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狙われた理由

 

「なあ、これからどうすんだよ!」


 レイチェル達とも合流を果たしたことで、じゃあ今度こそ部長のところに、と歩き出そうとしたところで一人の生徒が苛立ったように叫んだ。


「部長と合流する。その後どうするかはその後に決めるから、今は––––」

「佐原がいれば大丈夫だろ? だって、『祝福者』なんだからさ。な? 大丈夫だよな? みんなもそう思うだろ?」


 またそれか。この状況じゃ『祝福者』っていう肩書は大層頼りになるものなんだろう。その生徒の言葉に同意する様に、他の生徒達も叫びはしない者の口々に俺の名前を出して縋るような視線を向けてくる。


 その言葉が、その視線が俺の心を締め付ける。


 助けたいと思ったことがある。助けろと使命感が湧いてくる。助けなくてはいけないんだと強迫観念のようなものが襲ってくる。


 状況的には仕方ないことだ。こんな状況なんだし、まだ学生であるこいつらが怯えて、何かに縋りたくなる気持ちも分からなくはない。


 ––––でも、〝こんな奴ら〟を助けないといけないのかと思うと、心が波立つ。


「静粛に!」


 それでも助けないわけにはいかない。そう思い、一度だけ深く息を吐き出してから応えようとしたその時、レイチェルが叫んだ。


 普段は大人しい様子しか見せない彼女が叫ぶだなんて珍しい。そう思ったのは俺だけではないようで、それまで俺に縋るような音を発していた生徒達も一瞬にして黙ってしまった。


 そして、そんな生徒達に対してレイチェルが語り掛ける。


「皆さん、今は緊急事態です。佐原さんは確かに頼りになるでしょう。ですが、彼も一人の人間なのです。すべてを守ることはできませんし、私達も全てを彼に任せるべきではありません。自分の身は自分で守らなければならないのです。我が国での不祥事に巻き込んで終い、誠に申し訳なく思いますが、どうか協力していただけないでしょうか」


 レイチェルとしては、当然のことを言っているだけなんだろう。

 だけど……いや、だからこそその言葉が心に響いてきた。


「うちらだって学園の生徒っしょ。だったら、みっともなくビビってるより立ち向かわないと。そっちの方が全然かっこいいじゃん!」


 レイチェルに続いた瞳子の言葉で黙り込んだ生徒達。

 まるで俺をかばうようにみんなの前に出て叫んだ二人を見て、少しだけ胸の奥の痛みが薄れてきた気がした。


「いや、でもよ……」

「ってかさ、せいっちは一年なのに、上級生まで縋りつくとかプライドとか無いわけ? めっちゃダサいんだけど」


 それでもまだ言い縋ろうとして来る生徒もいたが、そのセリフを途中で遮るように言われた瞳子の言葉で、うっと怯むように黙ってしまった。


「それでは移動を始めます! 皆さんはぐれないように、そしていつでも何者かの襲撃や事故に対応できるように警戒と準備をお願いします!」


 そして、結局それ以上は誰も何も言ってくることはなく、俺達は部長の部屋に行くべく再び歩き出した。


「……申し訳ありませんでした。佐原さん」


 階下に行こうと階段を下りている最中、そばに寄ってきたレイチェルが内緒話でもするかのように小声で謝罪をしてきたが、それは何に対しての謝罪だろうか?


「なにがだよ。この騒ぎだって、お前が意図したものじゃないだろ。それより、みんなを説得してくれてありがとう。瞳子もありがとな」


 この状況も、さっきの騒ぎも、レイチェルのせいではないんだから謝る必要なんてどこにもない。


 そのついで、と言うと悪いけど、さっきの騒ぎの時からまだ感謝を告げていなかった瞳子にも感謝の言葉を継げる。


「いや、別に……うちは普通のこと言っただけだし。せいっちにばっか押し付けるのは違うじゃん」

「私も同じです。いえ、違いました。私の場合は自国での騒動なのですから、まったくの善意ではありません」

「それでも、ありがとう」


 そう言ってもらえただけで十分だ。それだけで俺はまだ〝大丈夫〟でいられるから。


「それで、今回の件って何か思い当たることはあるか?」

「おそらくは私ではないかと思います」


 まあそうだろうな。いくつか可能性があるが、その可能性は高いだろうし、今俺達が最も警戒すべき可能性がそれだ。

 そして、そんな俺が思いつくようなことをレイチェルが思いつかないわけがない。


「以前より狙われていましたが、そのことは佐原さん達もご存じでしょう?」

「まあ、実際にその現場に遭遇したし」

「なんだったら実際に襲われたし解決もしたしね」

「その節はありがとうございました。ですが、あれがすべてではありません」


 以前俺達は京都に行ったときにレイチェルを狙う組織––––クリフォトの襲撃を受けていた。あの時は何とか撃退することができたけど、当然ながらあの戦いで組織自体が壊滅したわけではない。

 ……そういえば、あの時も旅行クラブの活動中に起こった出来事だったな。このクラブ呪われてるんじゃねえの? ……なんて冗談はやめておこうか。そんなことを思ってると本当になりそうだし。


「そもそもさ、なんでレイチェルが狙われるわけ? やっぱお姫様だから?」


 首をかしげながらの瞳子の問いかけに、レイチェルは首を横に振って答えた。


「スキルは祝福から生み出されたものだということはお二人もご存じのことですが、その中でも『癒し』に関する系統はその発現者が少ないのです」

「知ってる知ってる。誰かを助けたいって心から願わないといけないけど、そんな人って多くないからでしょ」

「はい。ですが、少ない代わりにその効果は絶大です。能力次第で程度の差はありますが、腕が取れようと目が潰れようと、癒しを受ければすぐに復帰することができます。なんだったら、そうなってしまった直後であれば、首が切り落とされようとも。それは、戦っている相手からすれば脅威でしかありません。ともすれば、前線で戦っている『祝福者』達よりも、『癒し』のスキルを持っている者の方が厄介と思えるほどに」

「だから、悪いことをする奴らとしては、『治癒』系統のスキル、あるいは祝福の保有者は優先して殺しておきたいと」

「はい。数が少ないため、一人でも処理することができればそれだけで十分な戦果となりますから」


 まあ、敵としてはその辺重要だよな。こちら側の最高戦力を潰したと思ったら翌日には復活してました、なんてことになったらそれまでに費やしたリソースが全部パーだ。

 何か大きなことをする前にはできる限り癒しの能力を持ったやつを潰しておきたいものだろう。


 その考えも『治癒』の能力者が希少でなければいろいろと変わっていたのかもしれないけど、あいにくと『治癒』の能力者は限られている。確か能力者全体の一パーセントもいないんじゃなかったか? 正確には覚えてないけど、レイチェルならわかるだろうか?


「ちなみに、今世界中で『治癒』系統の能力者が何人いるのか、とか分かってるのか?」

「詳しくは分かりませんが、私が聞いた限りでは百人もいないそうです」


 一パーセントどころの話しじゃなかったな。全国で百人未満て、少なすぎだろ。


「あー、そりゃあ確かに狙いたくもなるな」

「それだけしかいなかったんだ。狙われるのも当然って感じだよね」


 百人未満ってことは、まあ最大でも百人殺すつもりでやればいいわけだし、その程度の数なら十分作戦として成立する。

 これが一万くらいいるんだったら……いや、千人くらいでも状況は変わったかもしれないが、百人しかいないんじゃな……


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