぬ」
まじで大事件じゃねぇか。もしワープホールが王都にでも発生したら……どれだけの被害が出るのだろう。
「ワープホールは、魔族の魔法の全てを注ぎ込んだ魔法努力の結晶だ。推測ではな。魔法によって肉眼で見えにくいし、壊しにくい。だが膨大な魔力が必要だから4年に一度しか発生しない」
「その4年に一度発生する場所が城郭都市プロテットってわけか」
魔物や魔族が大量に、か。量にもよるが、こりゃ軽い戦争だな。
「そして、ここからが本題だ」
「まだ何かあるのか?」
「僕たちも前回が初参加だったんだけどね。実は……ドラゴンが来たんだ」
「「ドラゴン!?」」
ドラゴンとは生きる厄災とまで言われる魔物で、全魔物の中でもトップクラスの実力を持っている。
ドラゴンは炎、水、土、風、闇の5種類が存在し、どれも規格外の強さらしい。
ドラゴンにまつわる話だと、人間界で暴れたドラゴンが山一つを軽く消し飛ばし、湖一つを蒸発させた、という話が有名だ。
そんなドラゴンのランクは当然S。
「いや無理ですよこれは!」
「同意見だ」
ドラゴンと遭遇だなんて、マジで命がいくつあっても足りない。勘弁してほしい。
「落ち着いて〜2人とも!ドラゴンも毎回現れるわけじゃないよ!前回現れたのが初の事例だったし」
「今回現れない保証もないじゃねぇか」
「そ、それはそうだけど〜……」
副団長はモゴモゴ言っている。
「この依頼断ることはできないのか?危険すぎると思うんだが」
「ダメだ。これは上位のランクにいるほとんどの団が強制参加させられるんだ。それに、吾輩たちは去年も参加しているが故、情報も持っているし断ることは無理だ」
強制全員参加、か。さっそく厳しい試練が襲ってきた。大量の魔物を捌きながら、ワンチャンくるドラゴンに備える依頼……マジで頭おかしい難易度だ。
「とはいえ、お前ら兄妹はまだこの依頼を受けられるレベルに到達していない。よって……」
ーー特訓が必要だ。