洞窟の出来事
ーーグォォォォオオ!!
ダークウルフの攻撃がくる。それを躱して、リリスから距離を取るために走る。
今の攻撃で分かったが、ダークウルフの攻撃は掠っただけで致命傷になりうる。攻撃を躱すのもそう長くはできないだろう。
「おい!まだか!早く道を作れよ!!!」
「無茶言わないでください!これが限界ですよ!」
「もうお終いだ……僕たちはここで死ぬんだ……」
「貴方も少しは手伝ってください!さっきまでデートやらなんやら言ってたでしょう!?」
「あの悪魔が囮になってる内に早く掘れ!!あいつが死んだら次は俺らだぞ!!!」
焦りをたっぷり含み、叫びながら会話する声が聞こえる。長引けば全滅は免れない。
「ーーリリス、頼んだぞ」
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「はぁ……っ!やっと岩を砕けたっ……!」
はやく、リーダーさんの魔道具探さないと……っ!
「うっ……」
辺りは血の海。でもそんなこと気にしている暇はない。足が血に染まっていく。
リーダーさんの死体を見つけ、魔道具を探す。
ーーない……ない……早くしなきゃ。早く、早く早く早く早く早く!!!
……っ!あった!!!
確か、魔道具を起動するには魔力を込める必要があったはず。
私が魔力を魔道具に込めると、魔道具は光だした。
これで助けは出せたはず。
……改めて、死体を見る。
「……ごめんなさいっ……!私がもっと早く気づけていたらっ……!」
その刹那、ダークウルフの耳をつくような雄叫びが聞こえた。
そうだ、お兄ちゃんはまだ戦っている。
ダメ。悔やむのは後。お兄ちゃんの加勢に行かなきゃ。
そう思い立ち上がった瞬間のことだった。
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順調に攻撃を捌けている。さっき、魔道具が発動したような光も確認できたし、あとは攻撃をかわしていけば助けが来るはずだ。もう体力も残り少ないが、持ち堪えて見せる。
あと少し。
そう思った刹那、ダークウルフは雄叫びをあげた。
なんだ?急に雄叫びをあげて……っ!?
ダークウルフによって壊された壁の奥から、次々とウルフが出てくる。
そして、ウルフの目線はリリスに向かっていた。
「クッソ、まだ魔物が残ってたのかよっ!」
リリスが危ない。急いで助けなければ。
「リリスっ!!!」
「ーーっえ?」
俺は、力を振り絞ってリリスの元まで行き、リリスを押し飛ばした。
「っ!?お兄ちゃん!!」
なんとかリリスを守れたみたいだ。
ーーだが、代わりに俺はウルフの大群に飲み込まれてしまった。
「ぐっ……!お兄ちゃんから離れろぉぉぉぉぉ!!
吹雪っ!!!!!」
ーービュォォォォォ
ーーパリィィィン!!
リリスの魔法で凍ったウルフを、俺が叩き割る。
ウルフに少し噛まれたりはしたが、大した傷ではなかった。
「お兄ちゃん!だいじょ……」
ーーだが少し、遅かったみたいだ。
「ーー……げほっ……」
口から出てきたのは、血だった。
腹が熱い。
どうやら、ウルフに構っている隙にダークウルフが爪で腹を刺してきたらしい。
力を絞りに絞って、ダークウルフの指を切る。
その反動でダークウルフは暴れるが、とりあえずそのまま喰われることは避けられた。
……こんな時でも、俺の思考は回ってるくせに、視界はぼやけているし、音もぼやけて聞こえる。
目の前にいるのは……リリスか?
まぁ、リリス以外に俺に寄ってくるやつなんかいないか。
……リリス、そんな泣くなよ。
眠くなって……きたな……
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「あっ……あ……おにいちゃん、血がぁっ……!」
血が止まらない。止まらない。止まらない。
どうすればっ……!どうすればっ!!!
まただ。また、私のせいで私の大事な人は死んでいく。
私がもっと早くウルフに気付けていたら。
私がもっと強ければ、足手纏いにならずに済んだのに。
私が……私が、お兄ちゃんの代わりになればよかったのに。
「……リ、リス……そん、な……泣くな……ごほっ……」
「喋らなくていいからじっとしてて!!」
お腹から溢れ出る血。段々と冷たくなっていく手。
嫌な想像をしてしまうが、それを必死に振り払う。
「……っ誰か!助けてくれませんか!?」
「うるせぇ!!悪魔が死んだって喜ぶやつしかいねぇよ!!黙って囮になってろ話しかけんじゃねぇ!!」
……そうだよ。こう言われることなんてわかっていたことだよ。
でもっ……
「誰でもいいから助けてっ!!!」
叫んだところで状況が変わるわけがない。みんな、自分が助かることで手一杯だ。
暴れていたダークウルフは、いつのまにか落ち着きを取り戻していた。
指を切られたことで怒ったダークウルフは、こっちに突っ込んでくる。
……どうすればいいのか、わからない。
周りの光景がゆっくりになっている。
あぁ、これが死ぬってことか。
もういいや。
私は、諦めた。ゆっくりと目を閉じる。
お兄ちゃんを、家族を死なせた奴が生きてていいわけない。私は所詮不幸しか運ばない……
ーー悪魔の子だった。