鎧と回復
ーードォォォォン!!
「……っ!?」
すごい音に驚いて思わず目を開ける。
ーー何が起ったのだろう。
ダークウルフが倒れていて、その上に、頭の上から赤い毛が垂れている鎧を身につけている体の大きい人がいた。
とても怖そうな雰囲気を醸し出している。
「君、ちょっと貸して!!」
「えっ……?」
いきなり声をかけられ驚くと、鎧の人とは別に、綺麗な女性がいた。ベレー帽のような緑色の帽子を被り、緑色のマントをしている茶髪の人で、その人はお兄ちゃんを床に寝かせ、何か魔法をかけ始めた。
私はハッとして女性に声をかける。
「ちょっ、ちょっと待ってください!お兄ちゃんに変なこと……」
「大丈夫だ。レレを信じろ」
鎧の人に声をかけられた。レレさんは、おそらくこの人の仲間なんだろう。目元は暗くて見えないが、なんとなく睨まれているような、目力が伝わってくる。
「っ!傷が……!?」
お兄ちゃんの方に目線を戻すと、あんなに酷かった傷が綺麗さっぱり塞がっている。
「レレは超回復魔法が使える回復魔術師でな。死んでなければほとんどの傷を回復させることができる」
時間はかかるがな、と鎧の人は付け加えた。
「終わったよ〜。しばらくは絶対安静ね〜」
早い!?時間がかかるって……?
「あっ、あの!ありが……」
「じゃあ僕は他の人の治療に行くから!!」
「あっ……」
早口でレレさんはそう言って、去ってしまった。
「行っちゃった……」
「そう残念そうにするな。また会える。それじゃあな」
「あっ、危ないところを助けていただき、ありがとうございました!!」
そう言うと、鎧の人は振り返らずに手を振って、レレさんの後をついていった。
「うっ……」
「……っ!!お兄ちゃん!」
お兄ちゃんが目を覚まし、私は思わずお兄ちゃんに飛びついて泣いてしまった。
すると、お兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
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「ほら、あそこ」
リリスが指差した先を見る。すると美人な女性が怪我人に魔法をかけていた。
「綺麗な人だよね。あんな女性に回復魔法かけられたら、恋に落ちちゃうんじゃない?」
「俺は落ちてないぞ」
「お兄ちゃんは別だよ」
超回復魔法。それは普通の回復魔法を超強化したような魔法で、大体の傷は治すことができるし、回復魔法より時間をかけずに治すことができる。
しかし、使える人間は珍しく、ある程度は魔法に詳しくないと出来ず、魔力量が多くいけない等……
つまり、"魔法の才能"があるものしか使えない魔法となっている。
それに、ダークウルフを一撃で倒したらしい鎧のやつ。確かに、強者のオーラが感じられる。
あの2人、何者なんだ。
「………」
「……レレ、どうした?」
「……いや、なんでもないよ〜」
「そうか」
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「さて、それじゃ病み上がりで悪いけど、君たち兄妹にも事情聴取させてもらうね〜」
あの洞窟で手当が終わった後、今回の被害者は町の病院に移動した。そこで怪我等のチェックをしつつ、事情聴取を受けることになった。
そこで俺たちは包み隠さず全て正直に話した。
「……なるほど〜。君たちすごいね〜!緊急事態にこんなすぐ適応するビギナー冒険者はなかなかいないよ〜!ねっ、団長?」
「ああ。褒めて遣わそう」
何故か上から目線で褒められた。
「そこで、だ。レレ、相談がある」
「なぁに?団長」
団長、と呼ばれる鎧男に目線を向ける。
鎧男は急に立ち上がり、こう言った。
「この2人をうちの団に入れようと思うんだが」
「……は」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
「ちょっと団長、聞いてないんだけど!」
「今決めたからな」
「そうやっていつも急に決めて!」
「どっ、どうしよ、お兄ちゃん!」
これは……予想外の展開になったな。
複数人でチームを作って依頼を受けることができる、「団」というシステムが、ギルドにはある。
団にもランクがあり、ランクが上なほど上位の団になる。
団としてギルドに登録すると、ギルドから直々に依頼が来ることがあり、上位の団はギルドからの依頼をこなして生計を立てていることが多い。
ギルド直々の依頼は、俺たちが今やっているような依頼よりも報酬が多くもらえるらしい。
だが……
……ダークウルフを倒したこと、超回復魔法を使えること。それらを考えるとBかAランクはある団だろう。
そうなると難易度の高い依頼が来るはずで、危険度も上がる。リリスを危険な目には遭わせたくない。
「……俺だけ入るというのは」
「無理だ」
……食い気味に言われてしまった。
依頼の高額報酬には興味があるが、命あってのものだ。ここは断……
「この団に入れば、お前たちが置かれている現状を、全て変えることができるかもしれないぞ。」
「……もっと詳しく聞かせろ。」
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それから、団に入ることのメリットを鎧男から聞いた。衣食住についてや、金の話等。
おまけに……
「で、でも私たち、悪魔の子と呼ばれる容姿をしてます。迷惑をかけてしまうんじゃ……」
「そんなのは気にしなくて良い」
……だそうだ。ここまでくると怪しさも出てくる。俺たちを使い捨ての駒にでもしたいのか。
「だいたい何故俺らなんだ?俺たちのランクはEランク。平均以下だ」
「それは間違ったランクだ。レレ、お前からみて2人はどのくらいのランクだ?」
「……2人とも、Cランクは行ってるんじゃないかな。悪魔だと言われ、差別される人たちの間にはよくあるものだよ」
ギルド側からの差別。その一つに、ランクを実力より低く認定する、と言うことがあるらしい。
なんとなくそうだとは思っていたが、やっぱりそうだったのか。
「……吾輩はお前らを気に入った。強さも申し分ない。だから団に入れたい。それだけだ」
そんなに警戒するな、と俺の方を見て言う。
「それに……」
鎧男はこう付け足した。
「お前たちのような者の差別を、無くすことができるかもしれぬぞ」