パーティと新たな魔法と城下町
「それじゃ、リアムくんとリリスちゃんの団加入を祝して……かんぱ〜い!」
「「「乾杯」」」
「この肉うまいな」
「でしょー?我ながら上手くできたと思うんだよね〜」
料理は副団長が作った。リリスが目を輝かせながら食べてるし、うまいんだろう。
「リリスちゃん、リアムくん、どう?美味しい〜?」
「すごくおいしいです!」
「まぁ、そこら辺に落ちてる生ゴミよりは美味いんじゃないか」
「リアムくん、辛辣……」
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「それじゃあ……おやすみなさい……」
眠そうにあくびをしながら階段を登っていくリリス。
窓の外はもう真っ暗なため、眠くなるのも無理はない。
「リアムくんはまだ寝ないの〜?子供はもう寝る時間だよ〜」
「早く寝なきゃ大きくなれんぞ、リアム」
「ガキ扱いすんじゃねぇ」
まだ成人していないのは事実だが、もうそんな幼い年齢でもない。
俺は2人からの扱いに腹を立てつつ、自分の部屋に行こうと席を立った。
「部屋に行く前に……言いたいことがある。盗賊共に襲われた時、リリスが怖がっていたのを察して明るく振る舞ってくれたろ。助かった」
そう言って階段を登る。なんとなく、顔を見ながらは話したくなかった。
「……そうだったのか?レレ」
「さて、どうだろ〜ねぇ。それより、明日はどうしようかなぁ。団長は明日予定ある?」
「ギルドに報告に行く」
「じゃあ僕は2人を連れて街にでも行こうかな〜。服とか家具とか、2人に買いたい物、いっぱいあるしね〜」
「だが、王都は……悪魔の子には厳しい場だ。大丈夫か?」
「そこは安心して〜。あの魔法を使うから。……ほんとはありのままの姿で歩けることが1番なんだけどねぇ」
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ーーチュンチュン
……朝か。
カーテンの隙間から差し込む暖かな日差しと、チュンチュン鳥の鳴き声に起こされる。
山の中の小屋で生活していた時も毎朝聴いていた声だ。ここにもいるんだな。
ぼーっとしていると、扉の方から声が聞こえた。
「お兄ちゃん、起きてる?」
リリスの声だった。
「ああ」
「おはよー。今日副団長さんが、街案内してくれるんだって!だから早く準備してきてね!待ってるから!」
扉越しに聞こえる声はとても楽しげで、去って行く足音も弾んでいた。
別に買いたい物もないんだが……とりあえず、さっさと支度するか。
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「リアムくん、おはよ〜。朝ご飯できてるよ〜。」
まるで新婚夫婦のような言葉だ。まぁ、副団長は団長とリリスの分も作ってるけどな。
昨日の料理に引き続き、美味しそうな料理がテーブルに並んでいる。
「それじゃ食べよ〜」
食事開始の合図がかかり、俺とリリスは手を合わせていつもの挨拶をする。
「「いただきます」」
「……昨日から気になってたんだけどさ〜、その、"いただきます"って何?」
「吾輩も気になっていた」
この挨拶、一般的な物ではないのか?
ずっとそう育てられてきたため、当たり前のことだと思っていた。
俺がキョトンとしていると、リリスが代わりに質問に答えてくれた。
「えっと、私もお兄ちゃんと出会ってから知った挨拶なんですが……食材やその食材を作ってくださった人に、感謝を込める挨拶です。食前のお祈りと同じような感じです」
そういえば、リリスも"いただきます"の意味を聞いてきたことがあったな。何年も前のことで忘れてた。
「へ〜!初耳だぁ。いいね〜、それ。僕もやろ〜。いただきまーす!」
「ふむ。じゃあ吾輩も。いただきます」
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「では吾輩はギルドに行ってくる」
「ああ」
食べ終わってしばらくした後、団長はギルドに洞窟での一件を報告しに行った。
「よーし、それじゃ僕たちは城下町に行こう!……とその前に……」
なんか不穏な空気が漂ってきている。どうかしたのだろうか。
「この城下町ではね、たまに貴族とかも買い物に来るんだけどさ、その貴族がまーた嫌すぎるやつで……」
「なるほど、またいつもの悪魔虐めか」
「そう。それも最悪、しけいなんだよね、あはは……」
しけい?しけいって……
リリスを見ると、青ざめた顔をしながら震えている。
「そう。ご想像の通り、貴族の視界に悪魔の子が入ってしまうと……お目汚し罪で最悪死刑だっ!」
「副団長さん!城下町行くのやめましょう!」
「副団長さんは呼ばれなれないからレレって呼んで〜」
あんなに楽しみにしていたリリスが、行きたがらなくなってしまった。
地方より王都は悪魔への対応が厳しい、ということは聞いたことがあったが……まさか死刑だとは思わなかった。
「まあまあ、そんな怖がらないで〜!」
「いやそりゃ怖いだろ」
「でも大丈夫!ななな、なんとリリスちゃんの髪の色が〜?」
そう言い、副団長はリリスの髪に魔力を込めた。すると……
「っ!?私の髪が……!」
「茶色になったな」
「そう!こちら、色を変える魔法!その名の通り、あらゆる物の色を変えることができるんだ〜!」
こんな魔法、初めて見たな。でも、心配すべきは……
「これ、バレたりしないのか?バレたりしたらそれこそ即死刑だろ」
見たことない魔法に目を輝かせていたリリスがまた青ざめてしまった。
「安心して〜、絶対バレることはないよ!この魔法、公表してないんだよねぇ」
「"公表してない"……ってことはまさか……」
「この魔法、僕が作ったんだ〜」
「……ええぇぇぇぇ!!!???」
リリスがとんでもなく大きな声で叫んだが、無理もない。俺も人生の中で1番驚いたと胸を張って言えるだろう。
"魔法を作る"と言うのは、人生の全てを魔法に注ぎ、生涯を終える直前にできるかどうか、という
ものだ。しかも、圧倒的にできない事の方が多い。
それを、この若さでやってのけてしまったのだ。うちの副団長は。
「公表をしてないから、それ専用の検査とかもないし、僕魔法には少し自信があるんだ〜。だから安心して〜」
「少しじゃなくてもっともっと自信持てよ」
あはは、と笑いながら、俺にも魔法をかける副団長。俺の目は黒色になった。
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アンジュ王国王都の城下町。質も値段も高い商品ばかりが並んでいる、俺には縁もゆかりもない場所だと思っていたが……
俺は今、王都の冒険者専門服屋に来ている。
「リアムくんほら見てリリスちゃん!やっぱり僕の選択は間違ってなかったねぇ〜」
うんうん、と自信ありげに頷く副団長。
副団長と同じような白くて袖がフリフリしている服に、白いラインが入っている青いスカート。それに青いローブ。ローブにはまたフリフリがついていて、細々と星のデザインがなされている。
「ローブは魔法耐性も物理耐性もあるし、やっぱ王都にはいいもん揃ってんだな」
「お兄ちゃんもシンプルで似合ってるよ!」
俺は赤い長袖の無地の服に、黄銅色のズボン。あとは防具を少々買った。
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「さて、今のは団の予算から支払ったわけだけど……」
王都の広場のベンチに座っていた副団長は急に立ち上がり、後ろに持っていた二つの袋を俺とリリス、それぞれに渡した。
「これは僕から!受け取ってくれると嬉しいな〜」
これは、マントか。副団長の物と色や長さは違うが、どこか似ている気がする。
リリスは副団長の帽子と色違いの物を貰っていた。
「2人とも、僕と色違いのお揃いだよ〜。やったね!」
リリスもパァっと嬉しそうな笑顔をして、イェーイとハイタッチをした。
それからは家具を見に行ったり、街のレストランで飯を食べたりした。
街中を歩いても、見られることがない。注目されない。
世間の目を気にせず、1日を過ごす。生まれて初めての経験だった。