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ホテルでの一幕

 

「あなたはどちらかというと一般人ではありませんが……むしろ多少の無理をしてでも呼びたい賓客です」


 まあ『祝福者』だしな。

 俺は一般家庭の生まれで育ちがだが、『祝福者』だ。

『祝福者』という存在を一人でも多く確保しておきたい国としては、多少の無理や無茶があったとしても仲良くなっておきたいと考えるのはおかしいことではないだろう。


「なら、どうして呼ばなかったんだ? そんな大事な客を呼ぶためなら、その他大勢のメンバーも追加で呼ぶ程度の手間をかけても良かったんじゃないか?」

「実際そうしようという案もありましたが、あなたはそういう大げさにされることを嫌うのではありませんか?」

「……まあ、そうだな。そうと決まったんだったら否定はしなかっただろうけど、心から喜んだかどうかって言われると……どうだろうな」


 呼ばれたら呼ばれたで諦めて参加しただろうし、せっかくだからと宮殿の中を見て回ったりして楽しんだだろうけど、呼ばれたこと自体を喜んだかって言われると、多分そんなことはないだろう。その呼んだ相手が王族であろうと誰であろうと、俺にとってはそんな特別扱いなんていらないんだから。


「ですからお呼びしませんでした。あなたに嫌われてまで呼ぶ必要はありませんし、あなたを呼べないのであれば他の方を招待する意味はありませんから」


 俺が『祝福者』だからってそんなに重要視されるのは、少し気後れするな。俺は俺自身にそんなかちがあるだなんておもっていないんだから。


「そんなに重要人物として扱ってもらって嬉しい限りだよ」


 だから、そんなふうに皮肉げに返してしまったが、それでもレイチェルは嫌そうな顔をすることもなく、代わりに少し不思議そうな表情を返してきた。


「あなたは、ご自身の立場や価値を理解していないのですか?」

「してるさ。してる上で、くだらないって思ってんだよ。上っ面だけの親しみに何の意味があるってんだ」


 俺だって『祝福者』という立場が重要なもの、大事なものだっていうのは理解しているさ。

 でも、俺が『祝福者』だってことと、俺個人と仲良くしたいと思うのは別の事だろ。

 それなのに、俺の周りにいた奴らはみんな『祝福者』に近づくために笑みを浮かべて近寄ってきた。

 まったく、なんてくだらない事をしてるんだか。あの態度を見れば、だれだって呆れるもんだっての。


「––––っと、時間だな。他の奴らも来始めたみたいだ」


 話している途中で他の部員たちが来たことで、俺達は話を切り上げて合流することにした。


 ——◆◇◆◇——


 部員達が全員集まった後は普通にホテルの中に入り、割り当てられた部屋に分かれていったのだが、今は夕食のためにもう一度集まったところだった。


 その夕食も終わり、各自談笑していたり部屋に戻ろうとしたりと分かれたが、俺は一人で部屋に戻る派だ。多少話せるようになったとはいえ、まだ俺と他の部員たちの壁は存在しているのだから仕方ない。みんなだって、『祝福者』なんて自分とは違う存在と接しろと言われたら引け目を感じてしまうものだろうし。


 まあ、それでも食事の途中で話をしたり、その後に軽く言葉を交わすといった普通の会話はできるようにはなったので大分進歩したな。それに、夕食もおいしかったし、流石は高いホテルなだけあるな。


「どうでしたか、お食事は」


 なんて満足しながら部屋に戻るべく歩いていると、エレベーターの前でレイチェルに話しかけられた。見れば彼女一人のようだが、護衛達はどうしたんだろうか?


「ん? ああ、普通にうまかったよ。なんていうか、こういったらなんだけどイギリスってメシマズな雰囲気あったから少し心配してたけど、おいしいものは普通においしいんだな」

「特徴的な食べ物があるのは事実ですが、全てが同類というわけでもありませんから」


 俺の言葉にレイチェルは苦笑しているが、イメージが悪かったのは本人も自覚しているのだろう。まあ、悪いイメージの大半が今風なものではなく昔ながらの伝統的なものに対してだから、ちゃんとしているレストランなんかは普通においしいらしい。


「みたいだな。ただ、量が多くねえかとは思ったな」

「そうですか?」

「ああ。まあこれは軽食でスコーンとかを食べたからっていうのもある、というかそれが理由の大半だろうけど、お前の方はよく入ったな」


 レイチェルは不思議そうな顔をしているけど、普段お菓子とか食べない俺としては三時のおやつなんかで色々と食べたのが腹に溜まっていた。そのせいで夕食に出てきた量は少し多いと感じていたのだが、レイチェルはその細い体によく入ったもんだとある意味感心してしまう。


「最近は学生として生活していたのでそれほどでもありませんが、元々私の場合はあれが普通ですので」

「ああ、そうだったな。でもまあ、美味かったのは本当だな」

「そうですか。それならよかったです」


 と、そこでエレベーターがやってきたので乗り込んだのだが、レイチェルは立ち止まったままだった。


「乗らないのか?」

「いえ、皆さんが待っていますから」


 ならなんでここで待ってたんだって話になるんだが、まあ俺と話すためだろうな。


「……明日もよろしくお願いします」

「ああ。こっちこそよろしくな」



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