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呪いをかけられて……

 

「くっ……こんなもの!」


 流石にそれだけの数を武器で切り払うのは無理があったのだろう。鎧騎士は、ごみを体に受けながら一瞬のためを作った後正面に突進をした。

 その突進は今まで通りその直線状にあった『手』とゴミを弾き飛ばして突き進んだ。


 そうだよな。そうすると思ったよ。でも、それは隙になるよな?


「ガッ––––!?」


 鎧騎士が突進を終えて方向転換をしようと速度を緩めたその瞬間、馬上にいた騎士は何者かに殴り飛ばされたかのように短く声を漏らし、吹き飛ばされて地面を転がることになった。


「星熊さん!?」


 そんな一連の流れを見ていたレイチェルは驚いたように叫んだが、そうだ。正面から戦っても大した役には立たないと判断し、瞳子には最初から戦いには参加せずに潜んでもらっていた。

 俺と戦っていればそのうち隙ができるだろうから、そこをねらってくれと言って。


 その結果がこれだ。殴り飛ばされて地面に転がっている騎士はすぐに態勢を整えようとするが、そうはさせない。

 俺の『手』が騎士の体を拘束し、逃げられなくなったところで瞳子が追撃の蹴りを騎士の頭に繰り出す。


 騎士が何かをしようとすればその動きを俺が止め、瞳子が攻撃をすることで騎士を一方的にボコボコにしていく。


 それでもまだ足掻こうとする騎士だが、もう終わりだ。


「がふっ……」


 高速が多少緩んでも逃げ出せないくらいに消耗したところで、俺はいくつかの『手』に武器を持たせ、そのすべてを騎士へと突き刺した。


 全身を剣で貫かれた騎士は、器官か肺を傷つけたんだろう。盛大に血を吐いて倒れ、完全に動きを止めた。

 だがまだ生きている。流石は『祝福者』。その生命力はすさまじい。

 けど、もう終わりだろう。拘束なんてしなくても、もう戦うことはできないはずだ。


「なんとも、酷い戦いですね……」

「騎士様には悪いが、一対一の決闘じゃないんだ。それに、そっちだって仲間使って陽動なんてしただろ。これだけの騒ぎを起こしておいて、今更正々堂々や騎士道なんて語るなよ?」


 ゴミを投げられるとか伏兵を使われるとか、騎士らしくない戦いだったことだろう。でも、こうして卑怯な手を使うくらいしか俺の勝ち筋はなかった。祈がいれば正々堂々戦えたのかもしれないけど、祈は今この場にいないんだから言っても意味ないことだ。


「はは……それも、そうですね」


 騎士がそう言って笑うと、纏っていた鎧も、馬もスッと光が溶けていくかのように消えていき、後に残ったのは全身を赤く染めた死にかけの男だけだった。


 そんな男に向かってレイチェルが近づいていくと、男は倒れたままレイチェルへと顔を向け、口を開いた。


「姫様……おそらく、作戦がうまくいっていれば、他の王族の方々は、亡くなられているでしょう。少なくとも、陛下は仕留めているはずです。これから先、あなたは苦労することになるでしょうけれど、よりよい国を……私のような被害者をだすような、愚かな真似を、しないでください。でなければ、きっとまた私と同じような存在が、現れることとなるでしょう」

「サー・オズボーン……」


 オズボーン。それがこの騎士の名前のようだ。

 事情は知らない。知りたくもない。そんなことを聞いても、普通に生きる上には何の役にも立たないどころか、むしろ足を引っ張るだろうから。


 ……でも、その行動には何らかの信念のようなものがあったのだと思うと、その手を取りたくなってくる。


 駄目だな。〝願い〟に引き摺られ過ぎだ。何を言おうと、どんな事情があろうと、こいつが敵なのは変わらないんだし、同情なんてしてはしてはいけない。


「これが、私からあなたに贈る、呪いです……」


 そう言って倒れながらも剣を抜き、レイチェルへと突きつけた。

 だが、その切っ先がレイチェルに届く前に剣は騎士の手から音を立てて落ち、騎士の腕もまた力を失い地面へと落ちた。


「……その呪い、しかと胸に刻みます」


 先ほどまで自分に向けられていた剣を拾い、レイチェルは自身の前に剣を構え、瞑目した。


「レイチェル。そろそろ移動しよう。流石にここに居続けるのは危ないし、できれば少し休みたい」


 できることならば少しくらいそっとしておいてやりたいところだが、今は状況的にそういうわけにもいかない。


「あっ……! 申し訳ありません。ですが、その前に少しよろしいですか。皆さんを回復させなければ……」

「できることならさっさと移動したいところだけど……手短にな」


 結構長い間ここにいたし、派手な戦闘音だってしたんだ。追加の敵が来ないとも限らないしさっさとこの場所から去りたいところだけど、周りに怪我人がいるのも確かだ。


 さっきの騎士に攻撃されたんだろうけど、死んでいる軍人や衛士たちもいるが、半分以上は怪我をしながらも生きて倒れているだけだ。

 だが、今は生きているとしても、このまま放置しておけばそのうち死んでしまうかもしれない。

 そんな状況を、レイチェルが見捨てていけるとは思えない。ここで説得しても無駄だろうな。


「回復って……結構怪我人いるっぽいんだけど、うちらが来る前から治してたんでしょ? やばくない? 後どんだけ使えるわけ?」


 レイチェルが倒れている人たちに治癒をかけていくのを見ていると、瞳子がレイチェルに近づいて行ったが、確かにあとどれくらい使えるんだろうか? レイチェルのはスキルだし、祝福よりも効率は悪いはずだ。それで何人も助けたとなれば、もうそんなにたくさん使えるとは思えない。


「あと少しだけです。もう一度この場にいる全員を、と言われても不可能でしょう」


 とはいうが、もう既に限界が来ているのではないだろうか。スキルを使うレイチェルの顔には脂汗が浮かんでいる。


 少しくらいなら手伝っても平気だろうか? こんな状況であれば多分俺が何かをしてもバレないだろうし。


 なんて思ったその直後……


「え?」

「ん?」


 カツン、と音がしたのでそちらを見ると、何やら武骨な楕円のような塊があった。

 いや、というかあれって……


 そう気づいた直後、ドカンッ! と腹の底から響くような轟音と衝撃、そして肌を焼きつくすような熱が俺達を襲った。


「おい……。おいっ! 瞳子! レイチェル! 無事か!」


 おそらく今のは手榴弾だろう。一瞬だったけど、その形状は間違いなくそれだった。そして、爆弾だと気づくことができたからこそ、あの一瞬で『手』を自分の体に巻き付けて衝撃を軽減することができた。元々『祝福者』ということで身体能力も素の人間よりは高くなっていることもあり、大した怪我はなく済んだ。


 一応レイチェルと瞳子の前に伸ばしていたから多少なりとも効果はあったと思いたいが……。


 衝撃で吹き飛ばされた俺はすぐさま起き上がり、『手』を周囲に伸ばして守りを固めながら

 辺りを見回しながら二人の名前を呼んだが、返事はこない。その代わりというべきか、別の声が聞こえてきた。


「まさか、今ので生きてるなんてね。やっぱりその腕で守ったのかな?」


 瞳子でもレイチェルでもないまったく知らない奴の声。

 その声の方向を見ると、そこにはパンクな格好をした一般人のような少女が立っていた。

 見た目は明らかに一般人。だけどこの状況で堂々としていることも、俺にかけた言葉も、とてもではないが一般人のものだとは思えない。


「でも、もう腕がうごかないみたいだね。何本もの腕が破壊される痛みは堪えたってところかな?」


 どこか楽しげに話しているお気楽そうな少女。多分歳は俺達と同じくらいなんじゃないだろうか? 外国人っぽいからどこまで見かけがあっているかはわからないけど。


 この少女は何者で、何の目的でこんなことをしたのかさっぱりわからない。わからないが、警戒しないわけにはいかない。


 だが、俺の警戒をよそに、少女は話しながら先ほどの爆発で吹き飛び、地面に転がっている騎士の体へと近寄っていった。


「国に裏切られたって言っても、まあ『祝福者』なわけだしい? 国のことが大事になって土壇場で裏切るかも~、なーんて思って監視してたんだけど、取り越し苦労ってやつだったかな?」


 騎士の体のとなりでしゃがみ、騎士のことを指先で突きながら話していた少女だが、最後に立ち上がると騎士の体をつま先でこつんこつんと何度も蹴っていった。


 その蹴りに力はなく、甚振るとか死体を辱めるとかそういった意図はないのだろう。ただ何となく足をぶらつかせ、近くにあった物体を蹴ってみた。多分そんな程度の気まぐれだ。


 でも、そんな行為が無性に腹が立つ。


「でもまあ、結局あいつは『聖女様』を殺せなかったわけだしい、追加でやってきた『祝福者』も一緒に仕留められたんだから、来た意味はあったかな? あ、『祝福者』の方はまだ仕留められてなかったっけ」


 蹴るのに飽きたのか、少女は騎士からこちらに意識を向け直すと、にこりと醜悪に笑いかけてきた。


「でも~、これでおしまいだけどね。それとも何か足掻いてみたりするのかな?」


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