過去の記憶
「……パーティ?」
「そうパーティ!」
そんなやらなきゃいけないことじゃなくないか?と疑問に思ったが、胸にしまっておくことにした。
「ふっ、ふふふっ……」
笑い声が聞こえて、副団長と共に笑い声の聞こえた方を見るとリリスが笑っていた。
「リリス急にどうした?そんなおかしいか?パーティ」
「パーティはおかしくないよっ!!」
「昔家族もよく、事あるごとにパーティをしていて……それを思い出したんです」
俺も初耳だ。まず、リリスの家族の話をあまり聞いたことがないことに、今更気がついた。
「そっかぁ。仲良いんだね〜」
「はい。仲が良い家族でした」
「……でしたかぁ。何かあったの?」
リリスの家族のことはあまり知らないが出会う前に何があったのかは知っている。
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これは、私がお兄ちゃんと出会う前の記憶のお話。
「「「リリス、お誕生日おめでとう!!!」」」
「ありがとう!お母さん!お父さん!お兄ちゃん!」
パーティ、と聞いて思い出すのは、家族とした私の誕生日パーティ。まさか、これが家族でやる最後のパーティだとは、この時の私には知る由もない。
「このケーキ美味しいね!」
「良かったわ。お母さんと、お父さんで作ったのよ。お父さん、普段料理しないのに、今日はすごく張り切っちゃって」
お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも、私と同じ、綺麗な銀髪だった。
私たちのような銀髪の人は、"悪魔"とか"悪魔の子"と呼ばれて差別されている。だから、魔界に1番近い、大陸の端に住まいを追いやられ、同じ境遇の人たちが集まる村に住んでいた。
それでも、私は幸せだった。当時、差別されるようなことはなく、そもそも"差別"というものがわからなかった。大好きな家族に囲まれて、決して裕福というわけではないが、不自由なく暮らしていた。
「リリス、これ!」
「お兄ちゃん、これって……!」
「木材と紐で作ったんだ。リリス、髪が長くなってきたし、これで髪を纏められたらと思ってさ」
お兄ちゃんは誕生日プレゼントに、髪をまとめる紐を二つくれた。先端に木材を削って星形にした飾りがつけてある。色もついていて、それぞれ青と白だった。
お兄ちゃんはいつも私の髪と瞳を綺麗だと言ってくれるから、その色にしてくれたんだな、と嬉しくなった。
「お兄ちゃんありがとう!大切にするね〜!」
思わずお兄ちゃんに飛びつくと、驚きながらも優しく受け止めてくれた。
あの温もりは今も忘れられない。
私の5歳の誕生日パーティから数週間後、お父さんが魔族との戦争のため、戦争の前戦に行くことになった。
私は泣きじゃくってお父さんを引き留めようとしたけど、お父さんは困ったような、悲しそうな顔で行ってしまって、その後帰ってくることはなかった。
ーーそれからまた数週間後、悲劇は起こった。
魔族の軍が、私の村まで来た。
お母さんは私とお兄ちゃんを逃げるため、囮になった。
そして、お兄ちゃんは
「早く逃げろリリス!」
「お兄ちゃん!嫌!」
「早くしないとみんなやられるんだ!来い!わかってくれ!!」
魔族が私を狙った攻撃をお兄ちゃんが庇い、お兄ちゃんは足を負傷してしまった。
お兄ちゃんの後ろからは剣を持った魔族が。
私を引っ張って避難所に連れて行こうとする村の人。そして、何度言っても言うことを聞かない私を担ぎ、お兄ちゃんを置いて走り出す。
私は、ひたすら叫んでいた。今思うと、私はなんて足手纏いな奴なんだろうと、我ながら思う。
周りの建物は崩れ、火の海になっていた。
倒れるお兄ちゃんから段々と遠ざかっていくが、これから起こる出来事をはっきりと見ることができてしまった。
魔族はついにお兄ちゃんの元へと辿り着き、お兄ちゃんの胸ぐらを掴んだ後……
持っていた剣で、お兄ちゃんの心臓を突き刺した。
それが、私と家族の別れ。今も脳裏に鮮明に焼きついて、べったりと離れない記憶。
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「その後、なんやかんやあり、お兄ちゃんと出会い、今の私があります。リアムお兄ちゃんは、ほんとのお兄ちゃんじゃないんです」
「……そっか。大変だったんだね」
これが、リリスの過去。今は落ち着いてきているが、精神的な影響で昔は酷く苦しんでいた。
「実は僕も、家族を魔族に殺されたんだ。戦争でね。リリスちゃんみたいに、目の前で殺されたりはしてないけどねぇ」
「……そうなんですね」
「だから、僕がこの団にいるのは……団長について行きたいからってのもあるんだけど、魔族に復讐したいからなのかなって。魔王を倒してさ」
ーー復讐か。
「復讐……」
「リリス、なんか言ったか?」
「えっ!?いやなんでもないよ!」
ただの独り言だろうか。
ーーガチャ
「あっ、団長帰ってきた〜!おかえりなさーい!」
扉の方を見ると、大量に袋を抱えた団長が立っていた。
「その袋どうしたんだ?」
「ああ、レレがどうせパーティだのなんだのと騒いでいるんじゃないかと思ってな。食材を買ってきた」
「さっすが団長!わかってるねぇ〜!じゃ、聞いた僕が言うのもあれだけど……リリスちゃん、パーティで楽しもっ!」
リリスはニコッと笑った。