アンジュ王国王都へ
ーーゴトゴト……
「いいの〜?こんなすぐ王都に引っ越しだなんて〜」
あの病院内での話し合いから二日。俺とリリス、それから団長(鎧男)と副団長(回復魔術師)は馬車に乗ってこの国……
ーーアンジュ王国の王都に向かっていた。
「別に良い。あんな町、未練なんてあるわけない」
団長たちは、王都に行くのは準備ができてからゆっくりでいい、と言っていたが、俺たちは昨日準備を終わらせ今ここにいる。
リリスは長年過ごした小屋を見て名残惜しそうにしていたが、俺はなんの感情も湧かなかった。
そんなリリスも、今では見たことない景色に目を輝かせて楽しそうにしている。
「それにしても、リアムくん馬車操縦できるんだねぇ。意外」
「昔よく操縦してたんだ。久々だから少し不安があったがな」
「いっつも僕が操縦してたから、楽できて助かるよ〜!ありがとね〜」
「まあ入ったばっかの下っ端だしな……って、寝てる……」
なんでだよさっきまで話してただろ。
それから俺たちは王都への道を何日かかけて進んで行った。
時には川で魚を釣って食べたり、魔物と遭遇してリリスと俺で倒したり、夜に星を眺めたりしながら寝たりした。
「この調子だと、今日中に王都に着きそうだ」
「そうだね〜団長。何事もなければ良いけど……」
あ、嫌な予感が
「そこの馬車止まれぃ!!」
……的中してしまった。
「……あってしまったな、レレ」
副団長は冷や汗をかきつつ、あちゃー、と言う顔をしていた。
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「金目の物全部置いてけば、命だけは助けてやるぜぇ?」
「ついでにそこの悪魔2体もなぁ!!悪魔はストレス発散用に奴隷としてよく売れるんだよぉ!!」
ヒュッ、っと息を吸う音が、後ろから聞こえた。
邪悪さを含んだ笑いが周りから聞こえる。こいつらは巷で盗賊と呼ばれている奴らだろう。視界の外にも盗賊はいるらしい。
「どうやら馬車の周りを囲まれているみたいだね〜。僕は回復魔術師だし、リリスちゃんとリアムくんは狙われてるみたいだし……ここは団長の出番かな」
副団長は俺に近づきそう囁いた後、団長に向かって目配せをした。
「お?美人な女もいるじゃねぇか!そいつも置いてけ!!」
「ボス、なんだったらこの馬車ごと掻っ攫えば良いんじゃないっすかね!」
団長は副団長からの目配せを受けて、はぁ、っとため息をついたような雰囲気を醸し出した後、立ち上がり盗賊団の前に現れた。
「あっ?馬車を譲る気になったか……っひぃ!?」
団長の威圧的なオーラを醸し出す体格に、盗賊団は怖気付いたようだった。
「こ、こんな雰囲気だけのやつに怖気付くんじゃねぇ!!数の暴力を思い知らせてやれ!」
雄叫びをあげながら一斉に飛び掛かる盗賊団。ざっと10人はいるだろうか。
だが、心配するまでもないほど力の差は圧倒的だった。団長は一瞬で飛びかかってきた盗賊たちを薙ぎ倒し、無力化した。
その様子に、盗賊団のボスだと思われるやつは腰を抜かし震えている。
そこに団長は近づき、威圧するように言った。
「あとは、お前をボコすだけだ」
盗賊団ボスの反応がない、と思ったら泡を吹いたまま気絶していた。
「どうだレレ!吾輩も手加減が上手くなったであろう!」
「うんうん。よくできました〜。あとはこれをギルドに引き渡したらオッケーだね〜」
「こ、これが手加減……?」
「前の団長はね〜、こういう奴らは容赦なく殺そうとしてたんだよ〜。流石に殺すのは可哀想だからさ〜、止めるのが大変だったよほんと〜」
さっきまでの団長が嘘だったかのように、急にほんわかした雰囲気が辺りを包む。団長の周りには花が浮いているように見えた。
リリスも圧倒的にボコボコにされた盗賊団をみて、若干引いている。
「よし、こいつで最後だ」
「じゃあ、しゅっぱ〜つ!」
こうしたトラブルはありつつも、俺たちは無事王都のシルヴァー団拠点に着くことができた。
辺りは橙色に染まり、ポツポツと星の光が瞬き始めていた。
「では、吾輩は盗賊共を突き出してくる。」
「はーい、いってらっしゃいませぇ〜」
俺たちは拠点の前で団長と別れ、副団長は金色に輝く鍵を取り出して拠点の扉を開けた。副団長に続いて俺たちも中に入る。
扉を開けてすぐは、共用スペースのリビングになっているようで、左の方に上へ登るための階段が見えた。
「じゃ、部屋案内するね〜」
そう言われ、俺とリリスはついていく。
玄関からリビングに入って右側。
「ここはお風呂とトイレ」
リビングに戻り、上を指差す副団長。
「2階に各自の部屋があるよ〜。部屋は空いてる好きなとこ使ってね〜。そして……」
副団長はクルリと回り俺たちの方を向く。そして手を大きく広げながら言った。
「ここがリビング!基本的にリビングで情報共有、報連相をするよ〜。そして階段の後ろのスペースに台所があるよ〜」
階段の方を指差し言った。
「一通りこんな感じかなぁ。何か困ったことあったら言って〜。」
俺とリリスは静かに頷いた。
「よし、それじゃ新たな仲間が加入したわけだし……やることは決まってるよね!はい、リアムくん答えて!」
……?やること……?
仲間が加入。メンバーが増える。人数が増える。大人数ですること……?
俺はしばらく考えた。真剣に考えた。
「……んと、今から依頼でも受けに」
「ちがーう!!」
……食い気味に言われてしまった。
こほん、と咳払いをし、副団長が口を開く。
「やることといえばそう!歓迎パーティさっ!」